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【5000PV感謝】フリーダム・フロント   作者: ボナンザ・ソバイユ
日本選抜

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69/72

第68話 決勝①

 白い機体が、凪へと、殺到した。

 

 今度は、まっすぐ。

 迅・ソニックの神速が、瓦礫の街を、切り裂く。

 

 凪は、糸で高架を掴み、身体を引き上げた。

 白い影が、コンマ数秒前まで凪がいた場所を、通り過ぎる。

 

 そして、その先で。

 

 ガシャッ。

 

 瓦礫に足を取られ、たたらを踏んだ。

 

(――今)

 

 凪は、即座に、糸を放った。

 体勢を崩した白い機体の、両脚へ。動きを、封じる。

 

 だが。

 

 糸が届く、その寸前。

 白い機体が、地面を蹴って、跳んだ。

 制御を失ったまま、たまたま、後方へ。

 

 糸が、空を、掴む。

 

「うわっと。……あぶな」

 

 迅の、間の抜けた声。

 

(……偶然、躱された)

 

 凪の口元が、わずかに、歪んだ。

 

                ◇

 

 迅の動きは、明らかに、乱れている。

 だが――速い。

 

 どれだけ制御が甘くても、あの初速だけは、健在だった。

 しかも、制御が甘いせいで、どこへ飛ぶか、迅本人にすら、分かっていない。

 

 ならば、凪に、読めるはずも、なかった。

 

(……当てるなら、動きが止まった瞬間しか、ない)

 

 凪は、狙いを、定めた。

 迅が転ぶ。その、コンマ数秒。そこだけが、この男を捉えられる、唯一の隙。

 

                ◇

 

 白い機体が、再び、突撃してきた。

 

 凪は、ビルの陰へ、跳んで、回避する。

 迅は、そのまま、瓦礫の山へ、突っ込んだ。

 

 ガラガラッ。

 

(――今度こそ)

 

 凪の左手から、ビームが、放たれた。

 瓦礫に埋もれた、その一点へ。

 

 閃光が、瓦礫の山を、貫く。

 

 その、寸前。

 

「――あっ、やば」

 

 白い機体が、瓦礫を蹴って、跳んだ。

 制御しきれない体勢のまま、それでも、咄嗟に、射線から身を捻る。

 

 凪のビームは、無人の瓦礫を、焼いただけだった。

 

(……今の、反応した)

 

 乱れた機体で、この速度で、あの一瞬に。

 迅は、確かに、躱してみせた。

 

                ◇

 

『凪選手、決め手がありませんッ!! 迅選手、乱れているのに、当たらないッ!!』

『……皮肉ですよ、これ。制御できてないから、読めないんです』

 

                ◇

 

 狙って当たらないなら、通り道を、塞ぐ。

 

 凪は、糸を、幾重にも、張り巡らせた。

 ビルとビルの間。高架の下。瓦礫の谷。迅の進路を、網で、覆い尽くす。

 

 どこへ飛ぼうと、この網のどこかには、触れる。

 

 白い機体が、突撃してきた。

 

(――捕らえた)

 

 だが、その白い影は。

 

 網の、わずかな隙間を、すり抜けて、いった。

 

「おっ。……今の、うまくいった」

 

 迅の、無邪気な声。

 

(……どう捉えろと、いうんですか)

 

                ◇

 

 凪の攻めは、ことごとく、空を切っていた。

 

 糸も。ビームも。網も。

 

 すべてが、あの白い影に、届かない。

 

『決勝、開始から数分ッ!! ですが、入ったダメージは――迅選手の、自爆だけですッ!!』

 

                ◇

 

 だが、凪は、見ていた。

 

 迅の乱れた動きを、その挙動を、目に焼き付けながら。

 一つの、違和感に、気づいていた。

 

 反応が、わずかに、遅い。

 

 判断は、正しい。体勢の立て直し方は、完璧だ。

 なのに――機体が、動き出すまでが、コンマ数フレーム、遅れている。

 

(……判断は、間違っていない。なのに、機体が、追いついてない)

 

 凪は、その事実を、脳裏に、刻んだ。

 

(操縦と、機体の間に――何か、挟まっている?)

 

 だが、その先は、分からなかった。

 

(……こんな設計、ありえない)

 

                ◇

 

 そして。

 

 凪は、気づいて、しまった。

 

 迅の動きから、乱れが。

 少しずつ、消えていることに。

 

 最初は、明後日の方向へ飛んでいた。

 次は、進行方向は合っていたが、止まれなかった。

 その次は、止まれたが、体勢を崩した。

 

 そして、今。

 

 白い機体が、凪の目の前で、ぴたりと、止まった。

 

 瓦礫を蹴り上げることも、たたらを踏むことも、なく。

 

 完璧な、制動。

 

                ◇

 

(……慣れて、きている)

 

 凪の背に、悪寒が、走った。

 

 この数分で。迅は、この暴れ馬を、急速に、乗りこなし始めていた。

 実戦の中で、機体を、自分の手足に、変えていく。

 

 それが、迅・ソニックという、プレイヤーだった。

 

                ◇

 

 凪は、ピラリスを、握った。

 

 迅が、目の前で、止まっている。

 制御された、完璧な静止。

 

 だが――止まっているなら。

 

(……今なら、当てられる)

 

 凪が、渾身の力で、ピラリスを、投げた。

 糸を繋いだ、必中の一投。この距離。この静止。外す道理が、ない。

 

 巨大な杭が、白い機体の、胸部へと、迫る。

 

 

 その、瞬間。

 

 

「――もう、大丈夫」

 

 

 迅の声から。

 

 あの、飄々とした軽さが、消えていた。

 

                ◇

 

 白い機体が、動いた。

 

 凪の投げた杭。その、軌道の。

 わずか、数センチ、横へ。

 

 最小限の動きで。

 完璧に、見切って。

 

 ピラリスが、白い機体の、頬をかすめて。

 

 空を、切った。

 

 

                ◇

 

 凪は、その光景を。

 

 ただ、見ていた。

 

 

 糸も、ビームも、網も、杭も。

 

 何一つ。

 

 この男には。

 

 

 届かない。

 

 

「……お待たせ」

 

 迅が、ゆっくりと、凪へ、向き直った。

 

 もう、そこに。

 

 制御を失った、暴れ馬は、いなかった。

 

 いるのは、ただ。

 

 予選無敗の、絶対王者。

 

 

「じゃあ――ここからは、俺の番だ」

 

 

 その言葉と、同時に。

 

 白い機体の、周囲の空間が。

 

 ぐにゃり、と。

 

 歪んだ。

 

 

 凪の目が、見開かれた。

 

 その歪みを、凪は、知っていた。

 いや、この会場にいる、誰もが、知っていた。

 

 一回戦で。

 この男が、真正面から、破った能力。

 

 

『――G流G流(グルグル)

 

 

 周李龍の、重力操作。

 

 なぜ、それを、迅が。

 

 

 その答えを、凪が、考えるより、早く。

 

 

 白い機体の足元で、重力が、捻れた。

 

 

 次の瞬間。

 

 

 迅が、消えた。

 

 

 今までとは、まるで、比較にならない速度で。

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