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【7000PV感謝】フリーダム・フロント   作者: ボナンザ・ソバイユ
日本選抜

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60/72

第60話 準決勝③

 空中に打ち上げられた迅へ、さくせすTのレグルス・マークIIが、オーバーブーストの光を纏って迫る。

 

 その光景の上に、一つの説明を、添えておく必要があるだろう。

 

 さくせすTの戦い方を支える、あの無数のトラップ。

 あれは、「トラップツール」と呼ばれる、一つの装備だった。

 

 

 北海道の、地方都市。

 

 かつて、その土地では、ネット対戦の環境が劣悪だった。

 回線のラグが大きく、コンマ数秒の遅延が、勝敗を分けるこのゲームでは、致命的だった。だから、さくせすTたちは、世界と繋がる代わりに、仲間内でのオフライン対戦に明け暮れた。

 

 ラグのない、ゼロ距離の対戦。

 外の世界に触れることなく、ただ、身内だけで、狂ったような時間を、対戦に費やし続けた。

 

 その異常な密度の積み重ねが、彼らを、化け物にした。

 

 誰に知られることもなく、田舎の片隅で、世界基準を超えるプレイヤーが、何人も生まれていた。さくせすTも、真摯なキリンも、そして大会に出ていないTuckも。北海道のあの界隈は、知る人ぞ知る、天才の巣窟だった。

 

 そんな彼らが、戦いに幅を持たせるために、共同で開発したのが――トラップツールだった。

 

 コスト270。

 装備としては、破格に重い。総コスト1000のうち、4分の1以上を、これ一つに費やすことになる。

 その代わり、事前に登録したトラップを、コストの許す限り、自由に使える。バリア、射撃ユニット、打ち上げ機構。組み合わせは、無限。

 

 270という重さは、本来なら、致命的なハンデだ。

 だが、北海道の天才たちは、それを、プレイヤースキルと工夫で補ってしまう。

 残ったコストを切り詰め、配置の妙と読みの精度で、トップ層と渡り合う。

 

 さくせすTの予選4位通過は、運でも、まぐれでもない。

 地方の片隅で磨き抜かれた、本物の実力だった。

 

 

                ◇

 

 フィールド。

 

 打ち上げられた迅へ、さくせすTのビームユニットが、照準を合わせた。

 オーバーブーストの出力を乗せた、極太のT字ビーム。

 

『――T(トリガー)・バースト』

 

 空中の迅に、回避は、できなかった。

 

 ドォォォンッ!!!

 

 直撃。

 

 シュトゥルム・ファルコンが、ビルの壁面に叩きつけられ、瓦礫と共に地面へ落下した。

 

『直撃ッ!!! さくせすT選手、特大の一撃ッ!! 迅選手のHPが、大きく削れましたッ!!』

『罠で打ち上げて、オーバーブーストのビームで仕留めにいった……! 完全に、組み立て勝ちですよ、これは!』

 

 HP表示。

 迅、5割。

 

 予選全勝の絶対王者が、HPを半分まで、削られていた。

 

                ◇

 

 北海道。

 

「うおおおおッ!! でっか!!」

 

 Tuckが、立ち上がって叫んだ。

 

「さくT、迅を半分まで削ったぞ!!」

「マジかよ……! あの迅を……!」

 

 キリンも、興奮を隠せなかった。

 

「やっぱ、あいつの配置、全国でも通用するんだ……!」

 

                ◇

 

 フィールド。

 

 瓦礫の中から、シュトゥルム・ファルコンが、ゆっくりと立ち上がった。

 

「……いやあ、参ったな。本当に、強いですね、さくせすTさん」

 

 迅の声は、まだ、どこか余裕があった。

 だが、その余裕に、さくせすTは、静かにキレた。

 

「……迅くん」

 

 さくせすTの声が、低くなった。

 いつもの、フランクで軽い調子が、消えていた。

 

「あんた、まだ、本気じゃないっすよね」

 

「……」

 

「開幕、ぼうっとしてたのも。今、半分削られても余裕なのも。……あんた、どっか、上の空だ」

 

 さくせすTの機体が、オーバーブーストの光を、さらに強めた。

 

「俺さ。あんたみたいな化け物に、勝ちたいんすよ。本気のあんたに、勝ちたいんだ」

 

 さくせすTの声に、熱が、こもっていく。

 

「俺らの機体は、北海道の田舎で、みんなで楽しみながら作ったやつだ。トラップだらけで、ふざけてて、でも、めちゃくちゃ強い。……俺は、それを、証明しなきゃならない」

 

 ビームユニットが、唸りを上げる。

 

「俺らの遊びが、ちゃんと、全国に通用するってこと。本気のあんたを倒して、見せてやらなきゃならないんだ」

 

 さくせすTの目が、迅を捉えた。

 

「だから――本気、出してくださいよ。迅くん」

 

 

 その言葉が。

 

 迅の、上の空だった意識を、ようやく、完全に、引き戻した。

 

 

 迅の動きが、変わった。

 ぼんやりと遠くを見ていた視線が、まっすぐ、さくせすTを捉える。口元の余裕の笑みが、消える。代わりに浮かんだのは、戦士の、静かな集中。

 

「……ごめんなさい、さくせすTさん」

 

 迅の声が、低くなった。

 

「僕、ちょっと、よそ見してました。……あなたみたいに本気の人に、失礼でしたね」

 

 白いシュトゥルム・ファルコンが、構えを取り直す。

 

「ここからは、ちゃんと、僕も本気で行きます」

 

 その瞬間。

 

 会場の空気が、変わった。

 

 今まで、本気を出していなかった絶対王者が。

 ようやく、その牙を、剥こうとしていた。

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