表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【5000PV感謝】フリーダム・フロント   作者: ボナンザ・ソバイユ
日本選抜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/72

第41話 迅vs周李龍④



 3つの大岩が、迅の軌道上に浮かんだ。


 G流G流(グルグル)で加速された巨大な岩塊が、壁のように迅の前に立ちはだかる。


 


 迅が、急停止した。


 


 スラスター全開の直線加速を、一瞬で止めた。荒野の地面に深い轍が刻まれ、土煙が噴き上がる。


 


(……止まった?)


 


 周李龍の目が、一瞬だけ揺れた。


 衝突ダメージを狙っていた。あの速度で岩に突っ込めば、迅のHPを一気に削り切れるはずだった。


 だが、止まった。あの速度から、一瞬で。


 


(いい。問題ない。止まったなら、回り込んで来るしかない)


 


 周李龍は、3つの大岩の向こう側で身構えた。


 岩の隙間から迅が頭を出した瞬間に、G流G流(グルグル)で叩き落とす。この距離なら、反応が間に合う。


 


(来い。どこから来ても、仕留める――)


 


 その時。


 岩の向こう側で、微かな光が灯った。


 


(……光?)


 


 迅の右手に、背部からライフルが展開されていた。


 シュトゥルム・ファルコンのビームライフル。速度に全振りした機体の、普段は使われない補助武装。リキャストタイムが長すぎて、実戦ではほぼ死に武装とされているそれが、迅の片腕に構えられていた。


 


 銃口が、3つの岩の先――周李龍に向けられる。


 


(まさか……岩ごと撃つ気か!?)


 


 撃った。


 


 閃光。


 


 ビームが、1つ目の大岩を貫通した。


 2つ目の大岩を、貫通した。


 3つ目の大岩を、貫通した。


 


 そのまま、周李龍の胴体に直撃した。


 


 ドォォンッ!!!


 


『うわああああ!!! 岩を3つ貫通してなお直撃!!! 迫力雀士さん!!!』


『ビームライフル……! 迅選手の機体は攻撃とスピードに極振りしてる。余剰コストも多い。だから、たった1発のビームでもこの威力になる……! 岩3枚ぶち抜くなんて、普通のライフルじゃ絶対にできない……!』


 


 迅の右手で、ビームライフルが崩壊した。銃身が赤熱し、内部からフレームが弾け飛ぶ。1発で壊れる。元からそういう武装だった。


 


 だが、1発で十分だった。


 


 岩の残骸が崩れ落ちる。


 その向こうで、周李龍のG(グラン)・フォールが、よろめいていた。


 左脚の外殻が裂け、内側から赤い血のようなエフェクトがだらだらと流れ出している


 HPゲージが、急速に減少していく。


 3割。2割。1割。


 


 そして。


 


『――システム規定値到達。パッシブスキル《底力》、起動』


 


『底力!! 周李龍選手、底力が発動しました!!』


『ヒューマン型のパッシブスキル……! HP10%以下で全能力が爆発的に上昇する! ここから逆転があり得るのか!?』


 


 周李龍の全身から、赤黒いオーラが溢れ出した。


 残った右腕に、サーベルを握り直す。


 


 底力。全能力が爆発的に上昇する。


 だが、周李龍は冷静だった。


 


(……元のステータスが低い。攻撃30の底力強化では、迅の装甲を一撃で貫くのは厳しい)


 


 分かっていた。この機体は、迅を仕留めるために攻撃を捨てた設計だ。G流G流(グルグル)に300を振り、HP・防御に厚く割いた代わりに、攻撃コストを極限まで切り詰めた。


 底力が乗っても、火力の天井が低い。


 


 それでも。


 


『……勝つ理論は、揃ったはずだった』


 (――どこで、ズレた?)


 周李龍は、呟いた。


 


『対策も、準備も、覚悟も。全部、揃えてきた。……なのに、お前は、その全部を超えてくる』


 


 右腕のサーベルを構える。底力の赤黒いオーラが刃に宿り、僅かだが、確かに重い一撃が振れる手応えがあった。


 


『だが、まだ立っている。まだ、剣が振れる。……なら、最後まで戦う』


 


 周李龍が、踏み込んだ。


 底力で強化された脚が、荒野を蹴る。先ほどまでとは段違いの加速。


 サーベルが、迅の胴体に迫る。


 


 迅は、残った右腕のサーベルで受けた。


 


 ガギィンッ!!


 

(……重い。底力が乗ってる。加えて、G流G流(グルグル)の精度も変わらない。……さすがです。だけど)


底力の恩恵で切り結びの重さは増し、重力操作も健在だった。だが、元のステータスが低い分、上昇幅にも限界がある。


 迅は、受けながら、冷静に相手の出力を計測していた。


 


 切り結ぶ。


 周李龍のサーベルが、迅の右肩を掠める。


 迅のサーベルが、周李龍の胸部を浅く斬る。


 互いに削り合う。だが、迅のHPはまだ2割台。周李龍のHPは、底力発動後で1割を切っている。


 


 1合。2合。3合。


 


 底力で上がった出力を、周李龍は最後の一滴まで使い切ろうとしていた。


 右腕だけで、サーベルを振り続ける。左半身がない分、バランスが崩れる。それを、底力の出力で無理やり補正する。


 


(まだだ。まだ、剣が振れる。まだ――)


 


 迅のサーベルが、周李龍の右腕のサーベルを弾いた。


 


 サーベルが、手から離れた。


 


 宙を舞う刃。


 周李龍の手が、空になる。


 

「……終わりだ、周さん」



迅の声は、静かだった。

周李龍は、動かなかった。

いや、動けなかった。



「最高の試合でした」


サーベルが、G(グラン)・フォールのコアを、真っ直ぐに貫いた。


 


『――Winner, 迅・ソニック』


 


 荒野に、光の粒子が舞い散った。


 


 会場が、爆発した。


 


『決着ーーーっ!! 迅・ソニック選手、勝利!!! HP2割台まで追い詰められながらも、最後は底力を発動した周李龍選手をも振り切っての勝利です!!!』


『いやー……すごい試合でしたね。周李龍選手、本当にいい勝負だった。底力まで出して、最後まで剣を振り続けた。……あれで勝てないんだから、迅選手が異常なんですよ』


 


                ◇


 


 リザルト画面。


 


 しばらく、どちらも何も言わなかった。


 


 やがて、周李龍の声が聞こえた。


 


『……8回目も、負けたな』


「ええ。でも、今日が一番きつかったです。本当に」


『……お世辞はいい』


「お世辞じゃないですよ。HP2割まで削られたの、鬼道破邪選手以来ですから……僕をここまで追い込める人は、日本でも数えるほどしかいません」


 


 周李龍は、少しだけ黙った。


 


『……迅。お前は、まだ強くなるのか?』


「なりますよ。今日、周さんのおかげで一つ掴めたから。……重力を味方にするって感覚、忘れません」


 


 周李龍は、小さく笑った。


 


『……そうか。なら、次はもっといいものを用意して来る。9回目は、負けないぞ』


「楽しみにしてます。……ありがとうございました、周さん」


 


 通信が切れた。


 


 迅は、コックピットの中で、静かに天井を見上げた。


 


 シュトゥルム・ファルコンは、ボロボロだった。左腕はもげ、右脚は半壊し、装甲の大半が剥がれている。HP2割。予選を含めても、ここまで削られたのは2回目だ。


 


 だが、得たものがある。


 


 重力の中で加速する感覚。あの鳥かごを抜け出した瞬間の、全身が軽くなるような感覚。


 あれを、自分のものにできれば。


 


「……次は、もっと速くなれる」


 


 迅は、小さく笑った。


それから、端末を取り出して、どこかに短いメッセージを送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ