表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄を告げた王太子は、泣きそうな顔で私に微笑んだ  作者: なごやかたろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/15

第八話 もうすぐ卒業

 卒業まで、あと二週間。

 季節は春から初夏へ移り、王立学園の木々もすっかり緑に染まっていた。

 授業が終わると、生徒たちは卒業パーティーの話で盛り上がっている。


「エレオノーラ様、ドレスは決まりましたか?」

「ええ。一応」

「では、やはり王太子殿下がエスコートを?」

「……そのはずよ」


 答えながら、胸の奥が少し痛んだ。

 レオンから、卒業パーティーについて何も聞いていない。

 以前なら。

『当日は俺が迎えに行く』

 そう言ってくれたはずなのに。

 今では、手紙さえほとんど届かない。


     ◇


 その日の放課後。

 私は久しぶりに、生徒会室へ向かった。

 卒業前の手続きについて確認するためだった。

 扉を開ける。

 そこには数人の生徒がいた。


「エレオノーラ様」

「卒業パーティーの最終確認ですか?」

「ええ」


 机の上には、出席者の名簿や座席表が並んでいる。

 私はその中の一枚を手に取った。


「エスコートについては、こちらで確認しておきますね」

「ありがとう」

「王太子殿下のお名前は――」


 生徒が名簿を確認する。


「レオンハルト殿下で登録されています」


 胸が少しだけ軽くなった。

 まだ、私の隣はレオンの場所なのだ。

 そう思った。


「ただ……」

「何か?」

「殿下の出席については、まだ最終的な確認が取れていないようです」

「……そう」


 私は笑顔を作った。


「きっと、お忙しいだけよ」


     ◇


 その日の夕方。

 学園から帰ろうとしていた時だった。


「エレオノーラ嬢」


 声をかけられた。

 振り返ると、王宮の騎士が立っている。


「王太子殿下から、こちらを預かっております」


 差し出されたのは、一通の手紙。

 私はすぐに受け取った。


「ありがとうございます」


 馬車に乗ってから、封を開く。

『卒業パーティーには、必ず行く』

 その一文を見た瞬間。

 胸がいっぱいになった。

「……レオン」

 思わず笑みがこぼれる。

 そして、その下には続きがあった。

『ただし、当日のエスコートについては、まだ約束できない』


「……え?」


 笑顔が消えた。

 理由は書かれていない。

 ただ、それだけ。

 私は手紙を握りしめた。

 どうして?

 王太子である以上、突然の公務が入ることはある。

 それくらい分かっている。

 けれど。

 卒業パーティーだけは。

 私にとって、特別な日だった。

 レオンにとっても、そうだと思っていた。


     ◇


 翌日。

 私は廊下でレオンを見かけた。

 久しぶりだった。

 以前より少し痩せたように見える。

 疲れている。

 それでも、その姿を見ただけで胸が温かくなった。


「殿下」


 私は声をかけた。

 レオンが振り返る。


「……エレオノーラ嬢」


 やはり、その呼び方。


「手紙をありがとうございました」

「ああ」

「卒業パーティーには来てくださるのですね」

「ああ。必ず行く」

「それなら……」


 私は勇気を出した。


「私をエスコートしていただけませんか?」


 レオンの表情が固まった。


「……それは」

「婚約者ですもの」


 少しだけ笑う。

 レオンは苦しそうに目を伏せた。


「すまない」

「……どうして?」

「俺には、王族として果たさなければならないことがある」


 また、その言葉。


「それは、私よりも大切なことですか?」


 レオンは答えなかった。

 私はすぐに後悔した。


「……ごめんなさい。そんな聞き方をするつもりでは」

「エレオノーラ」


 レオンが私を見る。

 その瞳は、やはり悲しそうだった。


「俺を……恨んでくれていい」

「そんなこと……」

「俺を嫌いになってもいい」

「嫌いになれるわけがないでしょう!」


 思わず声が大きくなる。

 周囲の生徒たちがこちらを見る。

 私は慌てて声を落とした。


「……私は、殿下を嫌いになったりしません」

「……そうか」


 レオンは小さく笑った。

 けれど、その笑顔は今にも泣き出しそうだった。


「ありがとう」


 そして。


「卒業パーティーで、必ず会おう」


 そう言って、レオンは去っていった。

 私はその背中を見つめた。

 どうして。

 どうして、そんな顔をするの?


     ◇


 その夜。

 王宮の一室。


「殿下」


 女性が静かに声をかける。


「エレオノーラ様には、何もお伝えしないのですね」

「……ああ」

「卒業パーティーまで、もう二週間もありません」

「分かっている」


 レオンは窓の外を見た。


「だからこそ、急がなければならない」

「術式は、まだ完全ではありません」

「あと二週間ある」

「殿下」


 女性の声が少しだけ強くなる。


「命を懸ける覚悟と、命を失うことは同じではありません」


 レオンは黙った。

 そして、静かに答える。


「……それでも俺は行く」

「王太子として?」

「違う」


 レオンは目を閉じた。


「俺自身が、そうしたいんだ」


 その胸の奥には、ただ一人の少女の姿があった。

 エレノア。

 自分が帰れなくなった後も。

 どうか幸せに生きてほしい。

 そう願いながら。


     ◇


 卒業パーティーまで、あと二週間。

 私はまだ知らなかった。

 レオンが何のために王宮へ籠もっているのか。

 あの女性が何者なのか。

 そして――。

 卒業パーティーの日に、私たちを待っている運命がどれほど大きなものなのかを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ