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【5000PV感謝】フリーダム・フロント   作者: ボナンザ・ソバイユ
日本選抜

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62/72

第62話 幕間

 準決勝・第一試合。迅vsさくせすTが、白熱している。

 

 会場のメインモニターでは、市街地を舞台にした激戦が映し出されていた。

 だが、その喧騒から少し離れた整備スペースで、凪としろっぷは、二人きりだった。

 

 凪は、クリサリス・ヴァリアントの制御データを、コンソールに展開していた。

 無数の数値が、画面を流れていく。機体の挙動、関節の応答速度、各部位の連動。それを、凪は、一つ一つ、丁寧に調整していた。

 

「……やっぱり、ここですね」

 

 凪が、ぽつりと呟いた。

 

「ん?」

 

 しろっぷが、近くのベンチに腰掛けて、足をぶらぶらさせている。

 

「副腕の、0.3秒の遅延です。マセガキィ戦で、あなたが感覚で揺らがせて誤魔化していた、あの硬直」

 

 凪は、画面の数値を指でなぞった。

 

「あれ、本来は、もっと詰められるはずなんです。設計上、0.1秒台まで縮められる余地がある。……あなたが感覚で補ってくれていたから、見過ごしていました」

 

「ふーん。で、それ、直すの?」

 

「ええ。準決勝までに、間に合わせます」

 

 凪は、コンソールに向き直り、制御プログラムを、慎重に書き換えていく。

 副腕の駆動信号の伝達経路。連動のタイミング。冗長な処理を削り、応答を最適化する。

 

 数時間後に、自分と戦う相手の機体を。

 より強く、より完璧に、仕上げようとしている。

 

                ◇

 

 しろっぷは、その横顔を、ぼんやりと眺めていた。

 

 数時間後には、敵になる。

 なのに、この人は、自分の機体を、もっと強くしようとしている。

 

 こっそり細工でもして有利を取る、なんて発想は、凪にはない。

 しろっぷも、その疑いが、頭をよぎりすらしなかった。

 

(……この人は、そういうこと、絶対しないんだよな)

 

 凪にとって、機体を良くすることと、戦って勝つことは、別の話なのだ。

 目の前の機体に不具合があるなら、直す。それが敵の機体でも、関係ない。良い機体を、作る。ただ、それだけ。

 

 歪なほどに、まっすぐだった。

 

 

 しろっぷは、画面の中で研ぎ澄まされていく、自分の相棒を見つめた。

 

 あの異形の翼も。地を駆ける脚も。鱗粉も。深化のイマーゴも。

 全部、この男が、作ってくれた。

 

 自分の中にあった、よく分からない感覚。言葉にできなかった衝動。それを、凪は、形にしてくれた。

 他の誰でも、ダメだった。凪じゃなきゃ、クリサリスは、生まれなかった。

 

 

 その横顔を見ていたら。

 胸の奥が、少しだけ、落ち着かなかった。

 

 数時間後には、この男を、倒す。

 なのに、その男は、自分のために、こんなにも真剣な顔をしている。

 

(……ずるいな、ほんと)

 

 いつもの気怠さの奥で、何かが、静かに、熱を持っていた。

 

                ◇

 

 しばらくして。

 

 凪が、コンソールから、顔を上げた。

 

「……できました。副腕の遅延、0.3秒から、0.12秒まで詰めました。それ以上は、フレームの安定性とのトレードオフなので、ここが限界です」

 

 凪は、調整を終えたデータを、しろっぷの機体に転送した。

 

「これで、クリサリスは、今までより、ずっと鋭く動きます」

 

 しろっぷは、ベンチから立ち上がり、調整されたデータを、軽く確認した。

 副腕の応答が、明らかに、速くなっている。

 

「……ねえ」

 

「はい?」

 

「……ありがと」

 

「?」

 

「今は、それだけ」

 

 凪は、不思議そうに首を傾げてから、静かに笑った。

 

「準決勝。……あなたも、僕も、全力で行きましょう」

 

 凪は、調整を終えたクリサリスのデータを、もう一度だけ、確かめた。

 

「あなたが勝っても。僕が勝っても。……この機体が最高だってことは、どちらにしろ、証明されますから」

 

 しろっぷは、その言葉に、少しだけ、目を細めた。

 

「……言うじゃん」

 

「本当のことです」

 

 

 その時。

 

 会場のほうから、地鳴りのような歓声が聞こえてきた。

 準決勝・第一試合が、決着したのだ。

 

 二人は、モニターを見た。

 ボロボロになって片膝をついた、迅のシュトゥルム・ファルコン。そして、勝者の表示。

 

 決勝へ進むのは、迅・ソニック。

 その相手を決める戦いが、次だった。

 

「……行こっか」

 

 しろっぷが、言った。

 

「ええ」

 

 二人は、それぞれのダイブポッドへ向かって、歩き出した。

 

 

 最高の機体を、作った男。

 その機体を、最高に乗りこなす、少女。

 

 どちらが欠けても、クリサリス・ヴァリアントは、完成しない。

 

 なのに――今日、この二人の、どちらかが。

 

 ここで、止まる。

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