2)成人の儀『洗礼式』2
外は、シンシンと雪が降り、聖堂の中は恐ろしいほど静かだった。
目をつぶった私は、その静けさに吸い込まれてしまうような気がした。
その静けさの中、聖堂師さまは、太陽神ラーナの像に向かい、両手を広げて掲げた。
「すべての創造を司る、偉大なる神、太陽神ラーナさま。
こちらにいるのは、本日15歳を迎えたハーティマー男爵家、長女、セレスティーナ・ハーティマーです。
ラーナさまの大いなる力をもって、この者に祝福を与えたまえ!」
聖堂師さまが言葉を終えた瞬間、
頭の中で、何かが弾けたような感覚が襲い、まぶしい光が見えたように思えた。
んん? あれ? 目をつぶっているのに、なんか眩しい?
突然、頭の中に、次々と知らない光景が映し出された。
おとぎ話の本に出てくるような、古代の建物。
動物の頭に、おとぎ話に出てくる神さまのような人間の体。
ハヤブサ、ライオン、ジャッカル、黒い犬のような頭の戦士たちが剣を振るっている。
他にも、山羊、ダチョウ、黒い猫の頭の人たちがいる。
そして私は、魔法を使っている?
「絶対に大丈夫! 私は信じる!!」
私がそう叫ぶと、私の手から光が放たれ、周りの戦士たちを覆った。
その瞬間、眩い光が弾け、戦士たちの凄惨な傷が瞬時に癒えた。
爆発的な力が戦士たちの全身に宿り、魔獣のごとく素早い動きになり、群がる敵を容赦なく打ち砕いていく。
そして、さらに神々しい光が放たれた……
何よ、これ! これって私なの?
(これって、おとぎ話に出てくる、伝説の王女さまじゃないの???)
(えっ……私って魔法が使えたの……!? )
(なにこれ、私、こんな規格外な魔法を使っていたの……???)
(えっ、嘘でしょ? あの伝説の王女さまって、私だったの!?)
頭の中に一気に流れ込んできた前世の記憶で、私の頭は、グワングワンと鐘を近くで聞いているような感じになり、立っているのがやっとであった。
しかし、聖堂師さまは、何事もなかったかのように言葉を続けた。
「目を開けていいですよ」
えっ?
私の中では何十分も経ったような気がしてたけど、一瞬の出来事だったってこと?
聖堂師さまは、特に何か起きた様子はない。
私だけに、何かが起きたってこと……?
それとも、一瞬の夢……? うーん、私、一瞬寝てた……?
何が起きているのか分からないまま、ゆっくり目を開けた。
「セレスティーナ、『洗礼式』でラーナの祝福を受けた証として、このペンタクルを渡します」
「あ、ありがとうございま……す」
私は、クラクラする頭を何とか保ちながらお礼を述べた。
聖堂師さまは、ちょっといぶかしげな顔をしたけれど、すぐにいつもの穏やかな顔に戻り、ペンタクルを私の首にかけてくれた。
ペンタクルは、ラーナを象徴する金色の首飾り(もちろん、本物の金じゃないけどね)。
手のひらくらいのサイズの丸い形で、真ん中には、太陽のシンボルが描かれている。
ペンタクルを首にかけた私は、その中に描かれている太陽を見つめた。
『洗礼式』を無事終えたことで、なんだか誇らしい気持ちになり、嬉しくなった。
えっ。
一瞬その太陽が光った気がしたので、もう一度見てみたが、特に変化はなかった。
気のせいかな。
「このペンタクルは、『洗礼式』を終えた者だけがもらえる、大切なものです。これから、王都での試験を受けるときや、どこか違う領地に行くときにも、このペンタクルが必要となります。大事にしてくださいね」
「はい、聖堂師さま、承知いたしました。本日は、ありがとうございました」
聖堂師さまに一礼した。
ひととおり、儀式を終えた私は、聖堂の外に出て、頭を冷やした。
雪が降っているから、頭というか、全身を冷やしていることにはなるが……などと冷静に考えながらも、まずは落ち着ける場所を探した。




