表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【5000PV感謝】フリーダム・フロント   作者: ボナンザ・ソバイユ
日本選抜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/72

第50話 マセガキィ vs しろっぷ③

 マセガキィの全身が、青く光った。

 

 加速能力の全開発動。今まで細切れに使ってきた残り時間を、一気に注ぎ込んでいる。残量を気にしない、最後の賭け。

 

 《サイコダイバー》が、消えた。

 

 文字通り、視認できない速度で、廃工場の床を蹴る。

 短剣の青いエネルギーブレードが、空気を切り裂いて深化したイマーゴに迫る。

 

「――《ハイパー》・スラッシュ」

 

 最速の二刀流。左右の短剣が、別々の軌道で同時に襲いかかる。一撃ごとに加速のスキを潰し、回避の硬直を消し、息継ぎすら許さない連撃。

 

『マセガキィ選手の加速、全開です!! これは速い、見えない!!』

『フレーム単位の連撃ですね。格ゲーで言うところの「永久コンボ」みたいな、隙のない連携。これだけ繋がれたら、普通は対処不能ですよ』

 

 短剣が、イマーゴの副腕を弾く。

 もう片方の短剣が、イマーゴの胴体を浅く斬る。

 

 HPが、微かに削れた。

 

「やった――」

 

 マセガキィの口元に、笑みが浮かびかけた。

 

 その瞬間。

 

「それ、迅の劣化版だね」

 

 しろっぷの声が、頭上から落ちてきた。

 

 マセガキィの目が、見開かれた。

 

 いつの間にか、深化したイマーゴが空中に浮かんでいた。蝶の翼が、ゆったりと羽ばたいている。マセガキィの連撃を、最後の1撃で受け流して、滞空に逃げていた。

 

「あいつのほうが、もっと速いし、もっと無駄がないよ」

 

 しろっぷの声は、平坦だった。挑発でも侮蔑でもなく、ただ、事実の確認として。

 

「……は?」

 

 マセガキィの呼吸が、止まった。

 

 迅・ソニックの劣化版。

 

 その言葉が、マセガキィの心に深く刺さった。

 自分のすべてを注ぎ込んだ全開の加速。フレーム単位の二刀流連撃。プロとしての矜持を懸けた最後の攻め。

 それが、「劣化版」。

 

「……上等だ」

 

 マセガキィが、再び地面を蹴った。

 怒りではない。プライドの問題でもなかった。ただ、ここで諦めたら、自分が自分でなくなる気がした。

 

 もう一度、加速。今度はもっと深く、もっと鋭く。

 短剣を、イマーゴの胴体めがけて突き出す。

 

 

 その瞬間。

 

 深化したイマーゴの4枚の翼が、大きく羽ばたいた。

 

 

 蝶の鱗粉のような光の粒子が、廃工場の空間に一斉に放出された。

 最初は、ただの光の粉に見えた。

 マセガキィの加速の前に、無防備に漂う、ふわふわとした粒子。

 

 マセガキィの短剣が、その粒子の雲を切り裂いた瞬間。

 

 爆ぜた。

 

 ドォンッ!!

 

 無数の小爆発が、マセガキィの周囲で連鎖した。

 空気そのものが、爆発に変わっていた。

 

 ラブマクスの宝石爆発とは違う。あれは個別の爆弾だった。

 これは違う。空間そのものが、敵地になっている。

 

「がっ……!」

 

 マセガキィの体勢が、衝撃で崩れた。

 加速の制御を失う。短剣を握る両手が、震える。

 空中に、一瞬だけ、無防備に晒される。

 

 その一瞬を、深化したイマーゴは逃さなかった。

 

 6本の脚が、地面を蹴った。

 巨大な異形の胴体が、信じられない瞬発力で空中のマセガキィに飛びかかる。

 

 副腕の鎌が、マセガキィの右腕を掴んだ。

 

 もう1本の副腕が、左腕を掴んだ。

 

 翼から伸びた手と、3本の鞭尾の1本が、両脚をそれぞれ拘束した。

 

 マセガキィの機体が、空中で大の字に固定された。

 四肢を、それぞれ別の部位に掴まれている。

 

 

 深化したイマーゴが、ゆっくりと、力を込めた。

 

 

 ミシ、と。

 

 マセガキィの右腕の関節から、嫌な音が漏れた。

 左腕。両脚。

 

 

 しろっぷの上半身の少女の顔が、トロンとした表情のまま、マセガキィを見ていた。

 

「楽しんでね」

 

 

 次の瞬間。

 

 4方向に、引き裂かれた。

 

 

 ブチィッ。

 

 

 ガコンッ、と。

 

 マセガキィの機体の四肢が、それぞれ別の部位に握られたまま、胴体から千切れ落ちた。

 胴体だけになった《サイコダイバー》が、廃工場の床に落ちる。

 

 HPゲージが、ゼロに突き刺さった。

 

『――Winner, しろっぷ』

 

 

 会場が、しんと静まり返っていた。

 

 歓声よりも先に、観客の多くが、息を呑んでいた。

 

『……し、しろっぷ選手、勝利です!! 四肢を引き千切るという、なんとも……えげつない決着!!』

『……いやー、これは、すごいですね。何がすごいって、勝ち方じゃないですよ。あの異形の機体を、ちゃんと「使いこなしてる」のがすごい。あの大きさ、あの複雑さで、6つの部位を全部独立して制御してる。普通、人間にできる芸当じゃないですよ』

 

 

 控室。

 

 しばらく、5人が黙っていた。

 

「……えぐいわね」

 

 ラブマクスが、ぽつりと呟いた。

 

「アタシ、しろっぷちゃんと当たらなくてよかったかも」

 

 さくせすTが、無言で頷いた。

 周李龍は、画面を見つめたまま、眼鏡を直していた。

 

『……勝ちましたね』

 

 凪の声は、いつも通りだった。

 いつも通りだったが、ほんの少しだけ、声のトーンが軽かった。

 

                ◇

 

 フィールド。

 

 リザルト画面。

 

 深化が解け、通常時のクリサリス・ヴァリアントに戻ったしろっぷが、まだ床に転がっている《サイコダイバー》の胴体を見下ろしていた。

 

「……お疲れ」

 

 しろっぷが、短く言った。

 

 マセガキィの声が、通信越しに聞こえた。

 

『……いや、参った。本当に、参ったよ』

 

 声に、悔しさはなかった。

 ただ、純粋な、敗北の受容だけがあった。

 

『フリフロ、舐めてた。……謝るよ』

「ふーん」

『……君みたいな機体が組めるビルダーがいて、それを動かせるプレイヤーがいる。このゲームは、俺が思ってた何倍も奥が深いみたいだ』

「うん」

 

 しろっぷは、それ以上は何も言わなかった。

 マセガキィも、続けなかった。

 

 通信が、静かに切れた。

 

                ◇

 

 控室。

 

 しろっぷが、ダイブポッドから出てきた。

 いつもの気怠げな表情で、ソファの隅に座っていた凪のところに、ふらりと歩いてくる。

 

「ただいま」

 

『……お帰りなさい』

 

 凪が、しろっぷを見上げた。

 

『お疲れ様でした。……完璧でした』

 

「ふーん。今日のは結構うまくいったかも」

 

 しろっぷは、ソファに腰を下ろしながら、凪のほうを向いた。

 

 退屈そうな目。だが、その奥に、いつもより少しだけ、明るい色があった。

 

「ねえ凪」

『はい』

「次、あんたの番」

『……ええ』

「勝ちなよ」

『……当然です』

 

 しろっぷは、少しだけ間を置いてから、続けた。

 

「準決勝で、あんたと当たりたい」

 

『……ええ』

 

「世界大会、二人で行こうとか、そんなのは言わないよ。だって、二人とも行けるとは限らないし」

 

 しろっぷの声は、いつもの平坦さだったが、わずかに違った。

 

「でも、準決勝の舞台で、あんたと戦いたい。ちゃんと、本気で」

 

 凪は、しばらく黙ってしろっぷを見ていた。

 

『……ええ。僕も、あなたとあの舞台で戦いたいです』

 

「うん」

 

 しろっぷが、軽く頷いた。

 

「だから、勝ってきてね」

 

 その声に、いつもより少しだけ、感情があった。

 ほんの僅かに、心配のようなものが滲んでいた。

 

 凪は、それに気づいた。気づいたが、何も言わなかった。

 ただ、立ち上がって、ダイブポッドのほうへ歩き出した。

 

『……行ってきます』

 

「うん」

 

 

 控室の扉が、静かに閉まった。

 

 

『――1回戦第4試合、まもなく開始です! 凪選手と、戦神覇王選手は、ダイブポッドへお進みください!』

 

 MCの声が、会場に響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ