表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄を告げた王太子は、泣きそうな顔で私に微笑んだ  作者: なごやかたろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/20

第十六話 邪龍

 封印の間へ続く道は、想像以上に長かった。

 岩壁に囲まれた狭い通路を、一行は慎重に進んでいく。

 奥へ進むほど、空気が重くなる。

 息をするだけで胸が押し潰されるような感覚。

 騎士たちも、それを感じ取っていた。


「……この先か」


 レオンが呟く。


「はい」


 封印の魔女が答える。


「この先に、邪龍がいます」


 やがて。

 通路の先に、巨大な扉が現れた。

 扉には、王家の紋章と古い術式が刻まれている。

 しかし、その一部には亀裂が走っていた。


「封印が……」


 騎士の一人が息を呑む。


「完全に破られているわけではありません」


 魔女が答える。


「ですが、時間の問題です」


 レオンは扉の前に立った。

 手を伸ばす。

 指先が触れた瞬間。

 ――ドン。

 扉の向こうから、低い振動が伝わってきた。

 まるで巨大な生き物が、向こう側で息をしているようだった。

 レオンは手を引いた。


「……いるな」

「はい」


 魔女が頷く。


「この先です」


 レオンは一度、後ろを振り返った。

 ここまでついてきた騎士たち。

 誰もが緊張した顔をしている。


「ここから先は、予定通りだ」


 レオンが告げる。

「封印術の間には、俺と魔女だけが入る」

「殿下!」


 一人の騎士が声を上げる。


「我々も――」

「駄目だ」


 レオンは静かに首を振った。


「封印術の邪魔になる」

「しかし……」

「外で待っていてくれ」


 レオンは笑った。


「俺が戻ってきた時に、出迎えてほしい」


 騎士は唇を噛み。


「……必ず、お戻りください」

「ああ」


 レオンは頷いた。


「必ず戻る」


     ◇


 扉が開く。

 その瞬間。

 凄まじい冷気が吹き抜けた。

 レオンは思わず目を細める。

 広大な空間。

 天井は見えないほど高い。

 そして、その中央に――。

 巨大な影があった。


「……あれが」


 レオンの声が止まる。

 巨大な翼。

 黒い鱗。

 長い尾。

 まだ完全には動いていない。

 それでも。

 そこに存在しているだけで、空間そのものが震えている。

 邪龍。

 伝承の中でしか知らなかった存在。

 その姿を、レオンは初めて目にした。


「完全には復活していません」


 魔女が言う。


「ですが、封印が崩れればすぐにでも――」


 その時だった。

 邪龍の瞳が、ゆっくりと開いた。

 赤い光が走る。


「……!」


 レオンが剣を抜く。


「目を覚ました?」

「いいえ」


 魔女が首を振る。


「まだ完全ではありません」


 邪龍がこちらを見る。

 その瞬間。

 レオンの身体が凍りついたように感じた。

 恐ろしい。

 これまで感じたことのない恐怖だった。

 足が動かなくなる。

 呼吸が浅くなる。

 それでも。

 レオンは剣を握り直した。


「……これが、邪龍か」

「殿下」


 魔女の声が聞こえる。


「こちらへ」


 レオンは魔法陣の中央へ向かう。

 足は震えていた。

 それでも、一歩ずつ進む。

 魔法陣の中心に立つ。

 魔女が周囲の術式を確認する。


「準備を」

「ああ」


 レオンは深く息を吸った。

 王宮で何度も練習した。

 何百回と繰り返した。

 それでも。

 本物の邪龍を前にすると、手が震える。


「怖いですか?」


 魔女が尋ねる。


「ああ」


 レオンは正直に答えた。


「だが――」


 レオンは目を閉じた。

 脳裏に浮かぶのは。

 エレオノーラの顔。

 笑顔。

 泣き顔。

 そして、最後に見た姿。


「帰る」


 目を開く。


「俺は、必ず帰る」


     ◇


 その頃。

 王都。

 私は朝食の席に座っていた。

 けれど、食事がほとんど喉を通らない。


「エレノア」


 兄が声をかける。


「はい」

「今日は随分と静かだな」

「……何となく」


 胸がざわついている。

 理由は分からない。

 ただ。

 朝から妙な不安がある。


「レオン……」


 思わず名前が漏れる。


「今日、何かあるのかもしれません」

「何か?」

「分からないけれど……」


 私は窓の外を見る。

 北の空。

 遠く離れた場所。


「……無事でいてほしい」


 兄は何も言わなかった。

 ただ、優しく頷いた。


     ◇


 封印の間。

 魔女が最後の術式を確認する。


「準備は整いました」


 レオンは頷いた。


「始めよう」


 魔女が杖を掲げる。

 床の魔法陣が光り始めた。

 青白い光が広がっていく。

 邪龍の身体がわずかに動いた。

 巨大な翼が震える。

 そして。

 低い咆哮が響いた。

 ――グオオオオオ……。

 空間そのものが震える。

 レオンの足元の魔法陣が揺らぐ。


「殿下!」

「大丈夫だ!」


 レオンは魔力を流し込む。

 術式が一つ。

 また一つ。

 光を帯びていく。

 邪龍の身体を取り囲むように、無数の光の線が伸びていく。

 レオンは歯を食いしばった。


「これが……」


 王国の未来を懸けた封印。


「俺の役目だ!」


 魔法陣が強く輝く。

 邪龍が咆哮する。

 そして。

 封印術式が、動き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ