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【5000PV感謝】フリーダム・フロント   作者: ボナンザ・ソバイユ
日本選抜

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67/72

第66話 20時42分 ふたりは

 ダイブポッドの、ハッチが開く。

 時刻は、20時42分。準決勝の熱気が、まだ、会場に残っている。

 

 真白ましろは、ゆっくりと、身を起こした。

 あの戦いの、熱が。まだ、指先に、残っている。

 

 同じ部屋の、隣のポッド。

 遠野凪も、ちょうど、起き上がったところだった。左腕を失った感覚――VRの余韻で、彼は無意識に、自分の左腕をさすっている。

 

「……お疲れ」

 

 真白が、声をかけた。

 

「ええ。あなたも」

 

 凪が、いつもの、穏やかな顔で、応える。

 

 真白は、その顔を、見た。

 さっきまで、あの黒い翼を広げて、自分を追い詰めた男。天然で、鈍くて、機体のことばかり考えている、この男が。

 

 ――あれは、あなたでした。

 

 その一言が、まだ、耳の奥で、響いている。

 

(……ずるいって、ほんと)

 

 真白は、思わず、顔を、逸らした。

 なぜだか、まっすぐ、見ていられなかった。

 

「……ねえ、凪」

 

「はい?」

 

「決勝、迅でしょ。……次、すぐなんだよね」

 

「ええ。少し休憩を挟んだら、すぐです」

 

 決勝は、同じ夜。準決勝を終えたばかりの、この流れのまま、頂上決戦へと、雪崩れ込む。

 

 真白は、立ち上がって、凪の前に、立った。

 

 いつもの、気怠げな表情。だが、その目は、まっすぐ、凪を捉えている。

 

「あたしを倒したんだから。……負けんなよ」

 

 凪は、少しだけ、目を見開いて。

 それから、静かに、笑った。

 

「……ええ。勝ちます」

 

 迷いのない、返事だった。

 

 真白の胸が、また、小さく、跳ねた。

 

(……あー、もう)

 

 この感じ。この、まっすぐさ。

 勝ったのも、負けたのも、機体を作ったのも、乗ったのも。全部、この男と一緒だった。

 

 負けたはずなのに。

 悔しさより、もっと、別の何かが、胸を、占めていた。

 

(……ずるい)

 

 また、胸が、鳴った。

 

「……勝ってきなよ」

 

 真白は、それだけ言って、背を向けた。

 赤くなった顔を、見られないように。

 

                ◇

 

 準決勝・第二試合は、その夜のうちに、伝説になった。

 

 配信のアーカイブは、爆発的に、再生された。

 SNSは、あの一戦の話題で、埋め尽くされていた。

 

『作り手が乗り手を倒す試合、こんなの初めて見た』

『最後の「あなたでした」で泣いた』

『しろっぷの深化、負けたのに美しすぎる』

『底力の速度やばすぎ。あれ人間が反応できるの?』

『準決勝が事実上の決勝だろこれ』

 

 勝った凪だけでなく、敗れた真白にも、称賛が、殺到していた。

 あの深化の美しさ。時間切れ間際の、鬼気迫る全力の突撃。負けてなお、観る者の心を掴んで離さない戦いだった。

 

                ◇

 

 その頃。

 

 敗退した、あるいは観戦していた、プレイヤーたちも。

 あの試合を、それぞれの場所で、噛みしめていた。

 

 戦神覇王は、モニターの前で、拳を握っていた。

 

「……つっよ。なんだよ、あの翼」

 

 凪に敗れた、あの少年。悔しさよりも、その目は、爛々と、輝いていた。

 

「次は、俺が、あれをぶっ倒す。……兄ちゃん、もっといい機体、作ってくれよな」

 

 隣で、兄のシモーネが、静かに、頷いた。

 

                ◇

 

 周李龍は、一人、天井を見上げていた。

 

「……理解度、か」

 

 理論の男は、あの決着を、何度も、反芻していた。

 機体を、誰よりも理解する。乗り手を、誰よりも理解する。それは、理論では、到達できない領域だった。

 

「僕には、まだ、足りないものがある」

 

 悔しさの中に、確かな、道標が、見えていた。

 

 周李龍は、静かに、モニターへ、向き直った。

 

「……決勝で、あの二人が、どこまで行くのか。見届けよう」

 

                ◇

 

 マセガキィは、椅子を、後ろに倒して、ふんぞり返っていた。

 

「……ちっ。しろっぷに勝ったのが、あの凪ってのが、気に入らねぇな」

 

 しろっぷに敗れた、格ゲーマー。だが、その口元は、笑っていた。

 

「まあいい。……あいつら、二人まとめて、次は俺が食ってやる」

 

 最適解を選ばない男は、次の獲物を、もう、見据えていた。

 

                ◇

 

 そして。

 

 迅・ソニックは。

 

 控室で、あの試合の、アーカイブを、眺めていた。

 

 凪の、底力。あの黒い翼。左腕を失ってなお、深化を上回った、超高速。

 そして、しろっぷの、深化。あの美しい異形と、戦えなかったことが。少しだけ、惜しかった。

 

「クリサリスとも、やってみたかったんだけどなあ」

 

 迅は、軽い調子で、そう呟いた。

 だが、その目は、既に、凪へと、向いている。

 

「まあいいや。……あの機体を作って、あの底力で戦う男が、決勝の相手か」

 

 爽やかな顔の奥に、隠しきれない、闘志が、滲む。

 

「……面白そうじゃん。久しぶりに、本気で、やれそうだ」

 

 迅は、立ち上がった。

 その足取りには、これから頂上決戦へ向かう者の、静かな高揚が、あった。

 

                ◇

 

 休憩時間の、終わりが、近づく。

 

 会場に、アナウンスが、響いた。

 

『――お待たせいたしました! まもなく、決勝戦を、開始いたしますッ!!』

 

『日本大会、最後の一戦!』

 

『迅・ソニック、対、凪ッ!!』

 

『予選無敗の絶対王者と、環境を破壊した裏方ビルダー。……この二人が、頂点を懸けて、激突しますッ!!』

 

 

 決勝の、幕が。

 

 もうすぐ、上がる。

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