11 悪魔はマリアンナに似て性格悪し
あの女が死ぬ間際に俺を呼びだしたが、俺の体が具現化した時には、絶命していた。
あの死に顔は何度思い出してもゾクゾクする。
あの女と俺が手を組めば、笑いが止まらないグチャグチャな世界を作り上げていただろうな。
あー、もったいない。
あの女が本当に死んだか確認するために近くで待機していた身なりの良い女は俺を見て、声にならない悲鳴をあげて座り込んだ。おいおい、そんなんじゃ誰も助けにこないぜ? お前が雇った殺し屋も、その近くにいたお前の護衛の魂も既にもらい済みだ。お前を助けてくれそうなのは横にいる男1人のみ。もっと腹から声を出さなきゃ、こんな薄汚い場所には誰も来てくれないぜ?
「あ、貴方の主人は死んだわ。 なのに何でいるのよ」
「出てきたら死んでた。望みを叶えてやる間もなかった。かわいそうな事をしたな」
「の、望み?」
「望みを叶えたら、またこの女が呼ぶまで消える。だが叶えてないのに死んじまったから、俺は消えない」
まあ、そんな事は嘘なんだが。
せっかく出てきたばかりなのに帰るのも何だからな。
「・・・・。 なら、私の願いでも大丈夫なの?」
ほらひっかかった。チョロすぎるだろう。
「そうゆうことだな。魂を、1、2、3、4個はもらったからそれなりの願いは叶うぜ。その隣にいる人間の魂もくれたら更にだ」
「ひぃっ! 」
逃げ出そうとした男の足首に見えない鎖を絡ませ転ばせた。そのまま鎖を引いて引きずり、女の足元に戻す。
地面にうつ伏せで転がったまま、すり傷だらけの顔を上げた男は女の顔を見ると、更に顔を恐怖で歪ませた。
「・・・私を置いて逃げたわね」
「ひっ、お、お、お許しを」
男の頭を足で踏みつける女。
ヒュー、いい眺め。この女も死んだ女も大して変わらんな。
「ねぇ、とりあえずコレを私の言葉にしか従わないように出来るのかしら?」
「お安い御用だな」
「なら、まだ他の願いも叶う?」
「もちろん」
「貴方、私にしか見えないようにできる?」
「ああ。それは願いにカウントされない」
「じゃ、ついてきて」
「了解」
こいつは王太子妃だった。
まず迷わず王妃と自分の父親と兄を、操り人形にした。
頼んでもいないのに牢にいる者の魂、王太子妃が気に入らない人間の魂を寄こしたので、遠慮なく王太子妃の前で食べてやった。
辺境にいる、俺を呼んだ女の娘を始末しろと言われ、見に行ったがあそこはダメだ。女神がいる。女神の傍にいる男は加護という加護を全身に纏っている。いくらなんでもやりすぎだろう、あれは。それにあの娘にくっついている神もどき? いや人間とのハーフか? もやっかいだし、何より娘本人が強すぎる。一瞬で消されるか、忠誠を誓い下僕になるしかないのどちらかだろう。
ちょっとしたイタズラをしかけたが反応が早すぎて、バレそうになる。
あー、ムリムリ。
さっさと諦め王宮へ戻った。
「あれをやるには相当な対価がいる。本来ならお前の寿命だが、それだけでは全く足りない」
「・・・死にたくないわけじゃないけど今は死ねない。せめて息子が王になるまでは生きたいの」
「わがままだな。 もともと別に主人でもないお前の願いなど叶えてやる筋合いはねえんだ。今ここで捻り殺してもいいんだぞ」
最近は偉そうにするこの女にイライラしてたし、そろそろ頃合いだろう。
女の頭を掴み、殺さない程度に力を入れ、足も床から着かない程度に浮かせ、この女にキスでもしそうな距離まで顔を近づけ睨みながら、苦痛に歪める顔を楽しむ。
「う、うぐっ。やめて! お、お願いよ」
「お前の魂を入れてなら他に10個、お前を入れないなら、上物の魂を入れて1000は必要だ。 勘違いするなよ? お前の魂に価値があるんじゃねえからな? 自分だけ生きようなんて甘い考えが、悪魔である俺の気分さえ悪くしたからだ」
手を離すと、女はバタンと音を立て床に落ちた。
ぜぇぜぇと息をしながら、 不満なのか床を叩いている。
物音で侍女や護衛が中に入ってきた。
「何があったのです?!」
「王太子妃様!」
「う、うるさい!うるさい!うるさい! 勝手に入ってこないで! 出ていきなさいっ!」
ヒステリックをおこして追い払い、床に座ったまましばらく考え込んでいた女は、
「分かったわ。 私の寿命全部と10個の魂を用意すると約束する。でもお願いだから私の手であの娘を殺させて」
「いいだろう。3日待ってやる。それまでに用意しろ」
「・・・分かったわ」
アルマリンを殺そうなんて簡単な事ではなかった。
ベルトリックから情報をもらったフェルナンドとアルマリンは、簡単に悪魔を倒した。王太子妃は辛うじて生きていたが、老け込み、抜け殻のようになってしまい、調書を取る前に亡くなってしまった。
操り人形にされた王妃、父、兄はそれぞれ意思がありながらも自分で動く事ができない状態で、命令されるままに色々とやらされていた為、精神が崩壊した。うつろな目で、何かを思いだしては絶叫し、自傷行為を繰り返す。
もう人前には出ることができない状態な為、3人は王家が保有する避暑地で有名だった別荘で過ごす事になった。
王家からは王太子が自ら手を上げ付き添う事になり、公爵家からは、当主夫人が付き添う事になった。長男の嫁は離縁を望み、2人の間に跡取りがいたが、公爵家を継ぐ意思はないと頑なに拒んだので、公爵家は取り潰しとなった。
これにより瘴気も収まったのだが、聖女きどりの女がさも自分の手柄のように話を広めていた。だが信じる者はおらず、またも周囲に放っておかれた。
王は、あれだけ友の前で啖呵を切ったのに、若者の活躍をただ眺めているだけで何も出来なかった。王太子も予兆はあったが、とうとうリタイアしてしまった。
全てを知らされた、第1王子・第2王子も部屋に閉じこもり出てこない。
皆が放心状態の中、第3王子と第4王子が協力しながら、精力的に動いていた。
後に、第2王子は自ら別荘へ向かい、そこで元王太子の父を看取った後、敷地外へ出る事はなく一生を終えた。
第1王子は、だいぶ出遅れたが弟達と協力し、宰相となった。
第3王子は、諜報機関のトップとして、陰に日向に兄弟を支え活躍した。
第4王子は、皆が成長するまでどうにか踏ん張って長生きをしてくれた陛下の後を継ぎ、王になった。
「フェル、あの時はありがとう。 貴方が止めてくれなかったら私は確実に殺していたわ。 ほぼ半殺し状態にはなっちゃったけど」
「まあ、俺もどっちでも良かった。 でもお前が後で後悔するかもって思ったら、勝手に手が出た。それだけだ」
「ふふ。 ありがとう、大好きフェ・・・」
「は? おいっ! 今、やっと俺が欲しい言葉を言いそうになったよな? 寝た? 寝たなぁ!! 7時間は絶対に起きねえな! ってふざけんな! 起きろ、アルマリン!」
「ぶっほっ! ウケる、大好きフェナンシェって言ったんじゃない? 彼女食いしん坊だし」
「フィナンシェだろうが」
「じゃ、フェンダンショコラ?」
「フォンダンショコラ! 」
「じゃ、フェルナンドって言ったかもね!」
「っ! だよな?」
振り返った時には、もうベルトリックの姿はなかった。
「あんにゃろ~」
口は悪くても、アルマリンを優しく抱き上げベットに運ぶフェルナンド。
「なあ、次はちゃんと聞かせてくれよ?」
わざわざ自分で手をくださなくても、マリアンナは処刑されたはず。余計な事をしなければ、悪魔に会う事はなかった。悪魔の誘惑に乗らなければ、存在感のなかった第1王子が王になったかもしれない。




