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【5000PV感謝】フリーダム・フロント   作者: ボナンザ・ソバイユ
日本選抜

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56/72

凪vs戦神覇王⑤


 黒い翼を広げた堕天使が、雪の大地から舞い上がった。


 


 深化したゴッドブレイカーの龍頭が、それを追う。だが、届かない。


 翼の一打で、凪は龍頭の群れの間を縫うように飛んだ。糸を使った強制移動とは、次元の違う自由さ。空間そのものを、味方につけている。


 


『速いッ!! 凪選手、深化したゴッドブレイカーの攻撃を、完全に振り切っています!!』


『底力ですよ……! ヒューマン型の覚醒、底力。HP10%以下で発動して、全ステータスが爆発的に上昇する……! 今の凪選手、別の機体みたいだ……!』


 


 凪の右手のピラリスが、漆黒のオーラを纏って、龍頭の一本を貫いた。


 砕ける。


 返す動きで、もう一本。砕ける。


 


 深化の鱗を弾いていたはずの装甲が、底力のピラリスの前に、紙のように割れていく。


 


                ◇


 


『しかし、驚きましたね。アルカナ・オブスキュアが、ヒューマン型だったとは。ずっとロボット型に偽装していた』


『これ、理由があるんですよ』


 


 迫力雀士が、興奮を抑えきれない声で続けた。


 


『ヒューマン型の底力は、上昇倍率が、3つの覚醒の中でも飛び抜けて高いんです。でも、弱点がある。発動条件が「HP10%以下」って、ガチガチに決まってる。つまり、相手にバレてると、HPを10%ギリギリで止めて、底力を発動させないように削られるんですよ』


『調整されてしまう、と』


『そうです。だから、ロボット型だと思わせておけば、相手は底力を警戒しない。普通に削ってくる。そして、10%を切った瞬間――この、大逆転が起きる。……隠してたのは、この一撃のためだったんですよ』


 


                ◇


 


 控室。


 


 しろっぷは、画面の中の凪を、静かに見つめていた。


 


(そう。凪のアルカナは、ヒューマン型なのに、能力を積んでない)


 


 しろっぷは、知っていた。凪が、この機体に込めた設計思想を。


 


(ヒューマン型は、固有の能力枠を持てる。みんな、そこに何か強い能力を載せる。でも、凪は、載せなかった。能力に回すはずだったコストを、全部、素のステータスに振った)


 


(能力ぶんのコストが、まるごとステータスに乗ってる。だから、底力でその数字が爆発した時――上がり幅が、他のヒューマン型より、ずっと大きい)


 


 しろっぷは、ぽつりと呟いた。


 


「派手な能力なんて、いらなかったんだよ。……凪は、自分の手で勝てるように、機体を組んだ」


 


                ◇


 


 フィールド。


 


 戦神覇王のゴッドブレイカーが、龍頭を次々と砕かれていた。


 


『……っ、なんで……!』


 


 戦神覇王の声に、初めて、焦りが滲んだ。


 


 深化した。最強の形になった。なのに、目の前の堕天使は、その最強を、easy に踏み越えてくる。


 無数の龍頭が、片端から貫かれる。本体の突進は、翼で躱される。毒霧も、炎も、底力の出力の前では、足止めにすらならない。


 


『……俺の、ゴッドブレイカーが……』


 


 戦神覇王の声から、楽しさが消えかけていた。


 代わりに滲んだのは、戸惑い。そして、初めて味わう、本物の格上への、恐れ。


 


 その時。


 


「覇王ッ!!」


 


 通信に、シモーネの声が、響いた。


 


 いつも冷静な兄の、初めての、怒鳴り声だった。


 


「下を向くな!!」


 


『兄ちゃん……』


 


「お前、今、楽しくないのか!?」


 


 シモーネの声は、震えていた。


 現場が怖くて、操縦を降りた男。盤面の裏で、ずっと安全な場所から弟を見ていた男。


 その男が、今、初めて、自分の恐怖を押し殺して、弟に向き合っていた。


 


「俺はな、お前のその、何も考えずに、ただ強い相手に飛び込んでいく、その馬鹿みたいな楽しさが、羨ましかったんだよ!!」


 


『……』


 


「俺には、できなかった。怖くて、降りた。だから、お前に託したんだ! お前なら、俺が見たかった景色の、もっと先まで行けると思ったから!」


 


 シモーネの声が、割れた。


 


「だから……最後まで、楽しめ!! お前の戦いを、止めるな!!」


 


 


 戦神覇王の、ゴッドブレイカーが。


 


 動きを、止めた。


 


 一瞬。


 


 そして。


 


『……そっか』


 


 戦神覇王の声に、楽しさが、戻っていた。


 いや、楽しさだけではない。これまでになかった、覚悟のような熱が、宿っていた。


 


『ごめん、兄ちゃん。俺、ちょっとビビってた』


 


 ゴッドブレイカーの全身から、漆黒のオーラが、さらに膨れ上がった。


 


『でも、もう大丈夫。……最後まで、楽しむわ』


 


 深化したゴッドブレイカーが、残った龍頭のすべてを、凪に向けた。


 毒霧を全力で吐き、炎で引火させ、本体の突進と、龍頭の総攻撃を、同時に放つ。


 持てるすべてを、この一撃に。


 


『うおおおおおッ!!』


 


 神話の災厄が、最後の咆哮を上げて、堕天使に殺到した。


 


 


 凪は、その総攻撃を、正面から見据えた。


 


 表情のない顔。きらめく目。


 黒い翼を、大きく広げる。


 


 そして、翼を一打した。


 


 漆黒の堕天使が、迫り来る龍頭の群れの、真っ只中へ突っ込んだ。


 


『――』


 


 無言のまま。


 


 右手のピラリスが、漆黒のオーラを纏って、横一文字に薙がれた。


 


 ズバァァァッ!!


 


 迫っていた龍頭の群れが、一掃された。


 無数の龍頭が、まとめて両断され、雪の大地に落ちていく。


 


『なっ……!?』


 


 龍頭を失ったゴッドブレイカーの、本体。


 その四裂した顎が、最後の力で、凪を噛み砕こうと開く。


 


 凪は、躱さなかった。


 


 開かれた顎の、真正面へ。


 


 ピラリスを、突き出した。


 


 漆黒のオーラを纏った巨大な杭が、ゴッドブレイカーの口腔の奥を、喉ごと貫いた。


 そのまま、凪は翼で加速し、蛇龍の頭部を地面へと押し込んでいく。


 


 ドゴォォォォンッ!!!


 


 ピラリスが、ゴッドブレイカーの頭部を貫いたまま、雪の大地に深々と突き刺さった。


 蛇龍の巨体が、地面に縫い付けられる。


 


『ガ、アアッ……!』


 


 ゴッドブレイカーが、もがく。


 だが、ピラリスに頭部を貫かれ、動けない。


 


 凪が、その胸元へ、ゆっくりと降り立った。


 


 ゴッドブレイカーの胸の、一枚だけ、色の違う鱗。


 逆向きに生えた、逆鱗。


 


 凪は、右の拳を、引いた。


 底力のオーラが、その拳に収束していく。


 


『……あんた、強いね』


 


 戦神覇王の声は、もう、焦っていなかった。


 穏やかで、満足げで、どこか清々しかった。


 


『最後の最後まで、楽しかった。……ありがと』


 


『……ええ。僕も、楽しかったです』


 


 凪が、初めて、言葉を返した。


 


 そして。


 


 漆黒のオーラを纏った拳が、逆鱗へ、叩き込まれた。


 


 ドゴォンッ!!!


 


 


 ゴッドブレイカーの巨体が、内側から、光に弾けた。


 


 HPゲージが、ゼロに突き刺さる。


 


『――Winner, 凪』


 


 


 漆黒の堕天使が、光の粒子になって消えていくゴッドブレイカーの上で、黒い翼を広げて、佇んでいた。


 


 


 会場が、一拍の沈黙の後。


 


 爆発した。


 


 これまでで、最大の歓声が。


 


 


                ◇


 


 観客には見えない場所。


 


 シモーネは、モニターの前で、立ち尽くしていた。


 


 負けた。


 弟が、負けた。


 


 だが、その顔は、不思議と、晴れていた。


 


「……いい試合だったな、覇王」


 


 ぽつりと、呟いた。


 


                ◇


 


 リザルト画面。


 


『……兄ちゃんに、怒鳴られたの、初めてだったわ』


 


 戦神覇王の声は、軽かった。


 


『あんなに熱い人だと思わなかった。……まあ、おかげで、最後まで楽しめたけどさ』


 


『……いい、お兄さんですね』


 


『でしょ? 自慢の兄ちゃんなんだ』


 


 戦神覇王は、少しだけ間を置いて、続けた。


 


『凪先輩。次は、負けないから』


 


『……ええ。待っています』


 


『あ、やっと敬語で呼んでくれた』


 


 戦神覇王が、笑った。


 


 通信が、切れた。


 


 


 凪は、ダイブポッドの中で、静かに息を吐いた。


 


 底力が解けていく。漆黒の翼が、光になって消える。アルカナ・オブスキュアが、半壊した姿のまま、勝者として、フィールドに立っていた。


 


 準決勝。


 


 相手は、しろっぷ。


 


(……次は、あなたですね)


 


 凪は、まだ見ぬ準決勝の舞台を、静かに見据えた。

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