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【5000PV感謝】フリーダム・フロント   作者: ボナンザ・ソバイユ
日本選抜

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40/72

第40話 迅vs周李龍③

 ぼろぼろの白い機体が、再び地面を蹴った。

 左腕はもげかけたまま。装甲の半分が剥がれ、内部フレームが露出している。それでも、スラスターの出力は落ちていなかった。

 迅が、三度目の突撃を仕掛ける。

 

 周李龍は、即座にG流G流(グルグル)を発動した。

 迅の進行方向の重力を、斜め下にねじ曲げる。

 

 白い機体が、地面に引きずり込まれる。きりもみ回転。

 

 だが。

 

 今度は、回転が浅かった。

 

(……立て直しが、早くなっている)

 

 周李龍の目が、鋭くなった。

 1回目は地面に激突した。2回目も叩きつけられた。だが3回目の今、迅はきりもみの途中でスラスターの方向を微調整し、回転を半分ほど解消してから着地していた。

 着地の衝撃が、先ほどの半分以下。

 

『迫力雀士さん、今のダメージ、明らかに減ってませんか!?』

『……慣れ始めてますね。重力が変わる瞬間に合わせて、スラスターの噴射角を調整してる。まだ完全じゃないけど、あと何回かやったら……』

 

(やはり、慣れるか――)

 

 周李龍は、歯を噛みしめた。

 分かっていた。迅・ソニックという男が、適応の化け物であることは。7回の敗北で、嫌というほど思い知らされてきた。

 

(だが、その前に削りきる)

 

 周李龍の意識が、周囲のフィールドへ広がった。

 荒野に点在する岩場。大小さまざまな岩塊が、フィールドのあちこちに転がっている。

 

 G流G流(グルグル)を、地面の岩に向けた。

 

 ゴゴゴ、と低い振動が響く。

 岩が、浮き上がった。

 1つ。2つ。3つ。大小合わせて十数個の岩塊が、周李龍の周囲に浮遊し始めた。

 

『なっ……!? 岩が浮いてる!! マイクさん!!』

『重力操作で岩を持ち上げて……まさか、これを飛ばすのか!?』

 

 周李龍が、腕を振った。

 浮遊する岩塊が、迅に向かって一斉に射出された。

 

 巨大な岩が、弾丸のように飛ぶ。重力で加速された岩塊の壁が、迅の逃げ場を塞いでいく。

 

「……これは、厳しいなあ」

 

 迅の声は、苦しそうだったが、どこか柔らかかった。

 

 横に跳ぶ。岩が背後の地面を砕く。上に跳ぶ。別の岩が頭上から落ちてくる。スラスターで急旋回。だが旋回の途中で重力方向が変わり、軌道がねじ曲げられる。

 起伏の激しい岩山に叩きつけられる。岩肌に機体がめり込み、装甲が砕ける。重力の方向が切り替わり、別の岩山の斜面へ。尖った岩壁が、右脚の装甲を削り取った。

 

 HP4割。

 

『周李龍選手、岩による遠距離飽和攻撃!! 迅選手、かわしきれていません!!』

『攻撃コストが低い分、地形そのものを武器にする。岩山に叩きつけて、接触ダメージで削っていく戦法ですね。考えてますねえ……』

 

 岩の嵐の中を、迅は走り続けていた。

 避けて、弾いて、すり抜けて。だが、一発ごとに装甲が削れていく。

 

「ねえ、周さん」

 

 岩を右腕で弾きながら、迅が声を上げた。

 

「今、楽しいですか?」

 

 場違いな問いかけ。

 

 周李龍は、一瞬だけ手を止めかけた。

 

『……何を言っている。勝負の最中だぞ』

「答えてくださいよ。僕、気になるんです」

 

 岩を避けながら、迅は笑っていた。ボロボロの機体で、HPを削られながら。

 

『……ああ、楽しいよ』

 

 周李龍は、自分でも驚くほど素直に、そう答えていた。

 

『3ヶ月間、お前を倒すことだけを考えてきた。毎日ログを見て、毎日構成を組み直して、毎日シミュレーションを回した。……その全部が、今、形になっている。楽しくないわけがない』

 

「ですよね」

 

 迅が、岩の隙間から姿を見せた。

 左腕はもうぶら下がっているだけ。右脚の装甲も半壊している。

 それでも、声は弾んでいた。

 

「僕もね、今、すごく楽しいんですよ」

 

 岩が飛んでくる。迅はスラスターを噴かして横に跳んだ。

 

「こんなに全力で戦ってくれる人と、こんなフィールドで殴り合えるなんて。本選に来て、本当によかった」

 

 周李龍は、迅の言葉を聞きながら、次の岩を射出した。

 

(……この男は、いつもこうだ。追い詰められているはずなのに、楽しんでいる。勝敗の向こう側に、いつも何かを見ている)

 

(だが、今日だけは――今日だけは、俺が勝つ)

 

 岩の飽和攻撃をさらに強める。フィールドの岩を片端から浮かせ、迅に叩きつけていく。

 迅のHP。3割5分。3割。

 

『迅選手、HP3割!! これは相当追い込まれています!!』

 

 だが、解説席の迫力雀士は、別のものを見ていた。

 

『……マイクさん、迅選手の動き、見てください。さっきと変わってきてる』

『え? どこがですか?』

『きりもみ。最初は完全に制御不能だったのが、さっきは半分解消してた。で、今……』

 

 迅の機体が、重力の変化を受けて軌道をねじ曲げられた。

 だが、今度はきりもみにならなかった。

 重力が横に引っ張った瞬間、迅はスラスターを逆方向ではなく、重力と直角に噴射した。ねじ曲げられた力を、そのまま旋回の加速に変換している。

 

『……重力を利用して、加速した……?』

『嘘でしょ……あれ、わざとやってますよね?』

 

 周李龍の目が、見開かれた。

 

(……まさか。重力変化を、推進力に変換しているのか……!?)

 

 もう一度、岩を飛ばす。迅が横に弾かれる。だが弾かれた方向にスラスターを合わせ、弾かれた勢いごと加速に変える。

 速い。

 先ほどまでより、明らかに速い。

 

(こいつ……重力に逆らうのをやめた。重力を、乗りこなし始めている……!)

 

 迅は、走りながら呟いていた。

 

「……そうか。そういうことか」

 

 機体に語りかけるように、独り言が漏れる。

 

「今までの僕たちの世界とは、違うんだ」

 

 重力が変わる。方向が変わる。上下左右の概念が、一瞬ごとに塗り替えられる。

 普通なら混乱する。普通なら制御不能になる。

 だが、迅はもう混乱していなかった。

 

「新しいデバイスの時もそうだった。最初は違和感だらけだったけど、慣れたら……もう、前には戻れなかった」

 

 重力が変わるたびに、スラスターの角度が変わる。変化に合わせるのではなく、変化を利用して、人間の反射では到達できない軌道を描いていく。

 

G流G流(グルグル)の重力変化も、同じだ。慣れれば、これは足枷じゃない。……新しい翼だ」

 

 迅の機体が、重力の中を舞い始めた。

 上下左右に揺さぶられるたびに加速する。重力操作の範囲内にいるほうが、範囲外よりも速い。

 周李龍の能力が、迅のスピードを殺すために作られたはずの能力が、迅をさらに加速させている。

 

「シュトゥルム・ファルコン」

 

 迅は、自分の機体の名前を呼んだ。

 

「今まで僕たちを縛ってきた、重力っていう鳥かごから……抜け出す時が来たみたいだ」

 

『迅選手の速度が上がっています!! 重力操作の範囲内で、むしろ加速している!! 迫力雀士さん、これは一体!!』

『……重力変化を推進力に変換してる。落とされる力を、全部、前に進む力に変えてるんだ。……とんでもないな。こんなの、見たことない』

 

 周李龍は、岩を飛ばし続けた。

 だが、岩が届かない。迅の軌道が、重力のたびに予測不能な方向に跳ねる。

 自分の能力が、自分の攻撃を無効化している。

 

(くそ……っ! 慣れるのが、早すぎる……!)

 

 歯を食いしばる。

 岩では止められない。

 

 だが。

 

 荒野の土煙の向こうから、白い機体が、真っ直ぐに突っ込んできた。

 

 片腕を失い、装甲の大半が剥がれた、ボロボロの白い鷹。

 だが、その速度は、この試合で最も速かった。

 重力を味方につけた、かつてない加速。

 

 周李龍は、能力パネルに指を置いた。

 

(……来るか。読んでいた。お前が慣れることも、こうして突っ込んでくることも)

 

 迅の軌道を読む。重力を味方にした直線加速。速い。だが、直線だ。

 

 

 G流G流(グルグル)()()()()()()()()発動を、周李龍は静かに待っていた。

 

 迅が、笑っていた。

 

 周李龍も、笑っていた。

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