7 第4王子にされたマリアンナの息子の話
エルドリック第1王子
フレドリック第2王子
ベルトリック第3王子
と続いて、私だけは波に乗せてもらえず、ピート第4王子。
本当はピートリックじゃないの? なんて思った時もあった。
物心ついた時は、名前の格差はもちろんのこと、扱いにも明確な差があり、あまりの理不尽さに感情をコントロールすることが出来ない日々が続いた。
なぜ? どうして?
世話をしてくれる者に尋ねても、皆口をつぐむ。
しつこく尋ねていたら、皆必要最低限の世話しかしてくれなくなり、1人でいることが増えた。感情を表に出してはいけない事を覚えた。
長兄、次兄だと教えられた2人は、生きてきた中で1度も話をしたことがない。行く先に私が見えると、方向を変え遠回りをしてまで、徹底的に私と接触しないようにする。
王妃と王太子妃も同じ対応をしてくるが、こちらの2人は、叫んで身近にある物を投げつけてきたり、遠目で見ても分かるくらいに顔を歪めて、私を罵りながら離れて行く。
2人の事を祖母、母と呼ぶことは禁じられている。
陛下は月に1度、父上は週に1度、短い時間だが会う事ができた。
陛下とはほぼ会話はない。たまに本や菓子を手渡され、私が「ありがとうございます」と笑顔でお礼を言うと、陛下は頷く。そしてその後も何も言わず、へにょりと眉を下げ、困った顔をしたまま私の顔をしばらく眺めてから、立ち上がって私の頭に手を置き、「 励め 」と言っていなくなる。
1回5分で、月に1度顔を合わせ、励めの言葉。
このルーティンを繰り返す意味はあるのだろうか。
父上も何とも言えない顔をしていることが多かった。
幼い頃は抱きしめてもらえた。だが、いつだったか忘れたが私が手を伸ばしても、困ったような笑顔で首を横に振って私との距離をあけた。1度目は訳が分からずに泣いた。それでも父上は私を抱きしめてはくれなかった。2度目は粘ったけどダメだったから、どうにか諦めた。3度目は私が手を伸ばす前に父上は 「すまない 」と言った。
その後は、私も抱きしめてもらうことを完全に諦めた。
それでも父上は週に1度は必ず私に会いにくることを続けた。もうムリして来なくてもいいのに。
そんな中で、普通に接してきたのが第3王子のベルトリック。
名前が私だけ違う理由。
母と呼んではいけない理由。
生かされている理由。
そっか・・・。
こちらを気にする素振りを全く見せずに、色々なことを教えてもらった。
「僕のことはベルって呼んでよ。ピートより短くなるよ?」
「3男なんてスペアですらない。 成人したら種馬として他国に出荷されるんじゃないの? そんな僕の悲しい未来より、ピートは魔法が使えるらしいからまだマシだよ」
「8歳になったらマイノール辺境伯の所で魔法の勉強がはじまるって。 こっそり聞いてきたよ、へへっ」
「魔法が使えるようになったら、まずお祖母様と母上にぶっ放してよ。 僕もきっとスッキリするから」
いつも他の誰かに聞かれたらヤバい話を王子らしくない口調で話してくるベル。
コソコソせず堂々と私の所へ来てるのに、不思議なことに誰にもバレることがないベル。
「ベルを種馬として出荷するより、諜報活動をさせる方が国の利益になりそうだな、ははっ」
「 っ!」
驚いた顔をしたベルは、すぐに満面の笑みを浮かべ、
「 ピート、ありがとう! とてもいいアイディアだ!」
そう言って駆け出して行った。
その次の日からマイノール辺境伯領へ行くことになったので、ベルに今までありがとうと感謝を伝えられないまま、出発する事になってしまった。
マイノール辺境伯領で暮らす人達は温かく、泣きそうになった。
だが、1人だけ出迎えの時からあからさまに威嚇してくる男がいた。女性にぴたりとくっついてる男。銀色の真っ直ぐな髪を腰まで伸ばし、背は高いが体は細く、目つきが鋭い。
「お前、俺のアルマリンと異父姉弟になるが、2人きりになるのはぜーったいに許さないからな」
周囲も苦笑いだ。
「マイノール辺境伯領へようこそ。私は当主のハイヤーと申します。アルマリンは私の娘で、あの2人は婚約しており、フェルナンドはアルマリンに対して過保護すぎるのですが、まあ・・・悪い奴ではないと思います。私の息子ノルンもピート様の異父兄になります」
当主が紹介してくれた兄と姉。私にはまだ兄と姉がいたのかと驚いた。
次に紹介されたのが女神様と、母の伯父アルベルト。この2人の子供が姉の婚約者フェルナンド。
アルベルトは女神様に手を出すなんて正気か? 神への冒涜では? 本当に許されているのか? 子供まで作っただと? しかもこの2人から生まれたのが、あの目つきの悪い銀髪のアレ。信じたくない。頭の中でグルグルと思考していると、
「うふふ。 大丈夫ですよ。 私達はちゃんと愛し合っていますし、認められています」
マズい。声に出てたか?
美しい女神様がふわりと笑う。声が心地よいと感じるなんて初めてだ。もっと話をしたいし、もっと近づきたい。
「あー、こらこら。 ディーテは私の妻だからな? そんなうっとりした目で見つめてはダメだよ?」
アルベルトが前に出て女神様を私に見えないように隠す。
さすがフェルナンドの親だな。嫉妬深いのは遺伝か。
「うふふ。 では頼みましたよ、アル。 また会いましょうね、ピート」
女神様は手を振りながら、飛んで行ってしまった。
あー、残念。
「ははっ。そんなに肩を落とすな、ピート。それよりもここに呼ぶまでに時間がかかってすまなかったね。色々片付けなければいけない事があって時間がかかってしまった。その事も含め、今から長い話を聞いてもらうことになるし、ピートの話も聞かせてくれ。私のことは、そうだなぁ、おじ様やおじ上とでも呼んでくれ」
アルベルトから、本当に長い話を聞かされた。
隣国リボーンは、王家が女神様を封印した事が明らかになり私の祖父母、伯父や伯母にその子供達も含め全員処刑された。アルベルトはリボーンを立て直す為に隣国で奮闘していた。王になることは全力で拒否したらしい。
女神様が封印されてからのアルベルトは瀕死の重体のまま放置されていた。
フェルナンドは母に奴隷扱いをされていた。
ノルンとアルマリンは父親が違う兄と妹。
ここの当主と前当主も、当主になる予定だった者も母に振り回された。
顔も覚えていない母だが、本当にヤバすぎる。
「ピートも幼いのによく耐えてきたな。偉いぞ。皆も悲しい過去があったが今は前を向いている。魔法は自分を守る事ができるし、大切な人を助ける事もできる。ここで基礎から学んで行こう」
「はい」
私が返事をするとアルベルトは立ち上がり、私を軽々と片腕でだっこした。
「うわっ!」
「ははっ、ちゃんと掴まれ。 長話で疲れただろ? 食堂まで私が連れて行こう。 皆も腹を空かせて待っているはずだし、私も腹ぺこだ」
本来なら、自分で歩けると言うべきなのだろう。
だが、今日だけは甘えたいと思ってしまった。
私は両手を伸ばしてアルベルトに抱きついた。




