4 イベント発生
街の食堂で腹ごしらえして、冒険者登録をするために冒険者ギルドへと向かっていた。
「ちょっとしおり、さっきから後ろでコソコソ何書いてるのよ」
歩きながら、アキがジト目で私の手元を覗き込んでくる。
私は愛用のノートにペンを走らせながら、キリッとした表情で答えた。
「イベントの発生確率を上げるための『仕込み描写』よ。ほら、街の路地裏といえば、定番のイベントがあるじゃない?」
「定番って……まさか」
アキが呆れ顔を見せたその瞬間、大通りから一歩入った路地裏から、「キャン! キャン!」という痛々しい悲鳴と、子どもたちの笑い声が聞こえてきた。
「見てよ、ビンゴ。やっぱりあったわ」
私はノートをパチンと閉じ、路地裏へと急いだ。
そこでは子ども3人が、一匹の小犬を囲んでいた。小犬は白っぽい毛並みで、怯えたように体を丸め、子どもたちに石を投げられて震えている。
「小汚い野良犬め。じゃまなんだよ!」
「おい、蹴飛ばしてやれよ!」
「ストーーーップ!!!」
私の大音声が路地裏に響き渡る。
子どもたちが一斉にこちらを振り返った。
私は腰に手を当て、ラノベの正義の味方のごとく言い放つ。
「そこまでよ、悪党ども! 罪のない動物をいじめるなんて、三流の噛ませ犬キャラがやることよ! さあ、その子から離れなさい!」
子どもたちは一瞬ビクッとして、こっちを睨んで見てきた。
「……しおり、、そのセリフ、子ども向けではないような」
「うるさい!お前なんか!」
子どもの一人が、手をグッと握って私に向かって突き進んでくる。
「アキ、出番よ!」
私は素早くアキの背中へと回り込み、彼女を盾にした。
「ちょっ、ちょっとしおり!? いきなり私を前に出すなー!」
アキが悲鳴を上げる。子どもの拳がアキに放たれた。
ドンッ!!!
「うわっ!?」
尻もちをついたのは、当然のごとく子どもの方だった。
アキの持つのパッシブスキルが容赦なく発動し、尻もちを着いた子どもを見て他の二人は後退りした。
「ヒッ……!? な、なんだあいつ!?」
「怖いよー!」
「ふふん、これに懲りたら二度と生き物をいじめないことね! さあ、サヨナラ!」
私がそう告げると、子どもたちは尻もちを着いたもう一人を引きずりながら、クモの子を散らすように逃げ去っていった。
「ふぅ……。ねえしおり、子ども相手にこの私のスキルは強すぎたわね。ちょっとかわいそうだったかしら」
ハァ、とため息をつくアキ。
私は眉を下げ、いいお仕置きになったんじゃない?と言いながら、震えている小さな犬の元へ駆け寄り、そっとしゃがみ込んだ。
小犬はまだ怯えていて、ウゥーと小さく唸っている。よく見ると、足にケガをして血がにじんでいた。
私はノートを開き、新しいページに素早く『物語』を紡ぐ。
『ーー彼女が優しくその手を差し伸べると、温かな緑色の光が小犬の体を包み込んだ。その光は、小犬の傷をまたたく間に癒やし、その心を深い安心感で満たしていくのだった。』
書き終えた瞬間、私の手から柔らかな緑色の光が溢れ出し、小犬の体をそっと包み込んだ。
小犬の足の傷が、みるみるうちに塞がっていく。
「クゥーン……?」
痛みが消えたことに気づいたのか、小犬は不思議そうに自分の足を見た後、私を見上げて嬉しそうに尻尾を振り始めた。
そして、私の膝にぽてっと飛び乗ってきて、顔をペロペロと舐めてくる。
「よしよし、痛かったね。もう大丈夫だよ」
私が頭を撫でてあげると、アキも隣にしゃがみ込んで、優しく小犬の背中を撫でた。
「よかった……。でもしおり、この子どうするの? 野良犬みたいだけど……」
「アキ、ラノベの基本を忘れたの? 『旅の途中で助けた珍しい動物は、高確率で伝説の魔獣の幼体』よ」
私は小犬の様子をじっと観察した。
「……あ、やっぱり。この子、ただの犬じゃないわ。『フェンリル(神狼)』の子どもよ。名前は……よし、ポチにしましょう!」
「即決?!はぁ……フェンリル(神狼)に向かってポチって名付けるの、世界であなただけだよ!?」
こうして、私たちの異世界パーティに、最強予定のもふもふな仲間が加わったのだった。




