第24話 迅vs鬼道破邪①
予選三日目。
迅・ソニックの《シュトゥルム・ファルコン》は、すでに五十戦以上を消化していた。
ランキングボードの一位は、初日から一度も揺らいでいない。
迅・ソニック ―― 八〇二〇pt
マッチング画面に、次の対戦相手が表示される。
ポイント、三〇一〇。
(……また格下か)
迅は、軽く息を吐いた。
ここ数戦、ほとんどの相手が数秒で沈んでいる。作業のような勝利の連続。迅にとって最も退屈な時間だった。
フィールドは、広大な草原。遮蔽物が少なく、開幕から正面衝突になりやすいオープンフィールド。
対面に立つ機体を見て、迅は小さく首を傾げた。
人型。
だが、装甲がほとんどない。ジーパンにTシャツ――まるで街中を歩いているかのような軽装のアバター。武器らしい武器も見当たらない。
(……なんだ、こいつ。舐めてるのか?)
だが、ポイント三〇一〇。予選でここまで残っている以上、何かはある。
考えても仕方がない。いつも通り、開幕で終わらせる。
3。2。1。ゼロ。
迅が、スラスターを全開にした。
白い機体が弾丸のように飛び出す。初手の一撃で、コアを貫く。いつもの、いつも通りの開幕。
――だが。
対面の軽装のアバターが、動いた。
逃げるのではない。戦闘体勢を取るのでもない。
腰のベルトに、手をかけていた。
(……?)
そのベルトのバックルが、回転を始めた。
アバターの足元から、淡い光が立ち昇る。
迅の目が、見開かれた。
スラスターを吹かしていた指が、反射的に止まる。
(変身……!?)
機体が急制動をかけ、草原に深い轍を刻みながら停止した。
(マジか。変身型? こんなところで会うとは思わなかった)
変身。
ヒューマン型だけが持つ『能力』枠に設定できる、特殊な能力の一つ。
コストの大半を変身機構に注ぎ込む代わりに、発動後はコスト上限を遥かに超えた出力を得る。
代償は、七秒間の完全な無防備。
その七秒の間に殺されれば、すべてが無に帰す。
環境が高速化するにつれて、七秒は永遠に等しい隙になった。変身型は絶滅危惧種と呼ばれるようになり、今では使うプレイヤーを見ることすらほとんどない。
だが、この男は、それでも変身を選んでいる。
迅は、その場に立ったまま、ゆっくりと腕を組んだ。
『……へえ』
口元に、笑みが浮かぶ。
無粋な真似はしない。
こういうのを見るために、予選に降りてきたんだ。
鬼道破邪の瞳に、覚悟の色が灯った。
深く息を吸い込む。
『古の英雄たちよ、俺と共に立ってくれ!』
声が変わった。
丁寧語が消え、腹の底から絞り出すような、剥き出しの叫び。
『その剣を、その盾を、その誇りを!』
ベルトが回転する。光が溢れ出す。
『史録に誓う、この戦場で悪は滅びる!』
全身を包む光の中で、爽やかな青年のアバターが、別のものに変わっていく。
『顕現ッ!! 幻装史録――グランベイルッ!!』
閃光。
草原を白く塗りつぶすほどの光が弾け、収束し、一つの形を結ぶ。
そこに立っていたのは、もはや軽装の青年ではなかった。
白銀と深紅のスーツが全身を包み、各部にプロテクターのような装甲が要所を守っている。左腰には複数のカートリッジが収納されたBOXが接続され、右手には片手で振れるコンパクトなハンマーが握られていた。
迅は、腕を組んだまま、小さく笑った。
『……かっこいいな』
嘘のない声だった。
『いいよ。来な』
鬼道破邪が、ハンマーを構えた。
カートリッジBOXから、一枚目のカートリッジを引き抜く。
ハンマーの柄に装填。金属音と共に、ハンマーの頭部が変形し、大剣の刀身へと姿を変えた。
『――では、参ります』
丁寧語に戻った鬼道破邪が、草原を蹴った。
迅が、初めて、構えを取った。
今回登場した鬼道破邪の『変身』について、改めてこのゲームの仕組みを整理しておきます。
《フリーダム・フロント》の機体は、大きく三つのカテゴリに分類されます。
【ヒューマン型】
ステータスへのバフは乗りにくい代わりに、HPが10%を下回ると全能力が爆発的に向上する《底力》を持ちます。さらに、他のカテゴリにはない『能力』枠が存在し、空中を蹴る《空駆》や、今回の『変身』など、多彩な能力を設定できます。
【ロボット型】
防御力とスピードにバフが乗り、パーツの拡張性が最も高いカテゴリ。安定した性能バランスから使用者が多く、環境の主流です。覚醒は《オーバーブースト》。大きな負荷をかけて出力を跳ね上げますが、代償としてフレームが損壊します。
【モンスター型】
HPと攻撃力にバフが乗りやすく、動植物モチーフで特殊能力を低コスト獲得できます。覚醒は《深化》。極限状態で機体が変態します。
【共通ルール】
すべてのカテゴリに共通する絶対法則として、『見た目の完成度が高いほど、ステータスにボーナスが加算される』があります。ビルドの見た目を一つの存在として美しく仕上げれば、システムが自然とボーナスを与えます。
【変身について】
ヒューマン型の能力枠の一つ。コストの大半を変身機構に注ぎ込む代わりに、発動後はコスト上限を超えた出力を得ます。代償は七秒間の完全な無防備。環境の高速化により、現在は「絶滅危惧種」と呼ばれています。




