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【5000PV感謝】フリーダム・フロント   作者: ボナンザ・ソバイユ
日本選抜

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53/72

 凪vs戦神覇王②



 巨大な蛇龍が、低く沈み込んだ姿勢から、解き放たれた。




 




 2度目の突進。




 だが、1度目とは違った。直線ではない。炎の残る大地を縫うように、不規則にうねりながら迫ってくる。




 




 凪は糸を放った。右の氷柱へ。




 




 だが、糸が氷柱に絡む前に、戦神覇王のゴッドブレイカーは、すでにその氷柱のほうへ頭を向けていた。




 




(……読まれている!?)




 




 凪が糸で移動するより速く、蛇龍の尾が、氷柱を薙ぎ払った。




 移動先を、潰された。




 凪は空中で糸を切り、別の方向へ落下する。着地が乱れる。




 




 その隙に、蛇龍の顎が迫った。




 ギリギリで、ピラリスを盾にして受ける。




 衝撃で、機体ごと吹き飛ばされた。雪の大地を転がり、氷塊にぶつかって止まる。




 




 HP8割。




 




『凪選手、防戦一方ですッ!! 戦神覇王選手、凪選手の移動先を完全に読んでいます!!』




『これ、不気味ですよ。凪選手の糸が向かう先に、先回りしてる。普通、糸が伸びてから反応するものなんですけど、伸びる前に動いてる』




 




 凪は、氷塊の影で、戦神覇王の動きを観察していた。




 




(……どうやって、移動先を読んでいる? 僕の糸の射出を見てから動いているんじゃない。撃つ前に、もう動いている)




 




 戦神覇王のゴッドブレイカーが、ちろりと舌を出した。




 縦長の瞳孔は、必ずしも凪のほうを向いていない。なのに、凪の動きには正確に反応する。




 




『あんた、避けるの上手いね』




 




 戦神覇王の声には、本気の感心と、年下らしい遠慮のなさが滲んでいた。




 




『でもさ、無駄だよ。あんたがどこ行くか、なんとなく分かるんだよね。俺、難しいことは分かんないけど』




 




 なんとなく。




 その一言に、凪は、僅かな引っかかりを覚えた。




 理屈ではなく、感覚で読んでくる。それは、最も対処しにくいタイプの相手だ。




 




 凪は、もう一度、糸を放った。




 今度は、わざと大きな弧を描く軌道で。蛇龍の反応を、観察するために。




 




 戦神覇王のゴッドブレイカーは、糸が伸びきる前に、すでに着地点へ向かって動き出していた。




 その時、凪は気づいた。




 




 蛇龍の鼻先――顎の上の、左右一対の窪み。




 糸の移動に合わせて、その窪みが、微かに開閉している。




 




(……あの窪み。目じゃない。あれで、何かを感じ取っている)




 




 凪の記憶が、一つの知識を手繰り寄せた。




 




(蛇は、ピット器官を持つ。熱を感知する器官。赤外線で、獲物の体温を「見る」。……ニーズヘッグの完成度の高さゆえに、その器官まで再現されているのか)




 




 凪は、試しに、機体の出力を一瞬だけ絞った。熱源を、わずかに抑える。




 すると、蛇龍の反応が、ほんの一拍、遅れた。




 




(……やはり。あいつは、僕の機体の熱を追っている)




 




『あれ?』




 




 戦神覇王が、首を傾げた。




 




『なんか、あんたの動き、急に分かりにくくなった』




 




 戦神覇王自身は、自分が熱を感知していることを、理解していない。




 ただ、感覚として「分かる」のだ。蛇龍の本能が伝えてくる情報を、そのまま反射に変えている。




 




                ◇




 




 観客には見えない場所。




 シモーネは、自分のタブレットを睨んでいた。




 




 弟は、何も理解していない。




 ピット器官のことも、熱感知のことも、自分がなぜ相手の動きを読めるのかも。




 だが、それでいい。




 




 弟は、操縦する。




 兄は、盤面を読む。




 




 弟の本能が捉えた情報を、兄の頭脳が意味に変える。獣の勘と、人の知略。その2つが重なった時、ゴッドブレイカーは、設計値を超えた1匹の生き物になる。




 




 シモーネは、通信で短く伝えた。




「覇王。相手、お前が熱を読んでることに気づき始めてる。熱源を絞られると、追いきれなくなるぞ。動きを散らして、相手が熱を絞れない状況に持ち込め」




『りょーかい。よく分かんないけど』




 




 弟の返事は、軽い。




 だが、その軽さの裏で、兄の指示が、確実に弟の戦いを支えていた。




 




 




 ただ、シモーネの胸には、一つだけ、拭えない懸念があった。




 




 このフィールド。氷と雪の地。




 




(……ハズレを引いた)




 




 ニーズヘッグは、神話の再現度が高いがゆえに、生物としての特性も色濃く受け継いでいる。蛇は、変温動物だ。




 寒冷地のフィールドは、ゴッドブレイカーにとって、相性が悪い。




 




 だからこそ、覇王には毒霧と引火で炎を撒かせ、フィールドの温度を保たせていた。




 それは攻撃であると同時に、自分たちの機体を温めるための、生命線でもあった。




 




(炎を絶やすな。温度を保て。……この戦い、長引かせるほど、こちらが不利になる)




 




 シモーネは、それを、まだ凪が気づいていないことを、祈っていた。




 




                ◇




 




 フィールド。




 




 戦神覇王の動きが、変わった。




 突進を止め、フィールドを大きくうねりながら旋回し始める。凪との距離を一定に保ち、攻撃の起点を散らしていく。




 毒霧と引火を、断続的に続けながら。




 




 凪は、その変化に気づいた。




 




(……攻め方を変えた。さっきまでの直線的な攻撃が消えた。僕が熱感知に気づいたことを、向こうも察したのか)




 




 いや、違う。




 戦神覇王本人は、そこまで考えていない。




 




(……後ろに、誰かいる。あの動きの変化は、本人の判断じゃない。あの子の感覚を、誰かが読んで、支えている)




 




 凪の脳裏に、控室で見たもう一人の姿が浮かんだ。




 《ゴッドブレイカー》のビルダー。戦神覇王の兄。




 




(感覚で動く弟と、それを読んで動かす兄。……2人で1匹の蛇龍を操っているのか)




 




 厄介な組み合わせだった。




 本能の反射と、理論の補正。どちらか片方なら対処できる。だが、両方が噛み合うと、穴がない。




 




『あんた、また何か考えてるでしょ』




 




 戦神覇王の声が、炎の向こうから聞こえた。




 




『考えるの好きだね。俺、そういうの苦手だからさ。考えるより、動いたほうが早いじゃん』




 




『……そうですね。でも、僕は、考えるしかできないので』




 




 凪は、ピラリスを握りながら、頭の中で、戦神覇王という相手の全体像を組み上げていた。




 




 巨体なのに速い。鱗でビームを弾く。毒を引火させて範囲を作る。熱で動きを感知する。背後に、それを支える兄がいる。




 




 穴の、ない布陣。




 




 だが。




 




 凪の視界の端に、炎の熱で溶けていく氷が映っていた。




 広がっていく、水たまり。




 




 そして、もう一つ。




 




 凪は、気づいていた。




 戦神覇王のゴッドブレイカーが、炎を絶やさないこと。毒霧と引火を、攻撃が必要ない場面でも、断続的に続けていること。




 




(……なぜ、炎を撒き続ける? 攻撃のためだけなら、もっと効率的な使い方があるはずだ。なのに、常に自分の周りに、熱を保とうとしている)




 




 その違和感が、凪の思考に、小さな引っかかりを残した。




 




(……まるで、自分自身を、温めているみたいに)




 




 まだ、確信ではない。




 だが、糸口の一つになるかもしれない。




 




 凪は、その引っかかりを、胸の奥に留めた。




 




 炎が、フィールドを照らし続ける。




 その熱で、氷は溶け、水たまりは、少しずつ、広がっていった。



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