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大型の魔物が出没したってのは聞いていた。このヘンにもいるんだなーって思ってた。


街道や人里の結界は牧場の柵みたいなもんで、どっかに穴があれば獣や魔物が入り込んでくる。わたしが招かれた作業現場はまさにそれ。しかも定期点検で見つかったわけじゃなく。最悪に近い形で判明した。


たまたま街道を旅していた冒険者ギルドのひとたちが大型魔物に遭遇したのだ。



獣はもちろん魔物だって昼日中の見通しよい場所で複数の人間を襲うのはめずらしい。こちらに対抗手段があることを知ってるから。街道付近はぼちぼち人通りがあるし、本能的に敬遠するものだ。


但し、大型以上になると話が別になる。彼らはそのデカさに育つまで人間や他の生き物たちを一方的に食らってきた強者なのだ。隙あらば襲いかかってくる。


その「隙」は結界のほころび程度で十分。


不幸にして通りすがりの冒険者が出喰わした大型魔物。なんとか返り討ちにはしたものの、やはり相当に手強かったそうだ。


戦いの結果、街道の一部がぶっ壊れたほど。



一般人だったらヤバかった、ギルド員でよかったとみんな言ってたけど、その戦闘で一人亡くなってんだよね……。その人は村の墓地に埋葬された。遠方の出身で、故郷には遺髪を届けるとか。


そんでも、よかった、なんだよねぇ。


出喰わしたのが村のひとたちだったら、たぶん一方的にやられてたもんね。一人、二人が食べられてる間に残りのひとたちは逃げられるかもって状況。


たまたま遭遇したのが冒険者で、多数の被害を出す前に魔物を退治できたのは不幸中の幸いなんだ。


それを理解してるから、みんなよかったんだって言う。決して冒険者たちの命を軽んじてるわけじゃなくてね。むしろ冒険ギルドのひとたちこそ率先してそういう風に言いそうだ。



でもやっぱさ。


怖いわけよ。



こんな一軒家サイズの魔物なんて!!



ひいぃぃぃいいい!!


牙! 口! うなり声!


いやあぁああああああああぁぁあああぁあ!!



――結界!


怖かったので閉じ込めた。


――電撃!電撃!電撃!


バンバン撃った。結界のなかだけで影響はおさまるから。


ああでも空間を切り取った中に他に生き物いたかもごめんなさいごめんなさいごめんなさい。小鳥とか小動物とか逃げてますように。あんなのあらわれたらとっとと逃げてると信じておこうとりあえず今この瞬間は。


電撃で焦げた一軒家魔物は煙を吹きながら倒れた。ズゥウウンって凄い音を立てて。あんま直視できない。グロいの苦手だ。でも生きてるなら追撃せんとなー。


……し、しんだ?


ぴくりともしないな。よし。



「主、大丈夫か」



レンハルトがぎゅっと抱き締めてくれた。


うおぉぉぉぉ……。怖かった怖かったよぉおぉぅう。


こんなバカでっかいヤツ初めて出喰わした。今まで戦ったことがある(もちろん主にレンハルトやテオドールが)のはせいぜい馬くらいの大きさだった。


馬くらいの大きさで、哺乳類と昆虫類と爬虫類が入り混じったような姿をしてた。その上、魔法っぽいものまで使ってくるという。


混沌とした見た目は今回のやつも共通してる。蜘蛛っぽい足にぬるりとした胴体。ワニな頭部に蛇的な長い舌。でっかいくせに動きが妙にこう、カサカサとしたカンジっていうの? 昆虫っぽさがあってぞわぞわした。


子どもの頃は虫わしづかみしてたけど、今となってはカマキリとかトンボとかでもつかむの無理だなー。毛虫を手のひらに乗せたりしてた昔のわたしはどうかしてたとしか。



「無茶をする」


「何てこった。あんな戦い方、初めて見たぞ。魔術師の結界ってな、あんなに早くも張れるものなのか?」



リーダーさんが感嘆半分な口調で言ってくる。あとの半分は訝しむような。


……やば。


やりすぎた!? チートバレする!?


あ、だからレンハルト無茶だって言ったのか。サイコーにびびり腰ではあっても安全な方法でやっつけたのに何が?って思ってた。チート鈍い。頭脳がチートならよかったのに。


うう……木立ちから向かってくるの見たらパニクって咄嗟に加減できんかった。


困る。バレたところでチートなんだから困らんって言うほど使いこなせてないんだ。困る。三回言っとこう。困る。



「さあな」


レンハルトはあっさりと受け流した。首を傾げこそしなかったが、そんな雰囲気で。おひげなリーダーさんは実際に首を傾げた。


この二人、妙に気が合うなと思ってたんだけど、あれだよね、性根がまっすぐっぽいっていうの? そーゆーフンイキが似てるよーな。



「よそは知らん。うちの主は優秀だ」



いやだからほめられてうれしいけどただのチートですし! ってか悪目立ちしたくないのに優秀とか言わないでっ。うれしいのと困ったのでふくざつな気分に。


あでも、既にやっちゃった以上、堂々としてた方がいいか。



「結界はしょっちゅう使うんで得意なんですー」


「さすがですな。ギルドの方は優秀だ」



おう、よかった。ギルドの面子も立ったようだ。



「しかし、死骸(あれ)はどうしたものか」


「解体するには大きいですよね。時間も無いし、焼きましょうか」



昨日、無事に結界修復を終え、ただいま帰路。


作業には3日丸まるかかりました。着いた次の日から3日間。朝から晩まで。っても、ちょいちょい休憩はさんで。ええ、レンハルトに管理されてました。主は誰だと(略)


えーっと。


うちを空けてもう8日目かー。


予定では明日にはアスノイスの街に着ける。


ちょっとは早めに片づけられるかなって実は期待してたのに。やるのは自分だけどさ。結局ギルドの窓口さんの予想いっぱい掛かったよね。3日間って。チートなのに。


でも、サナル村唯一人の魔術師レフィリナお婆さまによれば、壊れた範囲の広さと修復後の調和のよさと安定感を考えたら素晴らしく早い方とのこと。うふ。めっちゃほめられたっぽい。うふふ。


サナル村の魔術師さん、いまはレフィリナお婆さま一人だけど、ちゃんとお弟子さんがおられます。修行でよそに出てるだけで、もうそろそろ帰ってくるんだって。



わたしもはやくおうちに帰りたいなー。みんなどーしてるかなー。



「燃消剤は何本ある?」


「5本ありますが、足りますかね?」



リーダーさんと兵士さんたちが相談してる。魔物の死骸は出来ればそれなりに始末してかないとね。


普段なら解体して素材とか採る。が、もう夕方だ。時間的余裕が無い。日が落ちる前に次の宿に着いておきたいよねー。


こういう場合は燃消剤って魔法薬をぶっかけて燃やし消します。チート翻訳ひねりないな。対魔物の戦闘が想定されるお仕事のひとは大抵何本かは持ってるもの。周囲に燃え移らないベンリ魔法。だから森林火災になる心配はありません。



「足りない分はわたしが燃やしますよ」


「いや、しかし。そこまでご無理をお願いするわけには」



あー。派手にぶっぱなしたもんなー。あれのあとで意気揚々と一軒家サイズの魔物を燃やすのはおかしいのね、やっぱ。


リーダーさんの一般常識を参考にしてやや控えめに微笑んどく。少しは疲れてるふうに見えるといいな。



「大丈夫です。あとちょっとだし、レンハルトに運んでもらうし」



旅程を早めるため、大の男たちの歩みを遅らせないため、移動中はレンハルトさんに抱えられてます。子どもか。つい半分うとうとしちゃって夜に寝つきが悪くなるのが困りもの。子どもか。



「そうですか。では、もし足りなかったら、お願いします」


「はい」



レンハルトに下ろしてもらって結界を解く。もちろん魔物を閉じ込めた結界の方。


うん、そうでした。街道には結界があるのでした。あんなにあわてふためくことはなかったね……。


たしかにこの手の結界はそれほど頑丈ではない。街道って国中をつなぐ長距離の施設に施されるんだもん、そんな強力なものを張ったら長期保全が難しい。誰でもちょいちょいで張ったり直したりできる程度の結界でないと。


だから街道の結界に大型魔物の攻撃に最後まで耐える強度はない。


とはいえ、いきなり襲われる心配はなかったんだよね。ここの結界はまだ壊されてないんだから、態勢をととのえるヒマくらいはあった。わたしがもっと冷静だったら。


でも一軒家だよ? 一般民家サイズの怪物がキシャーッて出現したらギャーッてなるよね?


……まぁ、ふつうはギャーッてなったら猛ダッシュで逃げるか。


ついうっかり結界で閉じ込めて電撃ぶっぱなすとか剣呑。チートこわい。サツバツ。これでも戦闘慣れしたって言うのかな?



兵士さんたちはそれこそ慣れた様子で、適度に警戒態勢をとりつつ、街道脇の木立ちのなかに魔物の死骸を片づけにいった。周りの倒木が邪魔くさそうだ。あれもどうせなら薪とかに出来そうなのにもったいないね。


レンハルトとわたしは待機。ああいう仕事は彼ら率先してやってくれちゃう。お客様扱い。ギルド紹介の魔術師だしね。


前方から青い炎があがった。魔法の火だ。兵士さんたちが手分けしてふりかけてまわった燃消剤が巨大な死骸を燃やし尽くしはじめた。



「ねぇ、レン。このヘンって大型が多いのかな?」


「どうだかな。多いってこともないだろう。行き帰りでまだ1匹だ」


「サナル村のとこにも出てたよね。結界壊したやつ」


「主の〝このヘン〟は随分と広いんだな」


「だって、あれぐらい大きかったら、こっからサナル村の現場まで夜のうちに着いちゃいそう。レンだって走ったら明日には着けるよね?」


「ん、まぁな」



いけるのかよ! 言ってはみたけど凄いスタミナだね。ありえないわー。


かるく自慢げにおヒゲそよがせてるレンハルトさんかわいい。ってのはともかく、その程度の範囲で大型魔物が2匹もうろうろしてたのかー。しかもどっちも街道まで出てきた。


これ、ふつうなの?


だとしたら、うちの街のご近所にもけっこうでかいのがうろうろしてるってこと? そんな依頼、あんま見なかったけどなぁ。他のギルド員さんたちがさくさく解決してるとか?



「またあっちらヘンに出てたら大変だったよねぇ。そう考えてみると、ここでわたしたちが見つけてよかったのかな」



少なくとも普通の旅人さんじゃなくてよかった。誰でもがギルドで護衛を雇うお金があるわけじゃないもんね。


……そうか。


みんなが「ギルド員でよかった」って言うわけだ。


あんなの普段から魔物退治にいそしんでる者たちが遭遇する方がいいに決まってる。だからこそあの場所で彼らは、仲間をひとり失っても踏ん張ったんだろう。


ってことは、さらに言えば、チートなわたしでよかったってことになるのか? な?


なにやら非常に気がひけるけども。


なにはともあれ犠牲者も怪我人もなく済んだのはいいことだよね?


……だからって大型魔物を倒すために各地を流離うみたいな正義感はさすがにないけどね! はっきり言ってわたしは自分がかわいい! ていうかうちの獣僕さんたちがかわいい!


なるべくまっとうな暮らしをさせてあげたいのだ。


これは正義感とか偽善とかじゃなく。


ほぼ 趣 味 です。スミマセン。


ほんとうに申し訳ないとは思うが、彼らの容姿ゆえにペット感覚が抜けないのだ。これはもうどうしようもない。かわいいものはかわいい。あの姿形(とくに頭部と尻尾)はどうぶつ好きのわたしのツボを打ち抜く。


茫漠とした平和のために彼らの生活を犠牲にするなんてムリ!


せかいへいわはどっかのヒーローにまかせるよ。ごめんね。


うちに帰ったら、またこれまでと同じように地道な依頼をこなして、同じように穏やかに暮らすのだ。



……はっ。フラグ建設っぽいフリをしてしまった!


ま、まあ、口に出してないし。


立っても全力でへし折る。エロフラグで懲りたもん。



あぁ、そうだね……。彼らはかわいいけど、それだけじゃなんだよなぁ。


思わずドキドキさせられちゃうくらいには色気もそなえてる。


まぁでもあれだ。もふもふ欲の前にはすべてが打ち消されてしまうのですが。





※以下オマケ。




今日も今日とてリーフェルト師がやってきた。


主のせいだ。


留守中のボクらのこと心配して泣きついたんだって。信じらんないよね。何なのソレ。そこまで不安がられるとさすがに男として自信なくすんだけど。


そもそもこのボクが日夜がんばって迫ってるのにオチてくれない時点で自信なんて粉々なのに。さらにすりつぶして無にかえそうって気なの? ふにゃふにゃしてるくせに嗜虐癖があるとしか思えないあのボケボケ主っ。


大体こないだマッサージしてくれたときだってなにあの満足げなカオ! してやったりなカオしちゃってさ! なんであんなに機嫌よさそうなわけ?


あんなカオするとうちのぼやっとした主でもちょっとコワイ。あんまり愉しそうだから、もしかしてついでにエロいことされんのかなって興奮した。損した。主なんかに期待しても無駄だ。


でも主のアレはキモチいい。くやしいけど。ボクだっていろいろできるのに。させてくんないから負けっぱなしだ。なんかくやしい。


そういうとこが主らしいと言えばそう。だから気がゆるむんだよね。あのひといくら誘っても反応薄いんだもの。襲われる心配しなくていいって気楽。


べつに今じゃもうナニされたって平気だけどさ。反応してるフリはする。フリっていうか、そういう状態になれる。でも心に何も感じない。感じないけど……ほんとに絶対ヘンなことされないって信用できちゃうのはまた別なんだ。


男として認められてないんだって自信なくすのも、それとはまた別の話。


留守番もできないって貶められるのも、もういっそキモチよくなりそうだよ主! 責任とってもらうからね!



それにしても、獣僕バカの主の泣き言を真に受けて毎日ちゃんと様子を見にくるんだから、リーフェルト師も律儀だよね。っていうか気でもあるんじゃないの?


……ないか。主にそんな甲斐性があるとは思えない。


あるとしても、んー……、珍獣に懐かれた気分?


あのひともあのひとでめんどくさそうな性格だもんね。うちの主みたいに気安く寄ってくひとはめずらしいんじゃないかな。としたら、むげにはしにくいっていうの? なんだかんだ言いつつもね。


あとあれだね、アルトのおやつが気に入ってるんだと思う。あちらにもあちらの生活があって忙しいだろうに、お茶に誘われると断らない。毎日おやつどきにくるわけじゃないんだけどね。さすがにそうそう定時には来れないよね。


すぐに帰るときも、アルトが「おみやげに」って焼き菓子を渡してたっけ。気がきく獣僕がいるおかげで主のムチャぶりのひどさもいくらか緩和されてるといいんだけど。


仕事で出掛けてるとはいえ、主もお土産のひとつくらいは買ってくるかな。前にボクのいた街まで来たときはあれこれ買い込んでたよね。


それ渡すついでにマッサージでもしてあげたらいいんじゃないかな!


リーフェルト師がどんな反応するか、ボクちょっと興味あるなぁ……。


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