8 女神ディーテ
王領にあるこの教会は、以前は神父やシスターがいたが、王族の気まぐれで無残な姿にされてしまった。
逃げたら徹底的に追われ、死なせてくれと願うほどに残忍な仕打ちが待っている。皆、ここに赴任になった運命を呪い、逃げる事も許されず、本来の役目を全うする事も出来ないまま、ただひたすらに王族の機嫌が良いことを祈る神父たち。
1人また1人と消えていき、誰もいなくなると、王族はここへの関心をなくした。
今はアルベルトが祈りにくるのみ。
「今日も生きて祈りを捧げられる事に感謝致します。どうか女神様も民も健やかに生きて行けますように」
来る度にアルベルトが繰り返す言葉。
叶えてあげたい。
でもアルベルトが報われる日は来ないの。
声を届けたいけど、残酷すぎて私には言えない。
あまりにも理不尽で哀れなこの子が可哀想すぎて、涙を流す日々が続いていた。
そんな中、私の家族が訪れた。
父「よう」
母「あらまぁ、ボロボロだわ」
兄「なぜ連絡してこない?」
姉「許せないわね」
弟「我慢しすぎ」
そう、私はボロボロだった。
国ごとなんて力はもうない。せめてアルベルトがいるこの周辺だけでもと力を振り絞っているが、加護はもうだいぶ弱まっている。アルベルトの祈りだけでは、私の力は下がり続けていた。
そんなこの国の状態は、言葉にせずとも私の姿を見て家族は理解した。
「この国はもう放っておこう 」
「住んでやる価値もないね」
家族が話し合いをしてる中、アルベルトが祈りにきた。
「今日も生きて祈りを捧げられる事に感謝致します。どうか女神様と民が健やかに生きていけますように」
アルベルト今日もありがとう。
私の目から涙が零れ落ちる。
貴方の祈りのおかげでほんの少しだけど力が出せるわ。
「見ておれん」
淡い光から段々と眩い光を放って、家族が地上に姿を現した。
「うわっ! え? えーっ!!!」
飛び跳ね、尻もちをついて、目を見開き、口も開きっぱなしのアルベルト。
「はっはー。 なかなか面白いリアクションだ」
「貴方がディーテを支えてくれていたのね」
「これだけ神が揃ってるのにあてられないのね」
「へー、やるな」
姿を現した神達を前に、最初は驚いたアルベルトだったが、ディーテを見た途端、ディーテとアルベルトは2人だけの世界に入っていた。
ディーテは涙を流しながらアルベルトを見つめ、
アルベルトはノロノロと這いながらディーテに近づき、
「・・・この国が貴方様をこんな姿に?」
言葉が出ず、ポロポロと涙が止まらないディーテ。
体を起こし、服からハンカチを取り出し、ディーテに渡すが受けとってもらえないアルベルト。勇気を出し、震えながらもまた一歩近づき、ディーテの頬へハンカチをあてるアルベルト。
しばらくしてアルベルトが頬にあててる手に自分の手を重ね、アルベルトを見つめ微笑むディーテ。
「・・・お前ら、もうくっついちゃえよ」
「背中がムズムズする」
「あらあらまあまあ!」
「我の可愛い娘は、お前達のせいでこのありさまだ。この国はもう見限る。お主、ディーテを娶れ。 お主の愛でまぐわえば、ディーテは元に戻っていくだろう」
「ま、まぐわう?」
「ここまでボロボロだと、こちら側とまぐわうと力が強すぎて体が保てなくなってしまうわ」
「元に戻れば、本来の女神の力が出せる」
「まぐわえば元に戻る」
「とにかくまぐわえ」
「愛とはまぐわうことだ」
その後も話し合いをしながら、アルベルトは私の家族全員から加護を受け、私と夫婦になった。
アルベルトからの愛で私は力を取り戻しつつ、フェルナンドを授かった。私とアルベルトの愛の証。出産でフェルナンドにかなりの力を持っていかれたが、幸せで心が満ちていた。
アルベルトが黙っているわけにもいかないと、陛下達に報告し、私とフェルナンドも挨拶をしたが、いい顔をされなかったし、その後封印されてしまった。アルベルトは私や私の家族の加護が強すぎて、残忍な仕打ちをされても死ねない状態。
解き放ってくれたのは、フェルナンドが抱いていた赤ちゃん。無意識そうなのに的確な封印解除だった。
「ふぅ。ありがとう」
「ん。俺の力じゃなくて、コイツの力。 ちなみに俺の婚約者ね」
「・・・生まれたばかりのこのお嬢さんと?」
「そ。アルマリンって名前ね」
「親御さんは了承しているのかしら?」
「ちゃんと書類も提出した」
「・・・大切にするのよ?」
「ああ。もちろん」
「・・・。 私はアルベルトを探すわね」
「わかった。ん? コイツが北を指差してるからそっち方面にいると思う」
「あう、あう」
「・・・ありがとう。凄いお嬢さんね」
お嬢さんの頭をなで、おでこにキスをしてから迷わず北に飛び立った。
その後
アルベルトからのたくさんの愛で私の力は完璧に戻ったけど、リボーンには戻らず、フェルナンドとアルマリンがいる領地でアルベルトと暮らしている。
この領地にだけ、加護を与えた。というか力がみなぎりすぎて溢れてしまった。これ以上広がらないように調整している。
ここはリボーンよりはいい国だけど、やはり危うい所も多々ある。人は本当に難しい。
例えば不思議な魂を持つアルマリン。
私はこの子に感謝しているわ。フェルナンドもこの子を愛してる。ハイヤーも妹ではなく、娘として愛情をもっている。異父兄ノルンも妹の莫大な魔力や多才な魔法にもひがむことなく、よい関係を築いている。
前当主は自分の娘なのに、接触を避け愛せていない。母親もこの子を殺そうとした。
この国の王太子妃もこの子を会ってもいないのに嫌っている。
そもそも王太子妃はこの子の母親マリアンナが学園で好き放題やっていても放置していた。王太子妃になりたかっただけなのか、王太子に対しても苦言は言わず、卒業後に結婚し、子供を3人もうけた。
マリアンナと王太子が再会し、ピートが生まれてしまったが自分の子供にすると言ったくせに、ひどい仕打ちをする。王太子妃の家族は彼女への協力を惜しまず、段々とエスカレートしている状態。
陛下はピートを手もとに置こうとしたけど、貴方は反対していた。揉めていたけど最後は、自分の意志で受け入れた。でも貴方は率先してピートを孤立させた。なぜ? 貴方の意思を尊重すると言われていたのだから、愛せないと分かっていたのなら、遠ざければ良かったのに。愛せると思っていたは通用しない。だって貴方は受け入れた日からピートをイジメていた。
会うことができたら是非、貴方の心を覗いてみたいわ。
人は見誤る。それは仕方がない。
身分が高い者ほど、最初の決断を通そうとする。途中であれ?と疑問に思っても進み続けるのはなぜ?
国を良くするため?
いつも最初はとてもいいのに、人はそのうち必ず脱線する。立ち止まらないから、脱線していることに気付かない。
周りが気付いて言葉をかけても、より頑なになって止まらないのはなぜ?
また次の者が正そうと先頭に立っても同じ事の繰り返し。最初はしっかりとしてて応援できるが、なぜか脱線していき、止まらない。
上手くいかないと嘆いた時に出た感情が、いっこうに良くならない生活に平民達が嘆く感情が、魔物をどんどん強くさせていく。
人は愚かだと嘆き吐き出す私達神のため息も瘴気となっているのかもしれない。
本当に人は理不尽で難しい。




