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【5000PV感謝】フリーダム・フロント   作者: ボナンザ・ソバイユ
日本選抜

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61/72

第61話 準決勝④

「ここからは、ちゃんと、僕も本気で行きます」

 

 白いシュトゥルム・ファルコンが、地を蹴った。

 

 本来の速度が、戻ってくる。

 さくせすTの弾幕の網の目を、迅は的確に縫っていく。射撃ユニットのリロードの隙を読み、射線の死角を繋いで、最短距離で本体へと迫る。

 

 さくせすTも、応じた。

 ビームユニットを近接モードに切り替え、迫る迅を、サーベルで迎え撃つ。

 

 ガギィンッ!!

 

 剣戟が、市街地に響いた。

 

 迅のサーベルと、さくせすTのT字ブレードが、高速で打ち合う。

 

 一合。二合。三合。

 

 互いに、一歩も引かない。

 迅の斬撃を、さくせすTが受け流し、カウンターを返す。それを迅が躱し、すかさず突きを放つ。さくせすTが半身でかわし、ブレードで弾く。

 

『すさまじい剣戟ですッ!! 両者、一歩も譲りませんッ!!』

『さくТ選手、近接もこんなにできるのか……! 迅選手の斬撃を、ちゃんと捌いてる。プレイヤースキルが、異常に高い……!』

 

 北海道の田舎で、狂ったように対戦を重ねてきた男。

 その地力は、本物だった。迅の猛攻を前にしても、さくせすTは、食らいつき続けている。

 

 だが。

 

 打ち合いが続くほど、削れていくHPの差は、少しずつ、開いていった。

 

 迅の斬撃が、さくせすTの装甲を、わずかに上回る精度で捉える。

 受け切れなかった一撃が、レグルス・マークIIの装甲を、削る。

 

 HP。

 迅、5割。さくせすT、6割5分。

 

 地力は近い。だが、迅のほうが、ほんの少しだけ、上だった。

 その「ほんの少し」が、剣戟を重ねるたびに、積み重なっていく。

 

(……っ、削られてる。でも、HPはまだ、俺のほうが上だ)

 

 さくせすTは、戦い方を、切り替えた。

 

 HP有利を、活かす。

 無理に攻めず、トラップで迅の動きを足止めしながら、距離を取る。削り合いを長引かせれば、HPの多い自分が、逃げ切れる。

 

 さくせすTは、後退しながら、T(テリトリー)・セットのバリアを次々に展開した。

 迅と自分の間に、壁を作る。同時に、T(ターミナル)・ステーションのユニットで、退路を弾幕で援護する。

 

 迅の速度を、バリアと弾幕で、削ぐ。

 

『さくТ選手、逃げに転じたッ!! HP有利を活かして、距離を取る作戦かッ!!』

『賢い判断ですよ。地力で少し負けてるなら、HP差で勝てばいい。トラップで足止めしながら、逃げ切る……!』

 

 迅は、バリアと弾幕の壁に、足止めされていた。

 バリアをサーベルで斬り、弾幕を躱し、それでも、さくせすTとの距離が、なかなか詰まらない。

 

(……このままだと、逃げ切られる。HP差は、覆らない)

 

 迅は、理解していた。

 通常の戦い方では、HP有利のさくせすTを、捉えきれない。

 

 ならば。

 

 迅の動きが、止まった。

 

 弾幕の中、シュトゥルム・ファルコンが、静かに、佇む。

 

「……さくせすTさん」

 

 迅の声が、静かに響いた。

 

「あなたの言う通り、僕は、よそ見してました。……でも、もう、しません」

 

 白い機体が、スラスターに、これまでとは比べ物にならない量の出力を、注ぎ込み始めた。

 

「ここで、全部、出し切ります」

 

 

 その瞬間。

 

 シュトゥルム・ファルコンの全身の継ぎ目から、青白い光が、噴き出した。

 

 オーバーブースト。

 

 だが、それは、さくせすTのものとは、桁が違った。

 

『なっ……!? 出力が、異常ですッ!!』

 

 解説の迫力雀士が、声を上げた。

 

『これは……オーバーブーストですけど、出力が、おかしい……! 普通のオーバーブーストの、何倍だこれ……!? 機体が、軋んでる……いや、壊れてる……!』

 

 オーバーブーストには、代償がある。出力を上げる代わりに、フレームを損壊する。

 だが、迅のそれは、損壊の度合いが、桁外れだった。装甲が裂け、フレームが歪み、機体のあちこちから、火花と破片が散っていく。

 

『機体を、犠牲にしてる……! フレームの損壊を、覚悟の上で……! 縛りが強ければ強いほど、出力は、大きくなる……! 迅選手は、機体を壊し切る覚悟で、最大の出力を、引き出してるんですッ!!』

 

 

 迅は、コックピットの中で、静かに、目を閉じていた。

 

(……この機体で飛ぶのも、これで最後だ)

 

 シュトゥルム・ファルコン。

 予選を全勝で駆け抜けた、相棒。

 この出力を出し切れば、もう、二度と飛べない。フレームは砕け、機体は、用をなさなくなる。

 

 だが、それでいい。

 

(次は、新しい翼で飛ぶ。……だから、最後に、お前の全部を、見せてくれ)

 

 迅の目が、開いた。

 

 

                ◇

 

 その瞬間。

 

 会場の、誰もが。

 

 何が起きたのか、分からなかった。

 

 

 音が、消えた。

 

 さくせすTのビームユニットが、火を噴く、その寸前。

 逃げようとした、レグルス・マークIIの、目の前。

 

 白い影が、あった。

 

 

 誰も、見えなかった。

 移動の軌跡も、加速の瞬間も。

 ただ、気づいた時には、もう、そこにいた。

 

 弾幕を抜けるでもなく、バリアを斬るでもなく。

 

 その全てを、置き去りにする速度で。

 

 白い鷹は、さくせすTの懐に、到達していた。 

 

                ◇

 

 フィールド。

 

 さくせすTの、視界。

 

 その全てが、一瞬で、書き換わっていた。

 

 逃げていたはずだった。距離を取っていたはずだった。

 なのに、目の前に、白い機体がいる。

 

(……速……)

 

 そう、思った時には。

 

 もう、迅のサーベルが、振り抜かれた後だった。

 

 

 ザンッ。

 

 

 たった、一閃。

 

 

 レグルス・マークIIの胴体が、両断されていた。

 

 HPゲージが、一瞬で、ゼロへと墜ちていく。

 

 

『――Winner, 迅・ソニック』

 

 

 会場が、一拍遅れて、爆発した。

 

 何が起きたのか、理解した観客たちが、地鳴りのような歓声を上げる。

 

『き、消えましたッ!! 迅選手、一瞬で距離を詰めて、一刀のもとにッ!! 今の、見えた人、いますか!?』

『……無理ですよ。あんなの、目で追えない。コア・シンクの処理が、追いつかないレベルの速度です。……これが、迅・ソニックの、本気か』

 

 

 光の粒子になって崩れていくレグルス・マークIIの前で、シュトゥルム・ファルコンが、ゆっくりと、片膝をついた。

 

 全身が、ボロボロだった。

 装甲は裂け、フレームは歪み、関節からは火花が散り続けている。

 

 HP表示。

 迅、1割。

 

 オーバーブーストの反動。

 たった一撃のために、迅は、HPの半分を、自ら焼き払っていた。

 そして、シュトゥルム・ファルコンは、もう、二度と飛べない姿になっていた。

 迅は、コックピットの中で、ボロボロになった機体に、そっと手を触れた。

「……ありがとう」

 誰にも聞こえない声で、相棒だった機体にだけ、そう告げた。

 

                ◇

 

 リザルト画面。

 

『……いやー』

 

 さくせすTの声が、聞こえた。

 

 悔しさは、なかった。

 あるのは、満足でもなかった。

 

 もっと、純粋な――興奮だった。

 

『なんすか、今の。マジで、見えなかったっす』

 

『……すみません。最後、機体を壊してでも、勝ちにいきました』

 

『いやいや、謝らないでくださいよ』

 

 さくせすTの声が、弾んでいた。

 

『俺、今、めちゃくちゃ興奮してるんすよ。本気のあんたが、あんなに速いなんて。……あれが、全国のトップの世界か。すげえや。ほんと、すげえ』

 

『……』

 

『俺らの遊びも、ちゃんと、あんたをここまで引っ張り出せた。それだけで、来た甲斐があったってもんっす』

 

 さくせすTは、清々しく、笑った。

 

『次は、絶対、勝ちますからね。俺らの機体で。……覚えといてくださいよ、迅くん』

 

『……ええ。楽しみにしています』

 

 

 通信が、切れた。

 

 

                ◇

 

 北海道。

 

「……負けたか」

 

 キリンが、ぽつりと言った。

 

 だが、その顔は、晴れていた。Tuckも、画面の中のボロボロのレグルスを見つめながら、笑っていた。

 

「でも、あの迅を、ここまで追い込んだんだ。……さくT、よくやったよ」

「全国に、見せつけたな。俺らのトラップが、ちゃんと通用するって」

 

 二人は、缶を掲げて、画面の中の友に、乾杯した。

 

 

                ◇

 

控室。

 迅の勝利を見届けた、凪としろっぷ。


 凪が、何か言いかけて、隣を見た。


 しろっぷは、画面を見つめたまま、何も喋らなかった。


 一瞬の閃光で勝負を決めた、本気の迅。その速度を、ただ、静かに見ていた。

「……速いね」

 ぽつりと、それだけ。


 だが、その目は、笑っていた。

 気怠げな表情の奥で、瞳だけが、獲物を前にした獣のように、爛々と光っている。

 あの速度が、決勝で待っている。


 そこへ行くには、まず、隣のこの男を、倒さなければならない。



 しろっぷの口元が、わずかに、吊り上がった。


最強となったプレイヤーと最強を作ったビルダー。二人で一つ、合わせて最強となったプレイヤー同士が、今、互いに牙を剥く。

 準決勝・第二試合、凪vsしろっぷ。


その戦いが、もうすぐ、始まる。

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