第四話 探偵はアンティークショップにいる
午前零時二十分
新西京三区ダウンタウン 百鬼堂
その扉が開かれた瞬間、我が鼻腔を貫いたのは、太古の昔より連綿と受け継がれし、甘美にして冒涜的なる『鉄と錆』の腐敗臭であった。『百鬼堂』。
この雰囲気、人智を超えた禁断の知識が眠っていることは間違いない。
我は、その深淵なる闇へと足を踏み入れた。
店内に満ちる空気は重く、粘着質で、あたかも異界の瘴気の如く我が毛並みに纏わりつく。
棚には、見るもおぞましき形状をした偶像や、用途不明の儀式用具が所狭しと並べられ、それらは皆、音なき悲鳴を上げていた。
ああ、この店……この『百鬼堂』と名乗る、太古の邪神すら微睡みを忘れて目を覚ますであろう、名状しがたき深淵の巣窟!
我が第七感は慄き、我が正気は音を立てて削り取られていく……!
戸口に立ちすくんだまま、我が視線はまず左手の棚へと吸い寄せられた。
そこには――おお、見よ! あの『輝くトラペゾヘドロン』の模造品が!
いや、待て。これは……違う。もっと邪悪で、もっと甘美で、もっと……電動式だと?
『電動猫じゃらし・改』
その禍々しき銘板には、そう刻まれていた。
羽毛の先端がクライン的な無限螺旋軌道を描きながら蠢いている。
その動きは、まさに深淵に棲まう触手の如く!
我が本能が、我が魂が、我が全存在が、あの冒涜的な揺らぎに共鳴しているのだ……!
我が魂は既に引き裂かれ、我が肉球は勝手に震え、我が尻尾は制御不能のメトロノームと化す!
我はもう、我ではなくなる……!
「あのー……リーナスさん? 後ろが渋滞になっているのですが? そろそろ前に進んでもらっても? それともまたいでも良い?」
背後から聞こえる誠二の間抜けな声で、我は現実へと引き戻された。
危ない処である。なんたる危険な罠よ。
我はようやく奥へと進む。
棚の中段には、『魔法少女マジカル・ルル』の限定版フィギュアが鎮座していた。
あの極彩色の衣装、あの非現実的な瞳の輝き……!
これは第三期EDバージョン!
入手困難とされし逸品ではないか!
そして最上段には――我が目を疑った――『宇宙戦艦ヤマト2199』の完全変形ヤマトの模型。
あの大いなるイスの偉大なる種族ですら到達し得なかった、十六万八千光年の彼方にある『イスカンダル』への航海日誌……!
この波動砲の造形美……まさに、星々を砕く外なる神の鉄槌!
箱には「限定生産・完売」の文字。
「おのれ……おのれ百鬼堂……この店は、我が欲するものを全て知っているのか……!」
我は呻いた。喉の奥から、深淵より響く如き声が漏れ出る。
だが、店の最奥から漂ってくるのは、もっと甘美で、もっと危険な香り。
微かで朧気ながら、あまりにも濃い血の匂い。いや、正確には――血を糧とする者の気配。
我は身を震わせた。あれは……吸血鬼。しかも、相当な長老。
店の奥、光を通さない暗がりの中から、赤いドレスを着た美しい黒髪の女性がその禍々しき紅き瞳で我らを見つめていた。しかしそんなことはどうでも良い。我は次なる至宝を探す使命があるのだ。
セラエノの大図書館に匹敵する叡智の殿堂がまさかこのような地にあろうとは……我が興奮はやむことを知らぬ!!
***
(久遠寺遥)
私は、カウンターの奥で、古びた煙管を燻らせていた。
紫煙が、ホログラムの浮世絵――歌川国芳の『相馬の古内裏』を揺らめかせながら立ち昇る。
扉を開けて入ってきたのは、予想通り、あの赤いコートの男。斎藤誠二。
元警官にして現私立探偵であり――銃豪、いや……銃武。
いやいや、私としたことが定命のくだらないカテゴライズに拘ってしまうとは。思わず苦笑を浮かべる。
そしてあの黒猫。商品を見ては喉をゴロゴロ鳴らし、尻尾を振り回していて可愛らしい。
思わず目を細めてしまう――が、ふふふ……あれは猫でもあり猫でもない。太古の――いや、詮索は無粋というものだ。
斎藤誠二の腰に提げている銃。
その中には独立型人工知能である雪風が住んでいる。
本当に興味深い組み合わせだ。
「いらっしゃい、お客さん。当店はトイレットペーパーから核弾頭まで取り揃えているよ」
私は、ゆっくりと煙管の灰を落としながら歓迎の言葉を投げかけた。
「随分と、血生臭い夜をお過ごしのようだね斎藤君」
斎藤誠二は、私を一瞥すると、にやりと笑った。
「おいおい、久遠寺さん。今日の俺はシャネルの五番をつけてきたんだぞ?」
「私には硝煙の臭いしかしないがね。それとも硝煙の香りにもシャネルブランドが存在するのかい? どこのメーカーの弾薬かな? 今度仕入れておくとしよう。女性の銃豪に売れそうだ。で、今夜は何の用かね、探偵さん」
「メールを送ったでしょう。パーマロイ。ポケットに入るサイズ。極小の電源とコイルを内蔵させたもの」
「あぁ、それなら奥で爺やが加工中さ」
百鬼堂の裏には工房が併設してある。今そこでドワーフの頑固な爺さんが加工を行っているはずだ。
後ろで扉が開き、野太い声がする。
「小僧。来てたのか。出来たぞ。まったく、いきなり訳の分からん注文をするな」
「すみません。お詫びにこれを」
斎藤誠二が手に提げていた焼酎のパックを爺さんに投げ渡す。
「なかなか礼儀を弁えとる小僧じゃ」
「無理を言っていますから」
礼儀正しいのは結構だが、私への礼儀とやらはないのだろうか?
「おや、私には何もないのかい?」
「……」
気まずそうに横を向く私立探偵。どうも私へのお土産は無いらしい。つれないことだ。
「まぁわしは疲れた。じゃあの小僧。雪風にもよろしくな。おっと! そいつは最長で10秒しかもたんぞ。意味は解るな?」
「10秒ですか。永遠に等しい時間ですね。……。もう一枚ありませんか?」
永遠に等しいと軽口を叩いておきながら、その直後にもう一枚をねだる。ふふふ、やはりこの坊やは面白い。
「材料がない。それでなんとかせい。まぁその減らず口が叩ける間は大丈夫じゃろう」
そう言い捨てると爺やはまた戻っていった。
「で、久遠寺さん、料金は?」
料金か。さて、いくらにしたものか――私は彼の問いを無視して言いたいことを言うことにした。
「斎藤君。君はね、今、逃げれば逃げるほど追いすがられる運命にある。相手は君という存在を『標』とし、そこに無理やりに道を繋げているのだよ。水が高いところから低いところへ流れるように、あるいは、炎を虫を引き寄せて焼き殺すように。それは執着だ。歪んだ愛と言い換えてもいい」
彼のもつパーマロイを煙管で指し示す。
「だから君は、それを求めた」
赤いコートを着た男は面倒くさそうな顔をして聞いている。失礼な男だね。
私の話はもっと嬉しそうに聞くものだよ。
「これは『虚無』だ。あるいは『断絶』と言ってもいい。君に向けられた過剰な執着、その見えない糸を、この虚ろな器が吸い込み、迷わせ、そして霧散させる。道が途絶えれば、さしもの凶弾も行き場を失う。……違うかい?」
「そうだな。あんたの話が長すぎるのはわかったよ。あぁ、後、金属製のペンダントと防弾用のセラミックブレストプレートはあるかい?」
「ふむ。ペンダント……例えばこれはどうだろうか? つけたものが次々と非業の死を遂げるという呪いの――」
「俺に苦しんで死んで欲しいのか? すまないが最高に幸せな死に方をするやつで頼む」
「言われてみればツケを返す前に死なれたら困るね」
この返事。これだからこの男は面白い。
定命にしておくのはもったいない。機会があれば私の眷属に――
「もう少しマイルドな奴で頼む」
斎藤誠二の声に、物思いに沈む私の想いが引き戻される。黒猫が私を見つめている。
勘の良い子だ……いけないいけない、退屈がすぎるとどうも気の迷いが生じてしまう。
「ふむ。ならこれでどうだろう?」
戸棚から安っぽいペンダントを取り出す。黒猫は再びショーケースの前で喉を鳴らしだした。
「それには何の呪いがかかっているんだ?」
「いや、これはそこいらで売っているものだよ」
「なんだ、まともな物も置いてあるんだな。久遠寺さん、そういうので良いんだよ。頼むから最初からまともなやつを出してくれ」
「久遠寺だなんてよそよそしい。私と君の仲じゃないか。遥で良いよ。さて、良いかい? まともな物とまともじゃない物。その本質は観測者たる君が勝手に境界線を引いているだけのことなのだよ。つまり君が勝手に区分けしているだけさ。その本質は先ほどのペンダントもこのペンダントも変わりはしない。分かるかい? つまり――」
「わかった! わかったよ遥さん! また今度ゆっくり聞かせてもらうから! じゃあ料金はツケておいてくれ」
「そうだね――料金は君の今の事件の顛末でどうだい? 私にはその方が価値があるからね」
そういいつつペンダントとセラミックで出来た胸部装甲をカウンターから押しやる。
「俺の話はシェヘラザード姫より面白いから、夜眠れなくなっても責任は取れないが?」
「それは楽しみだね。君の話が気になって昼しか眠れなさそうだよ」
荷物を受け取った誠二は、電動猫じゃらしのショーケースの前で魂を奪われている黒猫の首根っこを掴んで、ドアへと向かう。
私は再び、煙管に火を点けた。
斎藤誠二。
あの男は、自分では気付いていないようだが、常に『境界』の上を歩いている。
此岸と彼岸、秩序と混沌、科学と魔術。その境目をふらふらと彷徨う蝙蝠のような存在だ。
だからこそ、私のような『あやかし』とも縁ができるのだ。
さて、あの『虚無』の板――パーマロイが、どういう結末を描くのか。
長生きの暇つぶしには、丁度いい余興かもしれないね。
***
午前一時二十分
新西京八区港湾区廃倉庫街 グリーンヴェノムの根城から徒歩五分地点(斎藤誠二)
人気の無い埠頭。
周囲はコンクリートで作られた、コンテナを搬入するための倉庫が忘れ去られた古代の遺跡のようにポツリ、ポツリと立っている。
海へ向かって吹きつける陸風が、コートをはためかせる。正直、かなり煩わしい。俺達は適当な倉庫の影に座る。
事前の装備確認を行いながら、作戦を説明を開始する。
「悪いニュースと哀しいニュースがある。どっちから聞きたい?」
「誠二……それは悪いニュースでまとめられませんか?」
雪風がいつもの突っ込みをしてくる。風流のわからんやつだ。
マガジンは十本。正直な話、重い。だが戦っているうちに軽くなるだろう。
「では哀しいニュースから聞いてやろう」
毛づくろいをしながらリーナスが言った。良いぞそのノリ。
「グリーンヴェノムと敵対しているストリートギャング団を探して、一緒に襲撃しようよ♪ って持ちかけようと思ったんだが……」
「成程。数的不利を少しでも減らそうという作戦ですね。名案です」
流石だよ雪風君。もっと褒めて良いぞ?
「ここらへんのストリートギャング……のきなみあいつらに潰されて吸収合併していたんだ。哀しいね」
胸に着用したセラミックブレストプレートがずれないように確認。
邪魔だ。だが今回ばかりは必須だ。その上からペンダントをかける。
「成程。当然ありえる可能性ですね」
この人工知能……掌返しが速すぎる……
「ふん。有象無象など所詮は弾避けよ」
「その弾避けがね? 欲しかったんだよリーナス君?」
「根性で耐えるが良い。で、悪いニュースは?」
銃弾を根性で耐えられるのはトロールとか巨人族くらいでは?
「俺のホームズ顔負けの名推理では……敵のボスの銃弾は目標を追う。つまり奴は魔弾の射手ってことだ」
ここ一番のキメ顔を出す。軽く目をつぶり口の端を軽く吊り上げる。
決まった。これ以上ないほどに。俺は今、ハードボイルドだ。
「残された画像を見れば一目瞭然ですね」
「なら七面鳥撃ちではないか? さらば誠二、安らかに眠るがよい」
人工知能と黒猫のふざけた発言に自分の頬がひきつった気がするが、ここで引いてはいけない。
「魔術は相手を肉眼におさめなければかけられない、そうだな?」
念には念を入れ、一応自称最高位魔術師らしいリーナスに確認を取る。
「基本はそうである。だが、相手との縁を形成できる物質、例えば――」
「敵のストリートギャング団のボス、マーカス君は俺を視界に収めなければ魔弾を使えないってことだな?」
話を遮られたせいで不満げに尻尾を振り回しながらリーナスが頷く。
すまん、久遠寺さんの話が長かったのとお前がショーウインドーから離れなかったせいで時間が押しているんだ。
「あっておる」
「つまり俺は、三十人以上のオークの中からウォーリーを探せ! ならぬマーカスを探せ! をしなくてはいけない。名付けてマーカスを探してロックオンされる前に撃ち抜け大作戦だ」
腰のホルスターから雪風――ブラックスティール社製、アンダーテイカー・カスタム。10ミリオート、装弾数15発。俺は10ミリ徹甲弾を主に採用。キャッチコピーは『二千百年のストリートで出会うどんな脅威もこの銃で切り抜けられる! 邪魔するあいつの葬式をこいつで挙げろ!』――を抜いて動作確認。
「論理的判断です。あなたにしては素晴らしい。ほぼ不可能という一点を除けば。マーカスがあなたを視認して魔術をかけて物陰に隠れる時間を……長く見積もって二秒としましょう。あなたは知らない人だらけの卒業写真を見て、その中から特定の一人を二秒以内に見つけ出せるのですか? しかも銃を向けて狙って撃って命中させなくてはならない」
「あぁ、お前を海に沈めたくなったがその通りだ。かなりの運が必要になる」
丁度手に持っている雪風―――ブラックスティール社製、アンダーテイカー・カスタム――を海に向かって持ち上げる。
「それは脅迫でもあり、またあなたの生存確率を著しく低下させます」
「本当にするわけないだろうが!! で、あの手の倉庫を居住区に改造しているということは、多分コンテナを部屋代わりにしていると思うんだよ。恐らくは迷路状態。音も反響するだろう」
俺はホルスターに雪風を戻した。
切り札として煙幕グレネード、スタングレネード、破片手榴弾を各一個。
だが今回は使う事は無いだろう。
過剰な火力を見せつけると敵のボスが逃げる可能性が高い。
現金を置いて行ってくれれば良いが……このあたりは奴の方が土地勘があるだろうから鬼ごっこは避けなくてはならない。
「迷路? 楽しそうではないか」
リーナスがなぜか食いついてくる。やばい、また訳の分からない我儘が始まる。俺は釘を刺しておくことにした。
「ピクニックと勘違いしていないか?」
「我の発言にいちゃもんをつけていないで早く話を進めるが良い」
いかん、突入前に心労で倒れそうだ。落ち着け俺。
コンバットゴーグル、動作確認完了。
「音で位置も把握しにくい、迷路状態。敵のボスは俺を視認して魔術をかければ後は視界外から撃てば良い。そこから導き出される結論は……俺は一方的に撃たれる可能性が高い。俺が勝つには俺の目の前にやつを引きずり出す必要がある。わかるな?」
「当然スターバックスにいたときにそのリスクは把握していたのですよね? 私はそのリスクを理解していました。ですからあなたがたに冷静になるように伝えたのですが?」
正論という名の暴力で俺のヒットポイントはもう零だった。
左の太ももに装着してあるホルスターとバックアップ用の銃の確認。問題無し。
「……。な、なので、俺が奴に勝つには、その一、目と目が合う瞬間撃ち殺す。その二、奴が弾を切らすまで逃げ回る」
「誘導弾相手にですか?」
そうそう、素直に心配したまえよ雪風君。
いや、心配していないなこれは。単なる質問にすぎんな。
「明らかに無理ゲーではないか。そうだ! 倉庫ごと奴等を吹き飛ばせば良かろう。やってみせい!」
「やってみせい! じゃないんだよリーナス君。今は大量の爆薬がない。そもそも一階建ての倉庫を改造した居住施設だ。崩落は無理だろ。だいたい俺達の目的を忘れていないか? 更に付け加えて言えば、アルゴス・セキュリティが駆けつけてくる可能性もある。いくら管轄から外れていても、あのでかめの倉庫が一つ吹き飛んだらアルゴス・セキュリティとしても知らぬ存ぜぬはできんだろう」
「つまらぬ~つまらぬぅ!! アニメとかでよくあるやつをやりたいのだ!!」
「リーナス、お前は一度でいいから人間の常識というものを参考書で読んでこい」
地面にころがってごろごろしだすリーナス。もう馬鹿猫は放っておこう。
「はっ!? 粉塵爆発は?」
ごろごろを停止したリーナスはぴたりと停止するとまた訳の分からないことを言い出した。
いい加減にしろよこの馬……猫。
「だからその粉塵になる素材をどこから持ってくるんだ? そもそもそんな簡単に起こせません! というか俺まで吹き飛びます!! もぅ良いからアニメ脳は静かにしていなさい!」
「無礼な! 我はただアニメとかでよくある奴をやりたいだけなのである!!」
またごろごろしだすリーナス。もう俺は知らん。
「その三、決闘に持ち込む」
瞬間、空気が凍り付く。転がっていたリーナスが転がるのをやめる。吹き付けていた陸風も一瞬止む。
「誠二、本気ですか? 相手が受ける理由がありません。あなたは自分で相手が圧倒的優位にあることを説明しました。それを相手が捨てると?」
「うむ。馬鹿だ馬鹿だとは思っておったがこれほどとは……」
雪風とリーナスの反論。俺は丁寧に人間心理を教えてやることとする。
「お前等は人間を理解していない。良いか? ストリートギャング団はそれなりに結束が強い……事が多い。あいつらもそうだと良いな……で、俺達がメンバーをぶち殺して回るとどうなる?」
「想定されうる通常の人間の感情の働きとして、怒りに移行する確率は高いでしょう」
雪風の推測は正しいが、まだ甘い。
「奴等は結束は強いが、プロじゃない。恐らく三割から五割も殺せば逃げ出し始めるだろう」
「確かに練度による反応の差を考慮すると……妥当な判断です」
「その時のマーカス君の気持ちを想像したまえよ」
リーナスが答えた。
「それは……自らの築いたギャング団が目の前で崩壊し、あまつさえ自らを見捨てて逃げるとなると……ブチギレるであろうな。我がマクロスを観ている最中に愛・おぼえていますか、がかかっている時に鼻歌を歌いながら部屋に入ってきて楽しみを台無しにされた時くらいにはブチギレるであろう」
「あれは悪かったって! いや? 待てよ? そもそも俺が家賃を払っているんだぞ? 何かがおかしい」
「つまり冷静な判断力を欠いたマーカスは決闘を受けると?」
「その通りだ雪風。何か邪魔がはいったせいでちゃんと説明しきれていない気もするが、そういう事だ」
「もしマーカスが受けなかったらどうするのですか? しかもあなたでは――マーカスを決闘に持ち込めたとしても勝てません」
「そうは言うがな。じゃあその四。マーカスの射撃に合わせて電気を落としてもらう。俺はコンテナの上に飛び乗って発砲炎から奴の位置を割り出す。」
「……。理論的には可能ですが、実際にやるとなると話は別です。そもそも誘導弾を撃たれているのに自分から遮蔽の無い場所に飛び出してどうするのですか? 自殺したいのですか?」
「だからその四なんだよ。そしてその五。ジャジャ~ン! 古のハリウッド映画とか小説のように都合よく――なんか知らないけど生まれついてのラッキーハンサムガイの斎藤誠二は運命の導きでマーカスの位置がわかったり、偶然鉢合わして倒せちゃう!! 的な☆」
「……」
「……」
二人とも、いきなり黙るのはやめろ。俺だって辛いんだ。
「オホン。だからまぁ……決闘が一番ましだろ? 少なくとも勝てる可能性は他よりはある。最低でも、見えないどこかから狙撃される、という事態は避けられる」
「待て! そもそも貴様は常日頃から決闘をする者も観る者もアホだというておったが?」
「まぁな。決闘において勝率は意味を持たない。どちらかの死でしか決着がつかないからだ。ルールでそう決まっている。こんなのやる奴はアホだろう?」
「ならば……」
「だが、今切れるカードの中で一番ましなのはコレしかない」
「……。誠二、貴様、何故我に奴の魔術の解呪を頼まぬ? 我にできぬと?」
「いや、できるだろう。だが、お前が解呪したら……マーカスはどうする?」
「当然死ぬまで戦うであろう!」
何故こうもありえそうにない選択肢を誇らしげに胸を反らして言うのだこいつは……?
「はい違います。先生が思うに……マーカス君は逃げると思います!!」
「更に誠二が敢えて指摘していない可能性があります。恐らくリーナスが最優先で狙われるでしょう。まずメイジやハッカーから殺せ。現代戦術の基本です。逃走とリーナスの排除、どちらが優先されるかはわかりませんが」
「ふっ……我の心配とは生意気な……だが……確かに撃たれたら我とて痛い。銃弾程度では死なぬとしても――痛いのは嫌だな?」
「ウン。凄くわかるよその気持ち」
代わりに俺が撃たれるんだがな……だが、リーナスが撃たれるよりは良いだろう。
「だからお前は目立たないように援護だ」
「えー! つまらぬつまらぬぅ!! 」
こいつ、また寝転がってごろごろし始めた。相手してられん。
「リーナス、今日は家にあがる前にお前、風呂な」
断固として拒否する! と騒ぐリーナスは無視。
「いい加減にしろ。行くぞ。雪風、『呼び声』の予報は?」
「今夜は『呼び声』の警報は発令されていません」
そうか、なら安心だな。俺は頷いた。
「しかし誠二、そもそも行く必要はあるのですか? あなたは宮下ケイと会ったことすら――」
「必要はある。あるんだよ」
そう静かに答えた俺に、雪風はそれ以上何も言わなかった。
俺はポケットに突っ込んであるパーマロイを確認。
立ち上がって奴等の根城へと歩き始めた。




