10)王都へ
学校の卒業試験が終わり、無事に卒業式も終わった。
屋敷の庭の木々には、ちらほらと緑が見え始め、花のつぼみも膨らみ始めた。
そして、いよいよ騎士団の入団試験の日が近づいてきた。
試験は王都で行われ、初日の一次試験で合格すると、翌日の二次試験、さらに合格すると、翌日の三次試験へと進む。最後まで残れば三日間に及ぶ長丁場となる。私は試験初日の前日までに王都に着かなくてはならない。
王都までは、乗り合い馬車を乗り継いで三日ほどかかる。
普通、貴族なら家の馬車で行ったりするのだろうが、騎士家であるハーティマー家は父の方針で、平民と同様、乗り合い馬車に乗って、街の宿に泊まらなければならない。
「一応……ティナは女の子だから、ちょっと心配だわ」
一応……というのは、ちょっと気になったが、母は心配してくれていた。
「大丈夫よ。パヴォも連れていくから。ちゃんと私を護衛してくれるわ」
「ニャーオ!」
タイミングの良いパヴォの返事に安心したのか、母は笑った。
「パヴォ、ちゃんとティナを守ってちょうだいね」
「ニャー!」
パヴォもしっかりと返事をした。
「本当に、言葉が分かるみたい」
母が、ちょっと首をかしげながら言った。
うん、分かってるのよ!とは言えないので、ちょっとドキドキしながらも、私は微笑んだ。
☆☆☆☆☆
騎士団の入団試験を四日後に控えた日、私はパヴォと一緒に王都に向かった。
朝早かったが、母が玄関で見送ってくれた。
「ペンタクルはちゃんと掛けているわね」
ペンタクルは、他の街や王都に入るとき、騎士団の入団試験でも『洗礼式』を終えた証として必要だから、絶対に忘れることはできない。
身分証明書のようなものね。
ペンタクル自体には何も書かれていないんだけど、身分確認の魔道具を使うと、名前や生年月日、生まれた場所などの詳細が分かるらしい。
「もちろん!」
母に言われて、首に掛けていたペンタクルをしっかりと見せながら答えた。
「ティナ。自分を信じて、騎士になるイメージを大切にね」
「えぇ、自分を信じて騎士になります!」
母の言葉にしっかりと答えて、出発した。
本当は、数日早めに王都に行って、ちょっと王都の街中とかを見たかった。
母に言ってみたが、賛成してもらえなかった。
「ティナは初めてなんだから、早く行っても、どこを見たらいいか分からないでしょう?」
そ、そうなんだけどさ、ちょっと見てみたいじゃない。
でも、騎士団の入団試験前に、何かあったら困るから我慢しよう。
試験が終わったら、見て回ればいいと自分に言い聞かせた。
乗り合い馬車には、様々な人たちが乗っていた。
商人、旅人、王都に遊びに行く人、実家に帰る人など、普段はあまり接することのなかった人たちだ。
パヴォも一緒だったせいか、話のきっかけになることが多く、色々な人たちと話すことができて楽しかった。
道中の宿も、パヴォと一緒に泊まれる場所を探さなければならなかったが、意外とどこもすぐに泊めてくれた。
「パヴォ、すぐに宿が決まって良かったわね。ちょっと心配していたのよ。猫が一緒だと泊めてくれないところもあるって聞いてたから」
「うん、その辺は大丈夫だよ。見た目は普通の猫だけど、僕は聖獣だからね」
「ん、どういうこと? 聖獣は拒否されないってこと?」
「まぁ、そんなところだね」
いまいちハッキリとは分からなかったけど、拒否されないならいいわね。
私たちは特に問題もなく、騎士団の入団試験前日の夕方、王都に到着した。
試験は三日間あり(最後まで試験を受けられるという前提で……)、その次の日が最終の合格発表になる。そのため、宿は四泊五日分を確保しなくてはならない。
王都の宿も、何の問題もなく確保できた。
本来、騎士団の入団試験があるのだから、かなりの人数が王都に集まっているはず。そんな簡単に、宿が決まるとは思っていなかった。
部屋に入って荷物を整理している横で、パヴォは、なんか鼻歌を歌っている。
どうもパヴォが何かしているような気がする……
「パヴォ、やっぱり、何かしてるでしょ。こんなに簡単に宿が決まるなんて変よ」
鼻歌をやめたパヴォが、ちょっと考えてから答えた。
「別に、特別に何かをしているわけじゃないよ。ちょっとだけ、聖獣の力を使っているだけ」
「それって何?」
私の質問にパヴォが笑いながら答えた。
「なんか、僕がここに居たいって思うと、自然に受け入れてもらえるみたい」
「それは、聖獣の魔法?」
「うーん、ちょっと違うのかな。僕が、ここに居たいと願えば、無意識に受け入れてもらえる感じだね」
無意識? 聖獣は、特別な存在だからかな?
「そうなのね。それなら、私が騎士になっても一緒に暮らすのは大丈夫ね」
「うん、大丈夫だね」
騎士になったら、寮に入ることになるから、パヴォの住処はどうしようかと思っていた。
私がこっそり、庭のどこかに小さな小屋でも作って……とか勝手に思っていたが、そんな心配は要らなかったようで安心した。
「グーキュルルル……」
安心したところで、私のお腹が豪快に鳴った。
パヴォが、おかしくてたまらないといった様子でクスリと笑いながら言った。
「さぁ、明日は試験だから、早くご飯を食べに行ってさっさと寝よう!」
「お、お腹が空いていたら力が出ないわ。しっかり食べて、しっかり寝ないとね。さぁ、行くわよ!」
ちょっと恥ずかしかったので、さっさと支度をして出かけることにした。




