表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリーダム・フロント 〜追放された裏方ビルダー、天才少女の機体を完成させて環境を破壊する〜  作者: ボナンザ・ソバイユ
日本選抜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/31

第27話 再狩


 最終日。


 凪がガレージのコンソールを立ち上げると、画面の上部に赤い帯が走っていた。


『――予選最終日:本日の勝利ポイントは通常の二倍となります』


「倍率、来たね」


 しろっぷが、ソファから身を乗り出して画面を覗き込む。


『ええ。今日一日で、ランキングが大きく動きます』


 凪はランキングボードを開いた。


 上位の名前が、ずらりと並ぶ。


 


 1位 迅・ソニック   15,218pt


 2位 マセガキィ    13,244pt


 3位 サンソン     13,012pt


 4位 GUREN      12,837pt


 5位 ブレイダー    12,608pt


 


(……一位だけが異常だ。二位以下は13,000から10,000の間に密集している)


 


 凪の視線が、四位圏内と圏外の境界をなぞる。上位四名が本選トーナメントへ進む。現在四位のGURENは12,837。自分は――。


 


 13位 凪       11,246pt


 


(四位との差、約1,600。倍率込みなら、あと十戦程度の連勝で届く。……ただし、負ければ連勝ボーナスが消える)


 


 さらにスクロールする。


 


 16位 ドウジマ・ジ・エンド 10,831pt


 


 凪とドウジマの差は、わずか415。ほぼ同じ圏内にいる。


 他に目を引く名前がいくつかあった。真摯なキリンは11,024で凪のすぐ下。昨日までランキングの上位にいなかった『さくせすT』という名前が、9,517に浮上してきている。


『この「さくせすT」、昨日の夜から急に上がってきてますね。ログを見た限り、中距離の制圧型ロボット。精度が異常に高い』


「ふーん。伸びてるやつがいると面白いね」


『ええ。……ただ、今日の倍率次第では、ここから一気に四位圏内に食い込む可能性もあります。要注意です』


 


 凪はランキングボードを閉じ、ダイブポッドに向かって歩き出した。


『……行きます』


「うん。今日で決めなよ」


 しろっぷの声は、いつも通り軽かった。


 


                ◇


 


 最終日の予選は、昨日までとは空気が違った。


 対戦相手の動きが、一様に重い。守りに入っているのではない。一戦の価値が倍になった分、全員が「絶対に落とせない」覚悟で踏み込んでくる。


 凪は、その圧の中を、淡々と勝ち続けた。


 


『――Winner, 凪』


『――Winner, 凪』


『――Winner, 凪』


 


 倍率込みのポイントが、一戦ごとに大きく跳ね上がっていく。


 


 そして、五戦目のマッチング画面。


 対戦相手の名前を見て、凪の指が止まった。


 


 真摯なキリン ―― 11,302pt


 


(……来たか)


 


 あの雪の森林で、完璧な罠を張り巡らせた狩人。あの時は、しろっぷのクリサリスで辛うじて突破した。


 だが今日、凪が乗っているのはクリサリスではない。アルカナ・オブスキュアだ。


 


『久しぶりだな、凪。……いや、今はあんたが本人か』


 


 オープンチャンネルに、低く静かな声が流れた。


 


『前回の不完全を、終わらせに来た』


 


 フィールドが展開される。


 市街地。


 廃墟化したビル群、路地裏、交差点。高さのある建造物が密集し、射線と死角が複雑に入り組んだ三次元的なステージ。


 


(前回は雪の森林だった。今回は市街地。……遮蔽物の密度が段違いだ)


 


 凪は、慎重に最初の一歩を踏み出した。


 ピラリスを右手に構え、左腕のスリットから糸を細く伸ばし、周囲の構造物に触覚のように這わせていく。


 


 路地を抜け、大通りに出ようとした瞬間。


 足元に、微かな違和感を感じた。


 水だ。


 靴底が、薄い水膜を踏んでいる。大通りの路面が、不自然に濡れていた。


 


(……水? このフィールドに雨の設定はないはずだ)


 


 凪の視線が、上方へ走った。


 ビルの屋上。貯水タンク。


 タンクの側面に、小さな弾痕が穿たれていた。そこから水が細く流れ出し、ビルの壁を伝って、路面へと広がっている。


 


(撃ち抜いた。……わざと、水を流している)


 


 その瞬間、凪の脳内で警報が鳴った。


 水。路面。そして――。


 視線を横に向ける。路肩に倒れた電柱。その根本から、断線した電力ケーブルが、水に浸かった路面へ向かって垂れ下がっている。


 


(感電トラップ……!)


 


 凪は反射的に後退した。ピラリスを地面に突き刺し、身体を引き上げて水面から足を離す。


 直後。


 バチバチバチッ!!


 電力ケーブルが路面の水に接触し、濡れた大通り全体が青白い火花に包まれた。


 空中に逃れた凪の足元を、稲妻のような放電が走り抜けていく。


 


 ギリギリだった。


 だが、無傷ではない。


 杭ブレーキの急制動で、右腕の関節に再び負荷がかかっていた。小さな警告アラートが、コンソールの端で点滅している。


 


(……右腕の応答が、〇・〇五秒遅れ始めている)


 


 些細なズレ。だが、狙撃手相手にこのズレは致命的になりうる。


 


 安堵する間もなかった。


 ビルの壁面に張り付いた瞬間、頭上から小さな駆動音が聞こえた。


 ドローン。


 三機のドローンが、ビルの影から一斉に飛び出し、凪の周囲を旋回し始める。


 ドローンの腹部に、赤いレーザーの照準が灯った。


 


(狙撃の誘導レーザーだ。位置を固定して――いや、待て)


 


 一拍、思考を止めた。


 前回、凪はこの男の盤面を逆利用して勝った。


 なら、この男がそれを学ばないわけがない。


 


(……読ませようとしている)


 


 狙撃が来ると読ませて、ビルの内部に逃げ込ませる。それが本当の狙いだとしたら。


 だが、壁面に張り付いたままでは、ドローンの照準から逃れられない。


 選択肢は二つ。外に出るか、中に入るか。


 


(……どちらも罠だとしたら、より状況を把握できるほうを選ぶ)


 


 凪は、ビルの内部へ飛び込んだ。


 窓ガラスを突き破り、廃墟のフロアに転がり込む。


 射線を切った。案の定、狙撃は来ない。


 


(やはり、撃たない。ビルの中に追い込むのが目的だった)


 


 その思考が完成した瞬間。


 


『そこは、もう"猟場"だ』


 


 低く、静かな声が、オープンチャンネルに流れた。


 


 背後のコンクリート壁が、爆発した。


 


 ドォンッ!!


 


 残りの二機のドローンが、窓から突入して自爆していた。偵察でも照準でもない。ドローンそのものが、爆弾だった。


 爆風と瓦礫が凪を叩く。HPが一割近く削られる。左腕のセンサーにノイズが走り、糸の精密な制御が乱れた。


 


(くっ……!)


 


 凪は瓦礫の中から転がり出た。


 右腕の遅延を嫌い、咄嗟に左腕主体の姿勢に切り替える。だが左腕はセンサーにノイズが残っている。糸の射出精度が落ちている。


 両腕とも万全ではない。


 


 別の路地へと飛び込みながら、凪は息を整えた。


 


(……この男は、環境を使っているんじゃない)


 


 水で逃げ道を塞ぎ、感電で足を止め、ドローンで追い立て、ビルに閉じ込め、自爆で出口を潰す。


 すべての罠が、一つの目的に収束している。


 


(……"逃げ道"を設計しているんだ)


 


 獲物が逃げられる方向を、一つ一つ潰していく。残された唯一の道が、狙撃手の射線の上にある。


 環境そのものを猟場に変える、究極の逃げ道殺し。


 


(この男は、ビルダーではない)


 


 凪はそのことを、改めて理解した。


 機体のベースフレームは、量産型のロボット型だ。装甲を削り、武装を最小限に絞り、余ったペイロードをすべてトラップキットとドローンに注ぎ込んでいる。


 設計に独自の思想はない。凪やカミュのような、自分だけの機体を一から組み上げる技術は持っていない。


 だからこそ、この男は別のところで戦っている。


 機体の完成度で差をつけられるなら、戦場そのものを自分の武器にする。ビルドの才能がない分を、戦場を読む才能で補う。


 


(……その選択を、俺は笑えない)


 


 路地の向こうで、新しいドローンの駆動音が聞こえ始めた。


 まだ残っている。この市街地には、まだ、殺意が埋まっている。


 そして凪の両腕は、どちらも万全ではない。


 


 それでも。


 


 凪は、ゆっくりと息を吐いた。


 


『……面白い。前回とは、別人だ』


 


 右腕の遅延、〇・〇五秒。


 左腕のセンサーノイズ。


 その両方を頭に入れた上で、凪はピラリスを握り直した。


 


(この猟場を、正面から突破する)


 


 廃墟の闇の奥に、赤い照準の光が、新たに三つ、灯った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ