10 予算無限(?)のショッピング!最強装備ともふもふのおやつ
王都への出発を明日に控えた午前中、私たちはギルドマスターから支給された「準備金(思った以上の金額)」を手に、街の商業区へと繰り出していた。
「よーし! 今日は王都編に向けた買い物よ! こちらの懐が痛まないなんてサイコーだわ!」
私は支給された財布を片手に、右手を築き上げた。
「ガル(主殿、まずは私の食料だ。昨日のオーク肉が忘れられん)」
アキのパーカーのフードから、手のひらサイズのミニポチがひょこっと顔を出して念話を送ってくる。
「ポチ、贅沢病にかかるの早すぎない? ……まぁ、私もあのロースト肉の味は忘れられないけど」
アキが苦笑しながらポチの頭をちょんちょんと突っついた。
まず私たちが向かったのは、街で一番大きい総合高級商店『グレイシア商会』。
店内に一歩足を踏み入れると、きらびやかなドレスから頑丈そうな鎧、怪しげな魔導具までがズラリと並んでいた。
「いらっしゃいませ、若き英雄の皆様! ギルドマスターからお話は伺っております。本日はどのようなものをお探しで?」
恰幅の良い店主が、揉み手をしながら極上の笑顔で迎えてくれた。さすがアルベルトさんの推薦状、効果は抜群だ。
「まずはアキの装備よ。アキ、何か欲しい武器とか防具はある?」
「え? 武器? ……うーん、私、基本殴られるだけだし、武器持って戦うのとか無理なんだけど……」
アキが困り顔で自分の手を眺める。彼女のスキルは【物理攻撃100倍反射】。自分から攻撃する必要がそもそもないのだ。
「フッ、分かってないわねアキ。やっぱり盾がいるんじゃない?反射はするけど、突進してこられたら怖いじゃない。店主さん、この店で一番いいの持ってきて!」
店主が奥から持ってきたのは、大人の男性でも持ち上げるのがやっとという、鉄と魔鉱石でできた漆黒の巨大な大盾だった。ドスン、と床が鳴る。
「ちょっとしおり、一番いいのって…こんな重いの私が持てるわけーー」
『ーーその大盾は、一見すると超重量の鉄塊であったが、実は【持った者の体重に合わせて重量が軽くなる】という、超軽量化の秘呪が施されていた。さらにデザインも、アキの好みに合わせて【可愛い白猫の紋章】が刻まれたレトロな円盾へと姿を変えるのだった。』
私がノートにサラサラと書き加えた瞬間、漆黒の大盾が光に包まれ、次の瞬間には、白い子猫が描かれた軽そうな丸い盾に変化した。
「ええっ!?」
アキが恐る恐る盾の取っ手を持ち上げると、羽毛のように軽い。
「すごーい! 軽いし可愛い! これなら私でも持てる!」
アキが嬉しそうに盾を構えてポーズを決める。
「ふふん、これで『見た目は可愛いのに、触れた敵を100倍の衝撃で粉砕する凶悪な盾』の完成よ」
「私の装備のコンセプト、やっぱり怖すぎるんだけど!?」
次はポチのおやつ(旅用の携帯食料)だ。
私たちは食品コーナーへ向かい、ポチのために干し肉の棚を物色した。
「ガル(主殿、そこの『ドラゴンチキンのジャーキー』とやらが、美味そうな気配を放っているぞ)」
ポチが鼻をピクピクさせながら、高級な魔獣肉のジャーキーを肉球で差す。
「これ一袋で銀貨3枚!? 高っ! ポチ、あなた体がミニマムな割に食費がヘビー級ね。よし、ここも作家のスキルで……」
『ーーその高級ジャーキーは、神狼のポテンシャルを刺激する特別な栄養素が含まれていた。ポチがこれを一口齧るごとに、魔力が1%回復し、毛並みのツヤが10%アップする【神狼専用の超高級オーガニックおやつ】へと昇華した。』
書き終えて、私がジャーキーを一袋買い、試しにミニポチの口へ放り込んでみた。
サクッ……。
「キャン!?(な、なんだこの濃密な旨味は!? 体の奥から神聖な魔力が湧き上がってくるのを感じる……! おかわりだ、主殿! おかわりを要求する!)」
ミニポチの琥珀色の毛並みが、一瞬でツヤッツヤのピッカピカに輝き出した。眩しい。
「よし、このジャーキーを10袋まとめ買いで!」
「ガル(主殿、一生ついていくぞ!)」
餌(高級おやつ)で完全に胃袋を掴まれる伝説の魔獣であった。
最後に、私自身の装備だ。
ライトノベル作家(職業:作家)である私に必要なのは、頑丈な鎧でも、鋭い剣でもない。
「店主さん、この街で一番上質な『白紙のノート』と『絶対にインクが切れない魔道羽ペン』をちょうだい」
「はいはい、こちらでございますね!」
店主が持ってきたのは、竜の皮で装丁された美しいノートと、触るとほんのり温かい不思議な羽ペンだった。
「これよ、これ! これがあれば、王都への道中、どんな強敵が現れても、さらに緻密な設定を書き込めるわ!」
私は新しいノートを開き、最初のページにバシッとタイトルを書き込んだ。
『しおりん星人の異世界放浪日記』
「さあアキ、ポチ! 装備も整ったし、お腹もいっぱい(ポチが)だし、準備は完璧よ! 明日はいよいよ、王都へ向けて出発よ!」
「おー!」
アキが可愛い白猫の盾を掲げる。
「ワン!(王都の美味いもの、待っていろ!)」
フードの中でポチが気炎を上げる。
こうして、お財布(他人のお金)を大いに削りながらも、私たちは完璧な旅の準備を整え、ショッピングを大満足で締めくくったのだった。




