第31話 凪vsドウジマ③
ドウジマの猛攻は、止まらなかった。
ライフル。サーベル。シールド。3つの武装が途切れることなく回転し、凪を押し込み続ける。
だが、凪は崩れなかった。
30戦目以降の上位帯で鍛えられた対応力が、ドウジマのテンプレに少しずつ追いついていく。ライフルの射線を糸で逸らし、サーベルの軌道をピラリスの腹で受け流し、シールドの構え直しの隙にビームの射線を通そうとする。
1撃も決定打は入らない。だが、一方的に押されていた序盤から、拮抗へと移り変わりつつあった。
ドウジマの歯が、微かに軋んだ。
(……崩れない。なぜだ)
テンプレの型は完璧に機能している。すべての攻撃が正しい角度で、正しいタイミングで、正しい距離から放たれている。
なのに、この男は、戦いながら適応してくる。
同じ攻撃を2度受けた時、3度目にはもう対処が変わっている。型通りに殴っているのに、型通りに崩れてくれない。
サーベルが閃く。凪の胴体を狙った横薙ぎ。
凪はピラリスで受け、至近距離で鍔迫り合いになった。
顔と顔が、近い。
「……お前は、変わったな」
ドウジマの声は、低かった。
「あの頃は、コンソールの前でログを読んでるだけだった。戦場に出る度胸も、ガッツもなかった」
サーベルを押し込む。凪の機体が後退する。
「それが今じゃ、杭を振って、糸を張って、上位帯を荒らし回ってる。……大したもんだ」
その声に、皮肉はなかった。
純粋な、事実の確認だった。
「だが、それはお前に才能があったからだ」
ドウジマが、サーベルを引いて一歩退く。
ライフルに持ち替える。銃口が、凪の胸を捉える。
「設計の才能。機体の完成度を極限まで引き上げる才能。それがあるから、お前はピーキーな機体でも勝てる」
発砲。
凪が横に跳んで回避する。着地と同時にドウジマが踏み込み、再びサーベルに切り替えて斬りかかる。
凪はピラリスで受けながら、押されながら、口を開いた。
『……それの、何がいけないんですか』
ドウジマの目が、わずかに細くなった。
『得意なものは、人それぞれ違います』
凪の声は、息が上がりながらも、静かだった。
『足の速い人がいる。目のいい人がいる。反射の鋭い人がいる。……僕は設計が得意だった。しろっぷは操作が得意だった。それだけのことです』
サーベルの一撃を受け流し、半歩だけ押し返す。
『その人が一番のびのび戦える形を、作ってやりたい。それが僕のビルダーとしての在り方です』
「のびのび、だと?」
ドウジマの声に、初めて感情が混じった。
「綺麗事を言うな。お前の設計は、お前としろっぷにしか使えないだろう。天才が天才のために作った特注品だ。それで、誰が救われる」
サーベルが加速する。3連撃。横、上段、突き。
凪はすべてを受けたが、突きの1発が左腕のスリットを掠め、青い光が一瞬だけ乱れた。
「俺はな」
ドウジマの踏み込みが、さらに深くなる。
「才能のない人間のために、戦ってるんだ」
更に、想いは溢れる
「……少なくとも、俺はそうでなきゃ困る」
ブースターに淡い光が灯り凪が押し込まれる。背中がアリーナの壁に近づく。
「ビルドの才能がなくても。アドリブの才能がなくても。テンプレに乗りさえすれば、強くなれる。戦える。勝てる。……それが、先人たちが作ってくれた道だ」
サーベルを振り上げる。
「お前の"思想"とやらは、天才のための道だ。俺のテンプレは、それ以外の全員のための道だ。どっちが正しいかなんて……答えは決まってるはずだ」
振り下ろす。
凪はピラリスで受けた。
鍔迫り合い。至近距離。
『……ドウジマさん』
凪の声が、静かに、しかしはっきりと響いた。
『あなたの言っていることは、正しいと思います』
ドウジマの押し込む力が、一瞬だけ揺れた。
『テンプレは、強い。誰でも使える。それは、本当にすごいことだと思います。……あなたがそれを信じ続けていることも』
だが。
『でも、僕は、もう裏方じゃない』
凪の目が、真っ直ぐにドウジマを見た。
『テンプレが誰かを救う道だとしても、僕にはもう一つ、救いたいものがあるんです。のびのび戦いたいのに、型に合わなくて苦しんでる人がいる。全力を出したいのに、機体が追いつかなくて泣いてる才能がある。……僕は、そっちのために作りたい』
『それが間違いだと言われても、僕はもうこの道を選びました』
鍔迫り合いの中で、2人の視線がぶつかっていた。
ドウジマは、歯を食いしばった。
(……こいつは、変わった)
あの頃の凪は、理屈だけだった。口先で「完成度」だの「思想」だのと語るだけの、結果を出せない裏方。
だが、今の凪は違う。
自分の機体に乗り、自分の手で戦い、自分の言葉で語っている。
(認めるわけには、いかない)
凪の言葉は、正しかった。
だが、認めれば、自分が3年間積み上げてきた全てが揺らぐ。
テンプレを信じ、テンプレを磨き、テンプレで勝ち続けてきた。その道が「もう一つの道」と並列に置かれることを、ドウジマのプライドが許さなかった。
(なら、叩き潰す。言葉じゃない。結果で)
ドウジマは、鍔迫り合いを力ずくで弾き飛ばした。
凪が後退する。
ドウジマの指が、コンソールの奥にある封印されたコマンドに伸びた。
迷いは、なかった。
選択。実行。
プロトコルの全身が、赤く発光し始めた。
各部の関節が熱を帯び、スラスターの出力が跳ね上がる。フレームの奥から、低く重い振動が伝わってくる。
『――《オーバーブースト》起動』
テンプレの安定を捨てて、出力で凪を押し潰す。フレームが壊れてもいい。今、この瞬間、この男を叩き落とす。
「言葉は十分だ、凪」
赤熱した機体が、猛獣のように腰を落とす。
「答えは、これで出す」
爆発的な踏み込み。
先ほどまでとは次元の違う速度で、ドウジマのサーベルが凪に迫った。




