10 ハゲは呪いではありません、ストレスです。
長くなりました。
儂はアシュラン国の王じゃ。
最近頭を悩ませることの大半は、儂の家族とノイマール辺境伯絡みばかり。
それに鏡を見るのが怖くなるくらいに薄くなってきた儂の髪。
あそこは数年前に当主が年上の子爵家の女性と再婚して、娘が生まれたはずだ。やっと自分の血を継いだ子の誕生だな。現当主はなかなかの切れ者で、剣の腕もある。長男が生きておれば中央に呼びたかった人材だ。再婚相手の女性もここで文官として働きながら、独自のルート、調査で横領犯を突き止め、確実な証拠も押さえていた侮れない女性だ。
その件は女神様が直々に現れ、お話してくださったのと、女性文官が提出した証拠でスムーズに解決した。
隣国で王家は粛清された。
まー、あれは仕方がない。
好き放題にやり過ぎだったからな。
そしてピートだ。
辺境伯で魔法を習得させてるが、そのまま城には帰ってこない方が良いと思う。魔力があると聞いて、判断が鈍ったことは反省している。王妃はこちら側の判断だったが、急に手の平を返した。
ぐぬぬ、解せぬ。
ピートについて王太子妃に決定権を委ねたら、自分の子供として育てると答えた。
王家の血を継いでいる魔力持ちが誕生したと浮かれていたら、ピートなんておかしな名前を付け、すでに教会に提出してあって訂正できない状態。しかも兄弟には関わらせない徹底ぶりで、親になると言ったのに放置した王太子妃。
解せぬ。
儂が忠告しても、王妃が王太子妃の味方をする。公爵家を呼び、お主らからも言ってくれと話をしたが反応が悪い。長男に嫁いだ夫人が何かを言いたげだったが、当主は夫人に口を開かせなかった。
怪しいな。
ピートに限らず孫は全員可愛い。
なのにピートに菓子を渡すだけで王妃にネチネチと文句を言われる。これも髪が減る原因だな。
王太子も同様に圧に負け、ピートに何もしなくなった。
いや、お主はもうちょっと頑張れよ・・・。
辺境伯の長男ノルンは、騒がれながらも、友も作り、学園を卒業したが、長女アルマリンが入学してからの1年は荒れた。まず己を聖女だとのたまう頭のおかしな男爵家の娘が出てきた。此奴については教皇に確認したが、そんな者はおらんと返事がきたので、後回しでいい。
問題なのは、儂の孫フレドリック第2王子がアルマリンのひとつ上の学年で在籍しているのだが、あれだけ関わるなと忠告したのに、アルマリンに興味をもってしまった。
ピートのことは全力で避けておいて、アルマリンのことは全力で追いかけ回している。学園では知らない者がいないほど有名な話になってしまった。
ピートを受け入れてからの王太子妃は人が変わってしまったかのように残忍な人間になった。
アルマリンの事も嫌い、王太子妃が噂をばら撒いた為、アルマリンは入学当初から騒がれていたが、本人はなるべく存在感を出さず、静かにやり過ごしている状態。それをざまぁと笑っていた王太子妃。
だが、フレドリックがやらかした。
王太子妃は激昂し、自ら学園に向かい大声でフレドリックを学園敷地内で叱り、城に連れ戻した。これも生徒達を驚かせた。
王太子が2人をなだめようにも、自分がいる事によって更に2人のやりとりがヒートアップしてしまう状態。
肩を落とした王太子は儂のところにやって来て、
「父上、どうか健康で長く在位してください。私は王にはなりません。皆でよく見極め、能力のある王子を次の王に据えましょう。能力がないのなら他から養子を迎えましょう。今の王太子妃を王妃には絶対にできません。王子達もどこまで影響を受けているのか・・・。会わせてもらえないので私には判断できません」
頭を下げ、部屋から出た王太子の後に、ベルトリック第3王子が儂の所へきた。
ん?
誰もドアにいなかったのか?
ベルトリックも1人で来たのか?
「お祖父様、突然来てしまってごめんなさい。今お話しても大丈夫ですか?」
ドアからひょこっと顔を出し、あざと可愛いすぎる。
アルマリンのひとつ下で、ピートと共に来週から学園へ通う。話ができるのはちょうど良い。今からもう一度ちゃんといい聞かせねばならない。
ところがじゃ!
なにぃ!?
なんともうアルマリン本人に直接申し込みをして断られただと? 組織を作った? ピートはお主が使う? 母を王妃にさせない父の意見に賛成?
さっきの話を盗み聞きしておったのかっ!?
ベルトリックに驚くばかりでどっと疲れた。
儂の髪も逆立ったり、抜け落ちたりと忙しかったはずだ。
「お祖父様が僕のお願いを聞いてくれたら、コレをあげる。今は少しの間、貸してあげるね。 このボタンを押せば使えるよ」
防音機能がある魔道具を寄こしてきた。
はぁ? なぜこんな貴重な物を手土産のように簡単に渡す!?
聞きたいことが山ほどあるのに、魔道具に気を取られた一瞬でベルトリックはいなくなっていた。
彼奴、あざと可愛い奴などではなかった!!
まんまと騙された!!
その後、教皇にちょいと顔を貸せと言われ、面倒くさっと思いながら宰相と2人で教会に行った。
宰相と教皇は幼き頃から、一緒に学び育ったので3人だけの時は砕けた口調になる。
「陛下に宰相よ、これは通信機能が付いた魔道具だ。2人に渡しておく。これで手紙なんかより早く伝わるぞ」
「はぁ? 何でお前もこんな貴重な物を持っているんだ? 先日はベルトリックが防音機能が付いた魔道具を寄こしてきたぞ」
「ぜーんぶ、ノイマール辺境伯のアルマリン嬢だよ」
「はあ?」
「マジで?」
「そー、マジマジ。 ちなみにこれもそうだ。もうこの子誰の子問題は解決されるぞ。血縁関係かどうか分かる水晶だ」
「ほえー」
「ジジイのほえーは気持ちわるいのぅ」
魔道具の話で盛り上がっていたら、突如女神像から眩い光を放って神が現れた。
儂と教皇はどうにか踏ん張り、膝をついて頭を下げたが宰相は白目をむいて気絶した。
「少し失礼します」
立ち上がった教皇が近くにあった水差しを持ち、宰相の顔にかける。
「ぶっふぁっ!! ごほっ! 何で・・・あっ!」
状況を思い出した宰相は、素早い動きで儂達の傍で同じように膝をつき、頭を下げた。
「ふむ・・・。悪くはない魂をそれぞれが持っているんだな」
儂達を見下ろしながら、
「我らも含め、負の感情が瘴気を作り、瘴気は魔物を誘う。知っておるな?」
3人で同時に頷く。
「強く出てるのは城と城周辺だ。王よ、忠告はしたぞ。決断しろ。ムリなら今すぐ王から降りろ。決断力のある他の家の者を王に据えよ。教皇、次の教皇にはお主の子供から選ばれるのか?」
「いえ、私が推薦した者達を、大司教や司教で話し合い、多数決で決めております」
「宰相、お主はどうだ?」
「ハ。世襲制ではございません。能力がある者が就任します」
「ふむ。前から思っていたが、王家は血統主義に拘りすぎやしないか。 カリスマ性がある者が、決断能力のある者が、人を見る目がある者が王をやればよかろうに。なぜ人はそれらを排除しようと動き、なぜポンコツに後を継がせたがるのだ?」
そう言われてしまえば確かにその通りなのだが、今までの歴史を考えると前代未聞な事になるわけで・・・。
「今日は王を降りろと言いに来たつもりだったが、王はいい魂を持っている。続けるのなら城の負を減らせ。このままだと魔物の群れの勢いを止めるのは容易ではないぞ。 我が手を出すと、力が強すぎて国そのものが消え去るだけだ。 お前らが諦めるのなら、いちど全てを消してやり直す方法もとれる。 素早く判断しろ、時間はないからな」
「・・・かしこまりました」
「あと我の娘がいる辺境伯に余計な事はしてくれるなよ? その辺はお主の孫に聞いてみるがいい。ではな」
神は消えた。
「「「ふぅ」」」と3人同時に息を吐き、尻をついて床に座った。
「女神様の比じゃなかったな」
「・・・だな」
「まだ足が震えておるわい」
「孫ってピート殿下か?」
「いや、ベルトリックだろうな・・・」
「・・・神の言い分もわかるが難しいな」
「なあ、宰相。 お前王やる?」
「・・・やだね。陛下のケツを叩きながら横で口を出す方が向いてる」
「・・・あれらを静かにさせるより、お前が王になった方が早い」
「バカ野郎。 苦労してでも、陛下の国が好きなんだよ。 って言わせるなっ!」
「ふはっ、真っ赤だぞ宰相。儂も宰相に1票じゃ。陛下よ、腹を括れ」
「ちっ、教皇も協力してくれよ?」
「あたりまえじゃ。見返りはきちんともらうがな」
「おいおい、教皇。バチがあたるぞ」
「2人からならいいじゃろ?」
「あー、わかった。よぉし、やってやらぁ。もう孫が4人もいるのによう、まだまだ働けって友がうるせえからよ。しかも俺にしか出来ないって言われちゃあ、やるしかねえな! 」
「調子に乗るな!」
「そこまでは言ってない! 」
教会には似合わない、オッサン達の明るい笑い声が響いていた。
登場人物が増えたので役職で呼びあうようにしてしまいました。




