1)成人の儀『洗礼式』1
朝食を終えて、家族皆に見送られ、『洗礼式』を受けるために、私は歩いて領内にある聖堂に向かった。
家族が付き添って式を受ける人も多いようだが、うちの場合は、
「我が家は騎士の家系で、騎士を目指している者が、成人となる式なのだから、一人で行くことに意味がある!」
という父の方針で、一人で行くことになった。
母は、優秀な兄たちの時は心配なかったようだが、剣の腕がいまいちの私は心配で、一緒に来たいようだった。
「一緒に行きたいけど、家長であるロジャーの方針だから仕方ないわね」
と、母は言っていた。
「大丈夫だよ。私だって毎日お稽古しているんだから!」
胸を張って、母に安心するように伝えた。
我が父が治めるハーティマー男爵家の領土は、カルーナ王国の最北部に位置する。
王都からは離れていて、大聖堂には行けないので、地方聖堂で『洗礼式』を受ける。
今日は雪がチラチラと降っていて肌寒い。そろそろ冬が本格的にやってくる。すっかり木々の緑がなくなり、花も枯れて、ちょっと寂しい風景になっていた。
聖堂に行くのはニ度目。生まれてすぐに、魔法の適性があるかどうかの検査を受けることが、義務付けられている。
私は適性がなかった。
魔法を使える人間は、とても希少なので、検査で適性があった場合は、必ず王立学校の魔法科に進学することが義務付けられている。
貴族も平民も、魔法適性があると、試験なしで王立学校の魔法科に進むことになる。
もちろん費用もかからない。
国がすべて面倒をみてくれる代わりに、学校を卒業したあとは、魔法省で働くことになる。
私は騎士家の人間だから、魔法の適性はなくても、自分の好きな騎士の道を進むことができるのよね。
まぁ、試験に合格できるかどうかは、別問題として……
しばらく歩いていると、上から突然黒い塊が目の前に落ちてきた。
「なっ、何! 魔獣!」
思わず、腰に帯びていた剣に手をかけた。
あれっ、でも魔獣は北の森にいるのであって、こんなところにいるはずがない。
「ニャーオ!」
「な、なんだ猫かぁ。びっくりさせないでよー」
よく見ると黒い猫だった。
「しっかし、何でこんな寒いのに、どこにいたの? 木の上にいたの?」
「ニャーオ、ニャーオ」
「なんか答えているみたいだけど、わかんないし。うーん、寒いのに、ここに置いていくのも心配だなぁ。そうだ、聖堂に連れて行ったら、寒さをしのげそうな場所があるかもしれないわね。一緒にいこう!」
「ニャー!」
猫は私の前をまっすぐ聖堂に向かって歩きだした。
あら、私の言葉の意味が分かっているのかしら? そんなわけないか。
私は、一人でくすりと笑った。
聖堂に着いて、黒猫をどうしたものかと考えているうちに、気がつくと、どこかに行ってしまった。
また、帰りにでも探してみよう。
聖堂に入ると、正面にすべての始まりである、太陽神ラーナの石像がある。
大きなワシの聖獣が、両翼を雄大に広げている。
堂々たる姿は、全身から神々しいオーラをまとっていた。
地方聖堂を預かる、聖堂師さまが太陽神ラーナ像の前にいた。
「セレスティーナ・ハーティマーですね。今日は『洗礼式』を無事に迎えられましたことを、心よりお祝い申し上げます」
聖堂師さまが、ジッと私の顔を見つめていた。
家を出るときには、母に何も言われなかったけど……
やだ、なんか、ついているのかな。
私は、焦りながら、ちょっと早口になった。
「聖堂師さま、ありがとうございます。わ、私の顔に何かついていますか? 朝ごはんのあと、急いで出てきてしまったので……」
聖堂師さまは、ゆったりとおっしゃった。
「いえ、失礼いたしました。あなたの髪の色と瞳の色が見事だなと思い、思わず見とれてしまいました」
髪と瞳の色……?
母と同じオレンジ色だけど、私の方が、かなり色が濃い。
瞳は、母のグリーンとは違って、吸い込まれそうな濃いブルーなんだよね。
私自身、母に似た美人だし……
うん、自分ではそう思っている!
(やだ、顔に何かついていたんじゃなかったんだ。よかったー)
「……私の顔に見とれたのね、フフ」
思わず心の声が漏れてニヤニヤしていると、
「いえ、顔ではなく、髪の色と瞳の色ですよ」
すぐさま聖堂師さまに、丁寧に、そしてにこやかに否定をされた。
何でかな?と思いつつも、ちょっと恥ずかしくなったので
「あっ、そうでしたか。本日は、よろしくお願いいたします」
と、速やかに式を進めてもらうように促した。
「はい。それでは『洗礼式』を始めましょう。こちらに来てください」
聖堂師さまが、私に太陽神ラーナ像の前に来るようにおっしゃった。
私は、ラーナ像の前に立ち両手の指を絡め、静かに目を閉じた。




