5 ギルドで冒険者登録をする
「……えーっと。つまり、この『ポチ』ちゃんをシオリ様の従魔枠で登録する、ということでよろしいですか?」
受付カウンターの向こう側で、ギルド職員のお姉さんが引きつった笑顔で確認してくる。
私たちは今、ポチを連れて冒険者ギルドへ来て、冒険者登録の手続きを行っていた。
「はい! よろしくお願いします!」
私は元気に返事をして、愛用のノートを小脇に抱えた。
「ちょっとしおり、さっきからギルド中の冒険者たちの視線が痛いんだけど……」
アキが周囲を警戒しながら、私の袖を引っ張る。
それもそのはず。私の足元にいるポチは、ケガが治って元気になった結果、隠しきれない神聖なオーラを放ち始めていた。
毛並みはツヤツヤの白銀色に輝き、瞳は知性に満ちあふれている。どう見ても「ただの野良犬」ではない。
「お姉さん、私の【文字具現化】の能力があれば、この子はまだ小さいけれど、真の力を引き出す設定も書けるんです。だからバシッと登録しちゃってください!」
「は、はあ……。能力の詳細は分かりかねますが……。では、こちらの魔力水晶に手をかざして、お二人の基本ステータスと、ポチちゃんの『従魔登録』を確定させてください」
促されるまま、私とアキ、そしてポチの肉球を順番に水晶へと乗せていく。
ピカッと眩しい光が放たれ、受付用紙に文字が浮かび上がった。
それを見た受付のお姉さんの顔から、一瞬で血の気が引いていく。
「……え?」
「どうしました?」
お姉さんは震える手で用紙を掴み、何度も目をこすりながら読み上げ始めた。
「シオリ様……。職業:【作家】。保有スキル:【文字具現化】。……ここまではいいです。ですが、その……」
「私の能力、何か問題でも?」
「いえ、魔力水晶に不具合が起きてるのかも…… 登録されたポチちゃんの種族名が、本来なら『不明』か『魔獣』になるはずなのに、【フェンリル(神狼)の幼体・通称ポチ】って登録されてます!!」
「やった、フェンリルで登録だって!」
私はガッツポーズを決めた。
「喜んでる場合じゃないでしょ!!」
すかさずアキの鋭いツッコミが飛ぶ。
「神狼って、ギルドの教科書に載ってる『世界を滅ぼす災厄の獣』のことでしょ!? そんなの登録したら、私たち指名手配されちゃうじゃない!」
お姉さんも半泣きで、さらに用紙の続きを読み進める。
「さらに問題なのは、十鳥アキ様です……! 職業:【一般人】。保有スキル:【物理攻撃100倍反射】。……あ、あの、アキ様。これ、試しにギルドの戦力である『Aランク冒険者』が全力で殴りかかった場合……」
「あ、死にますね。相手が」
アキが真顔で答える。
「ですよね!? 完全にギルドのパワーバランスが崩壊します!!」
お姉さんは頭を抱えて机に突っ伏してしまった。
その時、ポチが「クゥーン」と可愛らしく鳴いて、お姉さんの手を慰めるようにペロペロと舐めた。
その姿は完全に無害な癒やし系ペットである。神狼の威厳はどこへ行った。
「ま、まあお姉さん、登録されちゃったものは仕方ないですし、私たちは大人しくFランクの新人としてコツコツ依頼をこなしますから!」
私がそう言って、発行されたばかりの初心者用の銅プレート(冒険者証)を受け取ろうとした、その時!
ギルドの扉が激しく開き、一人の息を切らした衛兵が飛び込んできた。
「た、大変だ! 街の南門に、凶悪なBランク魔獣『ミノタウルス』が一頭接近中! 冒険者はただちに防衛線へ向かってくれ!!」
ギルド内が一気に騒然となる。
はっ??なんでこんな所にそんなのが??おかしいだろっ!!
「A,Bランクはとにかく行けーー!!」
ドタバタとその場に居た者が駆け出して行った。
「……アキ、聞いた?」
私は不敵な笑みを浮かべ、ノートの新しいページを開いた。
「嫌な予感しかしないんだけど」
「新人冒険者が登録した直後に、街を揺るがす大襲撃イベントよ! これぞ王道の『実力隠し主人公のデビュー戦』じゃない! さあアキ、ポチ、私たちの初仕事(初陣)へ行くわよ!」
「だから私は早く日本に帰りたいんだってばーーー!」
アキの絶叫をBGMに、私たちは最初のクエストーーいや、街の防衛戦へと駆け出すのだった。




