表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリーダム・フロント 〜追放された裏方ビルダー、天才少女の機体を完成させて環境を破壊する〜  作者: ボナンザ・ソバイユ
日本選抜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/33

第30話 凪vsドウジマ②


 フィールドがロードされていく。


 暗転した視界に、光が差し込む。


 見覚えのある風景だった。


 


 すり鉢状の巨大なスタジアム。


 観客のいない、空っぽの闘技場アリーナ。


 


(……ここか)


 


 凪は、静かに息を吸った。


 ここで、すべてが始まった。


 しろっぷがクリサリスで暴れ、りんごぉに敗北し、凪が観客席の最上段から「ズレている」と呟いた、あの場所。


 あの日、凪は裏方だった。


 今日、凪は戦う側にいる。


 


 フィールドの反対側に、1機の機体が立っていた。


 


 中量級のロボット型。《プロトコル》。


 ライフルとシールドとサーベル。三年間、変わらない武装。変わらないシルエット。変わらない、テンプレの王道。


 


 プライベートマッチ。観戦者はゼロ。ログは記録されない。


 二人だけの、空っぽの闘技場。


 


 沈黙が、数秒、続いた。


 沈黙を破ったのは、ドウジマだった。

「……悪いが、付き合ってもらう」

 短かった。


 余計な言葉は何もなかった。挑発も、弁明も、感傷もない。ただ、戦え、と。


 凪は、ピラリスを構え直した。

『……ええ。望むところです』               


 


 試合開始。


 


 先に動いたのは、ドウジマだった。


 


 ライフルの3点バースト。中距離から、正確に、凪の足元を撃つ。


 牽制ではない。移動先を潰す射撃だ。


 凪が右に動けば右を撃ち、左に動けば左を撃つ。凪の移動ルートを射線で塗り潰しながら、プロトコルが一歩ずつ距離を詰めてくる。


 


(……攻めてくる)


 


 凪は、ピラリスを構えながら後退した。


 ドウジマのテンプレは、守備型ではない。ライフルとサーベルの矢継ぎ早の攻撃で敵を押し込める、攻勢のテンプレだ。


 距離が詰まる。ライフルからサーベルへの持ち替え。その切り替えに、隙がない。


 サーベルが閃く。


 凪はピラリスで受けた。


 


 ガギンッ!


 


 重い。


 だが、それ以上に正確だった。サーベルの軌道が、教科書から切り取ったように無駄がない。振り、戻し、次の振り。すべてが型に沿っている。


 凪はピラリスで弾き返し、カウンターの突きを放った。


 


 シールドが、完璧な角度で割り込んだ。


 杭の先端が、盾の表面を滑って逸れる。


 


(……硬い)


 


 続けて糸を放つ。ドウジマの右脚を絡め取ろうとする。


 ドウジマは糸が巻きつく前に半歩退き、ライフルに持ち替えて射撃。凪の糸を射線で制圧し、強制的に引き戻させた。


 


(杭は盾で受け、糸はライフルの射線で潰す。……全部、対処法が用意されている)


 


 テンプレとは、そういうものだ。


 数千のプレイヤーが、数万の試合を経て磨き上げた「正解の動き」。杭使いへの対処。糸使いへの対処。ビーム持ちへの対処。すべてが体系化され、型として確立されている。


 凪の武装は確かに独自だ。だが、武装の系統としては近接+拘束+ビームの複合型。テンプレの教科書には、複合型への対処の章がちゃんと存在する。


 


(読める。全部読める。次に何をするか、どう動くか、すべて予測できる)


 


 だが、読めても崩せない。


 予測通りの動きが、予測通りの精度で、予測通りのタイミングで来る。型通りだからこそ、崩す隙がない。


 


 これが、テンプレの強さだ。


 


 ドウジマのサーベルが、再び迫る。上段からの振り下ろし。


 凪はピラリスで受け、押し返そうとした。


 だが、ドウジマは押し返される前に半歩引き、サーベルの角度を変えて横薙ぎに繋ぐ。


 凪の左腕を掠めた。装甲が薄く削れる。


 


(……速い。手数が多い。反撃の隙を、一切与えない)


 


 ライフルで押し、サーベルで詰め、シールドで守る。三つの武装が絶え間なく回転し、凪に息をつく暇を与えない。


 


 三年前、一人の天才プレイヤーが、この戦い方の原型を作った。


 プレイヤーネーム、S・ハカー。


 当時の環境を完全に支配した伝説のテンプレ。ライフル、サーベル、シールドの三種の武装を高速で回転させる攻勢型の立ち回り。それを誰でも再現できるように体系化し、環境に広めた男。


 S・ハカーはとっくに引退している。だが、彼が残した型は、今もなお環境の基盤として機能し続けている。


 ドウジマは、その型の継承者の一人だった。


 三年間、同じ機体で、同じ型を、ただひたすらに磨き上げてきた男。


 伊達じゃない。


 


 凪のHPが、少しずつ削られていく。


 八割。七割五分。


 攻めているのはドウジマだ。凪は、防戦に回っている。


 


 ビームを撃とうとした。左腕のスリットが光る。


 だが、ドウジマはビームの射線が通る前に、シールドを構えてライフルの連射で凪の姿勢を崩していた。ビームを撃つ暇がない。


 


(……左手のビームすら、封じられている)


 


 凪は、歯を食いしばった。


 


(テンプレは弱いなんて、一度も思ったことはない。思ったことは、ない。だが――)


 


 ドウジマのサーベルが、凪の右肩を浅く切り裂いた。


 火花が散る。凪が後退する。


 ドウジマが、初めて口を開いた。


 


「……お前の機体は、確かに面白い」


 


 低い声。息も切れていない。


 


「杭、糸、ビーム。独創的で、完成度も高い。……だが、独創的なだけだ。テンプレの前では、独創性は弱さになる」


 


 ライフルを構え直す。


 


「型があるから、対処ができる。対処ができるから、崩れない。お前の"思想"とやらは、先人たちが積み上げてきた数万の試行錯誤を、超えられない」


 


 凪は、削られた右肩を庇いながら、ドウジマを見返した。


 その瞳の奥で、何かが静かに動いていた。


 


(……0.1秒)


見えている。


ドウジマのサーベルの切り返し。三振り目の戻りが、0.1秒だけ遅い。


かつて凪が、何も言わずに直していた場所。

今も、そこにある。


だが、今ここで突いても、ドウジマは対応する。あの安定感は、一つの穴を突かれた程度では崩れない。すぐに型を修正し、次からは同じ隙を見せなくなる。


(……待て。この猛攻を凌ぎながら、作るんだ)


あの0.1秒が、最も致命的に開く瞬間を。


『……続けましょう、ドウジマさん』


 


 ピラリスを握り直す。


アリーナの中央で、黒い機体と、テンプレの王道が、再び間合いを詰めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ