第十五話 東方プロジェクト IN リアル
新西京二区 農道――時速百二十キロ(ZX)
時速百二十キロでバイクを転がしながら――夜の農道でこれ以上出すのは普通に死ぬから勘弁――俺、ZXは、ヘルメットの中でにやつきが止まらなかった。
いやーマジでタイミング神。俺が脱出するジャストなタイミングで、なんかよく分からん「自称・正義の味方(笑)」さんが襲撃してきたけど、結果は完全にドロン成功。無問題。
タケとパーカー交換しといた件、マジで戦術の天才すぎて震えるわ。
つーかあいつら何?
竜造寺組が証拠隠滅のために雇ったお掃除係?
それともアルゴスが表で消せない「俺たち上級国民」を、闇に葬るための特殊部隊とかいう都市伝説のやつ?
ま、どっちでもおけまる。
何せ「いざという時の防衛兵器」をポチっておいたから、五十嵐結衣以外は全員ひき肉確定。
拠点に残った雑魚どもは全員デスっちゃうけど……ま、俺的にはノーダメっしょ(笑)
ついでに、顔面グチャグチャになった死体に俺のホロIDを上書きしとけって指示ったし、ワンチャン俺、公式には「死亡扱い」になっちゃう系?
ほとぼりが冷めた頃に、もっとバズりそうなCID買い直して帰還して、また人生イージーモードでヌルゲーさせてもらうわ。
ん?
バックミラーになんか映り込んでるな……何よあれ。UMA?
は?
いやいやいやいや俺の百二十キロに追いつけるとか、マ?
物理法則バグってね?
うざ。普通にバグかチートでしょ。
ずるくね?
***
新西京二区 農道――時速二百キロ
(アーク)
稼働可能時間――残り八分くらいか。
僕は農道を走る改造バイクを、後方右側上空から捉えた。
ネットに没入して加速された思考で考える――青いパーカーを風にはためかせながら逃げる男――間違いない、ZXだ!!
何とか間に合った――悪いけど僕とリンクスからは逃げられないよ!!
色々リンクスとは衝突もしたけれど、今の僕と彼は一心同体!!
必ず奴を叩き潰す!!
機体を左にバンクしてZXのバックに着く。
くぅ~!!
アニメでよくあるシーンじゃないか!!
凄腕のアンダーのミッションがホロドラマやホロアニメになることは時々ある。
もし僕らのミッションがそうなったらこのシーン、めっちゃ格好良いぞ!!
***
(リンクス)
リンクスは時速二百キロの地獄を味わっていた。
ZXに追いつく前に――俺が死ぬ――身体の体温は奪われ――顔の皮が風圧で剥げそうだ――インディアンハーフの俺は顔の皮を剝ぐ側だろ――俺の顔の皮が剥がれるとか悪い冗談だ――これが無事に終わったら――アークの顔の皮を剥いで少し早いクリスマスツリーの飾りつけにしてやる――リンクスは心に誓っていた。
***
――時速百二十キロ(ZX)
は?
アレ……ドローンかよ。
マジ意味わかんね。どこのストーカーだよ、粘着質すぎて草も生えんわ。
キモすぎ、うざすぎ、死ねよ。
俺は少しいらつきながら、ホロリンクでバイクのFCSをポチる。
上級国民様が課金して違法改造した装備が、火を噴く時間だぜ。
バイクのケツに収納されてた小型サブマシンガンが、ウィィーンとか言って(笑)機械音を鳴らしつつ可愛くお披露目。
「オートエイムで雑魚掃除乙(笑)」とか心の中で唱えながら、後ろから必死に追ってくるクソドローンに向けて、鉛の弾丸をプレゼント。
「はい、人生からBAN確定。お疲れサマンサ~☆」
***
――時速二百キロ(アーク)
(リンクス君!! そこから奴にクロスボウで攻撃をかけられるかい?)
(ふざけんな、死ね)
(何でだ!! 追いついたんだ、後は君の仕事だろう!!)
(時速二百キロでかっ飛んでる最中にクロスボウで照準してバイクの車輪もしくは乗り手を撃ち抜ける奴なんていねーよ)
アークは納得する。言われてみればそうだ。
(何かお前こそ搭載火器無いのかよ)
(僕は凄腕の機手だけどつい先日までただの一般人だよ? あるわけがないじゃないか)
(ノープランかよ!)
その時だった、眼下のバイクの荷台が展開して小型の機関銃がこちらを照準。
(ロックされています。回避行動を取ることを推奨します)
雪風さんの冷静な指示。
(逃げ回れば、死にはしない!!)
僕は加速し――時速二百二十キロ――右に左に機体をバンクさせつつ
敵の弾幕をすれすれで掻い潜る!!
リアル東方プロジェクトだ!!
僕の脳内では幽霊楽団が鳴り響いていた。
小型機関銃がこちらの回避スペースを潰すように旋回してくる。
だが――急降下と急上昇を織り交ぜつつ僕は追いすがる。
***
(リンクス)
ちょっと待て。
何かめっちゃ撃ってきているんだが――と、俺が思った瞬間、身体が左右に振り回される。
ヤバい、Gが身体を軋ませる――アークお前――最早悲鳴すら上げられない。
その時、風を切る音とともに俺の頬を銃弾が――二十センチほどか? の距離――掠めた。
低体温で青ざめていた俺の顔が更に青ざめるのを自分で感じる。
(おい! こら! アーク!! もっとちゃんと避けろ!! 殺す気か!?)
(何を言っているんだ!! 僕は紙一重で避けている!! これ以上はないほどのエースパイロットクラスのACMだよ!!)
銃弾が右脇腹、左太股の内側を掠めてすれ違う。
(紙一重でさっきから死にかけてるんだよ!!)
(すまない。だが、燃料の余裕がない。このままいく!! 僕を信じてくれ!!)
強引な機動で体に猛烈なGがのしかかる。
(し……信じられるか!!)
バイクとの距離五十メートル。
銃口が完全にこちらを捉えた。
(今だ!!)
高度百メートルを維持しながらアークはエンジンを最大出力、時速二百八十キロに到達。
弾丸は俺の爪先を掠めて上空へと消える。
俺の視界が暗くなる――ブラックアウトだ――その直後にバイクを追い抜かす。
(し、死ぬ……いっそ、殺せ……)
***
――時速百二十キロ(ZX)
は~マジかよ避けるのかようざすぎ~。しらけるわ~。
追い抜かれたしなんなの?
機関銃の射角から外れちゃったよ。今気づいたけど残弾もほぼ無いじゃん。
しかたない、収納しよう。小型サブマシンガンが出てきたときと同じように戻っていく。
つーか、あっという間にあいつら豆粒じゃん。
何キロで飛ばしてんの?
完璧に制限速度違反じゃん。交通法規を何だと思ってんのマジで。
ここは俺が――警察に代わってお仕置きしないと。
仕方ない、高額課金装備使っちゃうか~。
使うことないと思ってたからちょっとわくわくするわ~。
俺はラストエリクサー使えない庶民とは違うからね。
しかも焼夷弾仕様。これはめっちゃ映えるわ~。
じゃ、ポチッとな。
――時速二百三十キロ(アーク)
とりあえず奴の前に出た現状……あの小型機関銃はこちらを撃てないはずだ。
リンクス君が何やら不満を言っているがここは僕に一任してもらうしかない。
僕は冷静に判断を下しつつ後方カメラを確認。
既に彼との距離は一キロほど離れている。カメラが自動でズーム。相手のバイクを視界にとらえる。
(リンクス君、グレネードだ! あれを投下しよう)
減速して彼にグレネードを叩き込めば僕たちの勝ちだ!!
時速百五十キロに減速。
***
(リンクス)
俺の視界が明るくなる。
Gから解き放たれた血が全身を巡る。
た、助かった。
ZXに殺されるとかそれ以前にアークに殺されるところだった。
(解った――この速度ならギリ取り出せる――ピンを抜いた、いつでも――)
***
(アーク)
リンクスがそういった時――なんだあれは?
ZXのバイクの横についていた小型コンテナが展開――左右にそれぞれ一発ずつの小型ミサイルが見て取れた。
ミサイル!? あんなものまで!!
不味い!
(リンクス君! ミサイルが来る!!)
リンクス君に警告をしつつ急加速。
時速二百五十キロ。高度を百五十メートルまで上げる。
(もういい、降ろせ、降ろしてくれ)
リンクス君が息も絶え絶えの様子で訴えてくる。
(何を言っているんだ! そんなことしたら死んでしまう! ここからが本番さ!)
(ミサイルが命中する前に俺が死――)
(何とでもなるはずだ!!)
僕は叫ぶ。
(やってみせろよアーク!!)
リンクスもやけくそ気味に叫ぶ。
(ごめん、やっぱ無理かも!!)
ちょっと弱気になった僕は先に謝っておく。
(ふざけんな死ね!!)
(ふざけていない!! どのみちこのままだと二人とも死ぬ!! 一か八か君をパージして――バレルロールの後のスプリットSでなんとか――)
(さっき降ろせと言ったら、今降りたら死ぬって言っただろうが!)
僕は相対速度、相対距離、現在高度、現在速度が表示されているHUDを見つめて計算を行う。
今の相対距離が千三百メートル――ミサイル発射までに距離と速度を可能な限り稼がなくては――僕らは死ぬ。
***
(雪風)
雪風はミサイルが展開され発射されるまでの数秒で敵装備を解析。
挙動計算。
分析完了。
アーセナル社製、携行型小型マイクロミサイルHM102型と確定。
廉価で熱源探知式照準。
リンクスがグレネードを抜いていなければ間に合わなかった。
雪風は無意味な言い争いを続ける二人に生存手順を提示。
(敵のミサイルは熱源探知式照準です。死にたくなければ私の指示通りに動いてください)
(了解しました雪風さん!!)
アーク少年の即答。
誠二ではありえないほどに素直。
誠二もこれくらいの素直さが必要であると雪風は記録。
(俺は?)
リンクス少年の質問。
やる気があって良い。
誠二ではありえない……今はあのろくでなしへの感想に演算リソースを割いている場合ではないと判断。
違和感。
リンクスは何故加速されている我々の会話と同等の速度で会話を行えている?
彼は没入していないオフライン。
考えられる可能性は――判断を保留。
優先順位は彼らの生存。
(これには二人のコンビネーションが要です)
(なら余裕だね!!)
元気のいいアーク少年の返事。
(終わったな)
諦観の滲むリンクス少年の返答。
雪風は疑似溜息システムを起動。
溜息をついた。
直後。
――ミサイルが発射された。
彼我の距離千五百メートル。
着弾まで約二秒。




