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第一話 空気の値段

 十一月三日 午前一時

 新西京七区スラム街廃アパート レッドコード元本拠地


 この壊れたガラス細工のような世界の片隅に生きている、空気。

 それが俺達(ストリートチルドレン)だ。

 掃除しようのない、扱いようのないゴミを無視するようにいないものとされて生きている。

 寄る辺をなくした野良犬が寄せ集まって暮らすように俺達はストリートギャングとして生きていくしかない。


 そうでなければ生きていけないからだ。


 十歳になるかならないかくらいから街の路地裏で客を取る(路上売春)少女。

 少年はドラッグの売人になり、同じストリートギャング同士で一ブロックの縄張り(徒歩五分で一周できる)を争って殺し合う。


 男も女も十八歳を越えれば長生きだ。

 蜻蛉よりも短い寿命。

 それが百年前からずっと変わらない俺達の世界だ。


 同じ地球で生きていて同じ人間のはずなのに鳥と魚ほどに異なる世界で生きる。

 だが、そのゴミすらも拾い上げて、すり潰して、肥料にしようとする連中もいる。

 植物が光合成に空気を使うように、奴等の養分になって当たり前、そういうことなのだろう。

 

「できれば殺すなよ。臓器は新鮮な方が良いからな。あーあと、見栄えの良い奴は男女の区別なくとっとけよ~。幼児愛好家に高く売れるかもしれんからな」


「ZX君、こいつは?」

「おいおい、ケン、マジ冗談きついっしょ。ないわ~。思わず殺したくなったわ」

 か細い悲鳴。

 リーダーの慎二が黒板を爪で引っ掻くような悲鳴を上げる。


「ZX君、死んじゃうって。自分で殺すなとか言っといてまじうける」

「あ、めんごめんご。ごめんね君~。安心して? もつ(内臓)抜くまでは生きてて良いからさぁ」


 黄色いパーカーを着た、周囲に多数の小型ドローンを飛ばしている生まれて一度も約束を守ったことの無さそうな男が慎二に言う。

「な――んで――」

 慎二が途切れ途切れに問う。


「なんで? え? がちめにいっちゃってるの? じゃくにくきょうしょく、ってしらねーの? いやだねぇストリートチルドレン上がりのストリートギャングは学がなくてさぁ。お前らは養分ってわけ。オヤジ狩りとかしてる奴等いるっしょ?

 あれと同じ。でもロー・シド(国民登録)のおっさんでもぼこったら犯罪になっちゃうじゃん。その点ストチル狩りは外れなし。ゼロ・シド(無登録)のお前等に何しても犯罪にならない。ノーリスクハイリターン。マジコスパさいっきょ!

 今してるのはある意味ボランティア――街のゴミ掃除ってわけ」


「たのむ――みのが――」

「あーだめだめだめ。これが資本主義ってやつ。俺らはね? 生まれる環境も、死に方すらも選べないお前等と違うんだわ。って養分と会話すんのもまじたりぃんでそろそろ黙っとけーマジ殺すぞー?」


 牛の塊肉を荷台に放り込むような音がする。

「あらかた終わったか~?」

「撤収っしょ~」

「はーまじだるかったわ」


 好き勝手なことを言いながら養豚所の豚どもが立ち去ろうとする。

 最初に奴等を撃とうとして撃ち返され、血だまりの中に倒れた俺だけは何故か無視されていた。


 空気として生きてきて、死ぬときすらも空気。

 バンの扉が閉まる音、エンジン音。

 

 それからどれくらい時間がたったのだろう――冬の朝、布団から出られなくて悩んでいるくらいに時間間隔がない。

 冷たいアスファルトに取り残されたままの俺の意識が遠のく。


 どこからか、猫の鳴き声が耳に掠めた。

 頬を舐めるざらざらしたやすりのような感覚……


「見つけたぞ!! シャルテンちゃん、こっちだよ~」


 さっきの一ミリグラムくらいの重さを十キロにみせかけようとしていた軽薄な男達の声とはまた違う、一トンの重さを五グラムにみせかけようとしているような男の声を――聴きながら俺の意識は闇へと沈んでいった。


 やっと……こんな世界から……

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