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【5000PV感謝】フリーダム・フロント   作者: ボナンザ・ソバイユ
日本選抜

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58/72

第58話 準決勝①


『――皆さん、大変長らくお待たせしました!! いよいよ、準決勝の開始ですッ!!』


 


 実況のマイク富岡の声が、会場を震わせた。


 1回戦を勝ち抜いた、4人の選手。その中から、決勝に進む2人を決める戦い。


 


『準決勝・第一試合は、こちらのカード!! 予選全勝の絶対王者、迅・ソニック選手ッ!! 対するは、予選最終日のダークホース、さくせすT選手ッ!!』


 


 会場が沸く。


 


                ◇


 


 迅の控室。


 


 迅は、ソファに座って、端末の画面を眺めていた。


 


 そこに表示されているのは、機体の製作状況。


 進捗を示すゲージは、まだ、完成には程遠い。


 


「……さすがに、まだか」


 


 ぽつりと、呟いた。


 


 画面を閉じて、立ち上がる。


 


「ま、いいや。今日は、いつものシュトゥルム・ファルコンで行こう」


 


 迅は、軽く首を回して、控室を出た。


 その表情は、いつも通りの爽やかな笑みだった。


 


                ◇


 


 さくせすTの控室。


 


 さくせすTは、端末のグループチャットを開いていた。


 


『準決勝、いよいよだな!』


『相手、迅・ソニックって、あの予選全勝の人だろ?』


『さくT、勝てんのか?』


『勝てるっしょ。なあ、たっくん』


 


 北海道の仲間たち。


 画面の向こうで、キリンとたっくんが、また集まって観戦しているらしい。


 


 さくせすTは、笑いながら返信を打った。


 


『正直、相手やばいよ。予選全勝とか、化け物じゃん』


『でも、やるからには勝ちにいくわ。みんなのT・キット、しっかり使ってくる』


 


 T・キット。


 北海道の仲間たちで、共同開発したトラップ装備。


 ロボット型に組み込める、汎用のギミックキット。設置式のトラップ、バリア、各種ガジェット。「T」の名を冠した装備の数々は、すべて、ここから生まれている。


 真摯なキリンも、同じT・キットを使っている。やれることが多くて、組み合わせ次第でいくらでも戦い方が広がる。それが楽しくて、北海道の仲間たちは、みんなこれを使っていた。


 


『おう、T・キットの本領、全国に見せてやれ!』


『キリンの分も頼んだぞ!』


 


 さくせすTは、その返信を見て、少しだけ笑った。


 


(……みんなのキットだ。しっかり、使わせてもらうよ)


 


 ダイブポッドへ向かう。


 


                ◇


 


 北海道。


 


 画面の前に、キリンとたっくんが、缶ジュースを片手に座っていた。今日は、まだ酒は開けていない。


 


「さくT、相手やばいぞ。迅・ソニックって、予選で一回も負けてないんだろ」


 


 キリンが、唸った。


 


「速度特化の機体に、あの動体視力。近接でも射撃でも、隙がない。……正直、分が悪いよな」


 


「でもさ」


 


 たっくんが、画面を見ながら言った。


 


「さくT、こういう格上相手のほうが、燃えるタイプじゃん。ラブマクス戦も、わざわざリング作って近接やってたしさ」


 


「それな。あいつ、相手の土俵で勝ちたがるんだよなあ」


 


 キリンが、苦笑する。


 


「迅相手に、どう来るかね」


「いつものT・キットだろ。中距離で、置き撃ちと配置。……あの読み、迅にどこまで通用するか」


 


 二人は、画面の中の、入場するさくせすTを見つめた。


 


「……勝ってこいよ、さくT」


 


                ◇


 


 メインステージ。


 


 大歓声の中、二人の選手が、ダイブポッドへ向かって歩いていく。


 


 迅・ソニック。爽やかな笑みを浮かべた、予選全勝の絶対王者。


 さくせすT。緊張した面持ちの中に、楽しさを滲ませた、ダークホース。


 


 二人が、すれ違う。


 


「さくせすTさん、でしたよね。1回戦、見てましたよ」


 


 迅が、にこやかに話しかけた。


 


「リング作って近接やるの、面白かったです。あんな戦い方する人、初めて見ました」


 


「あー、あれね。なんか、近接でやりたくなっちゃって」


 


 さくせすTが、照れたように笑った。


 


「迅さんこそ、周李龍戦すごかったっす。重力操作、攻略しちゃうんだもんなあ」


 


「いやあ、あれは運が良かっただけですよ」


 


 迅は、爽やかに笑った。


 だが、その笑みのどこかが、ほんの少しだけ、上の空だった。


 視線が、一瞬、遠くを見るように、揺れる。


 


「……迅さん?」


「あ、すみません。ちょっと、考え事を」


 


 迅は、すぐにいつもの笑顔に戻った。


 


「準決勝、楽しみましょうね。さくせすTさん」


「……はい。お手柔らかに」


 


 二人は、それぞれのダイブポッドへ。


 


                ◇


 


 凪としろっぷ、周李龍、ラブマクスの控室。


 


 モニターに、準決勝・第一試合のフィールドがロードされていく。


 


「迅、優勝候補筆頭よね」


 


 ラブマクスが、頬杖をついた。


 


「さくТちゃん、勝てるのかしら」


 


『……難しいでしょうね』


 


 周李龍が、静かに言った。


 


「迅は、本当に穴がない。速度、近接、射撃、適応力。すべてが高い水準で揃ってる。さくТの中距離制圧は強力だが、迅の速度の前では、距離を保つこと自体が難しい」


 


「じゃあ、迅の勝ち?」


 


『……分かりません。さくТは、1回戦でも、不利を覆してきた。あの読みの精度は、本物です』


 


 しろっぷは、モニターを眺めながら、ぽつりと言った。


 


「……迅、ちょっと変じゃない?」


 


『変?』


 


「うん。なんか、上の空っぽい。集中してない感じ」


 


 周李龍が、僅かに目を細めた。


 


「……言われてみれば。何か、別のことを考えているような」


 


 モニターの中で、迅のシュトゥルム・ファルコンが、フィールドに降り立った。


 白い鷹のような、優美なフォルム。予選全勝を支えた、速度特化の機体。


 


                ◇


 


 フィールド。


 


 ステージは、市街地。


 高層ビルが立ち並び、複雑に入り組んだ街路。中距離戦にも、高速戦闘にも対応する、立体的な戦場。


 


 白いシュトゥルム・ファルコンと、堅牢なレグルス・マークIIが、街路の両端で向かい合った。


 


『さあ、準決勝・第一試合ッ!! 迅・ソニック選手対さくせすT選手ッ!! 絶対王者か、ダークホースか!!』


『さくТ選手、中距離をどう作るかですね。迅選手の速度に距離を詰められたら、一気に不利になる。逆に、距離を保って配置撃ちのパターンに持ち込めれば、勝機はあります』


 


 さくせすTは、ビームユニットを構えながら、迅を見据えた。


 


「迅さん」


「はい?」


「俺、あんたみたいな速いの、相手にすんの、初めてなんすよ」


 


 さくせすTの声には、緊張と、それを上回る楽しさが滲んでいた。


 


「でも、だからこそ、燃えるっていうか。……全力で、行かせてもらいます」


 


「ええ。どうぞ」


 


 迅は、爽やかに笑った。


 


「僕も、全力で。……まあ、今日の僕は、いつもの僕ですけどね」


 


 その一言の意味を、さくせすTは、まだ知らなかった。


 


 試合開始のカウントダウン。


 


 3。2。1。


 


 ゼロ。




 


 ――だが。


 迅が、動かなかった。


 


 いつもの迅なら、開幕と同時に、最高速で距離を詰めているはずだった。誰よりも速く、誰よりも先に、相手の懐へ。それが、予選全勝を支えた、迅・ソニックの戦い方だった。


 なのに、白いシュトゥルム・ファルコンは、街路の端で、静止したままだった。


 


『……あれ? 迅選手、動きません!?』


『おかしいですね。いつもなら、開幕ダッシュで仕掛ける選手なのに……』


 


 さくせすTも、その異変に、戸惑っていた。


「……迅くん?」


 返事は、なかった。


 白い鷹は、何かに気を取られているかのように、ただ、その場に佇んでいた。

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