第十話 黒い毛玉、最新兵装を得る
午後三時三十分
旧・聖母マリア療養所跡地 現ブルーローズ教団拠点
俺が自動扉を潜ると、すぐ目の前にエレベーターがあった。エレベーターのサイズはかなりでかい。同時に二十人くらい乗れそうだ。
そして左右に通路が伸びている。
内装は白。
大理石のような質感の壁面がずっと続く。
まずは一階の構造を把握したい。恐らくシーリーは一階にはいないだろうが……
通路の右側に沿って進んでいくと突き当りで左に曲がる。
まっすぐ更に進んでいくと突き当りでまた左に曲がる。
右手に窓はなくずっと白い壁面だ。
左手には時折扉があった。
扉を開いて覗くと、厨房、集会場、礼拝堂、お手洗い、シャワールーム、集団居住区、非常用階段、の順に部屋がある。
良く解らんのはどの部屋にもガイガーカウンターが設置されていることだ。
礼拝堂の照明は不吉な蒼い光。
見かけた信徒らしき人数は約十人ほど。武装は特にしていなさそうだ。
……やはり地下か。
その前にどうしても解決しなくてはいけない問題がある。
「ふむ……どうやら財宝は地下にあるようだな」
とか言っている黒い毛玉だ。
「そうだった、レーザーポインターの調整しなくちゃな~」
わざとらしく『雪風』を取り出してレーザーポインターを装着する。
「誠二、私にレーザーサイトは――」
「しっ!!」
雪風を黙らせる。
俺は銃口を動かし、壁の上を跳ね回る赤いドットをリーナスに見せつけた。
「おっと。銃口の先に、こんなカッコいい『紅い印』が。映画の主人公みたいだな」
「誠二……貴様、洒落たものをつけているではないか。アニメや映画で時々みかけるやつであるな?」
リーナスの頭が動き回る赤いドットを追いかけてぐるぐる動く。
「なんだリーナス。羨ましいのか?」
「我も同じような物があったら使ってやらないでもないぞ? 捧げぬか?」
奴の尻尾がゆっくり左右に揺れ始める。
「いやーこれはちょっとなぁ……」
敢えて渋ってみせる。
「何だと!! 貴様だけずるい!」
ふっ、かかった……素直に最初から欲しいと言いなさい。
「そこまで言うなら……ちょっと待ってろ」
俺はもったいぶりながらリーナスの傍らにしゃがみこんだ。
そしてリーナスの背負っているリュックから元素魔術用補助具を取り出し尻尾の先のあたりに装着。リーナスの首輪と同期完了。
「……少し重いな」
「まぁまぁリーナス君。ほら、尻尾で狙いたい場所をポイントしてみたまえ」
リーナスが尻尾を指し示すとそこに赤い点が表示される。
「おぉ!!」
喜びで尻尾が動き、つられて赤い点がそこらを飛び回る。
「どうだ、熱線を放つときにそこから撃つというのは?」
俺は今思いついたかのように提案した。
「ふむ。良かろう! 恰好良いではないか!!」
頷いて同意する。
「熱線モードと冷気モードの切り替えをホロリンクで行えるから忘れないようにな」
「モード切替だと……ッ!! 貴様……」
リーナスの耳がピンと伸びる。
表情豊かで面白いやつだ。
「F14好きだろ? 可変翼みたいなものだよ」
「つまりマルチロックホーミングミサイルを……」
そんなもん撃てるなら俺が使ってる。
「知らん、それは自分でどうにかしろ」
「うおおおおおおおおお!!」
何やら喜んで身悶えして床をごろごろしだす黒い毛玉。
よし、上手いこと騙せた……ではなく、装着できたな。
俺は頭の中で今装着した元素魔術用補助具についてのマニュアルを再確認。
よし、伝え忘れたことは無いな。ま、そんなに操作も難しいものでもない……ホロリンクにワイヤレス接続すれば、後は頭で命じるだけで電源のオンとオフ、加熱モードと冷却モードの切り替えも可能だ。
元素魔術は分子運動を操作するのが基本だが、当然少しでも補助があると負担は大幅に軽減される。
しかし、このプライドの高い自称・最上級魔術師は道具に頼るのを嫌う。だが「恰好良いガジェット」という嘘には滅法弱い。
「よし、エレベーターに乗るぞ」
非常用階段でも良いが……ここは堂々と行くべきだろう。
……。
いや、ばれていて泳がされている可能性もある……基本的に慎重な俺は非常用階段を使うことにした。
「やはり階段にしよう」
尻尾を振り回すのを止めたリーナスが聞いてきた。
「何故だ?」
ここで全部説明している暇は無いし……偽装がばれていて泳がされている可能性があるから慎重を期して階段で――とか立ち聞きされた瞬間俺の計画は水の泡になる。
誤魔化そう。
「リーナス、健康のために階段を使うべきだよ。エレベーターなんかに頼るのは駄目だ。体を甘やかすな!!」
「そうだな、ではそうしよう。怠惰な貴様にしては感心であるな」
リーナスは頷くと、とことこと階段の扉へ向かう。機嫌が良いときは素直だな。良いことだ。
非常階段はしばらく下りると踊り場。そしてまた階段。というありがちな構造。
監視カメラが光っている。あからさまに顔を映さないようにしつつ、かといって気にしていない体裁を取りつつ階段を下りていく。
……。
数フロア分は降りたな?
地下一階は一階から何メートル下にあるんだ?
地下一階にたどり着く。
まだ下の階があるようだが……とりあえず地下一階を探索してみよう。
目の前の扉を開く。眼前に広がった光景は、地上とは異なっていた。
扉は俺が通り抜けられるくらいの幅を残す。そして拠点強襲用キットから取り出した扉の固定具で固定。開きっぱなしにしておく。
壁面は剥き出しのコンクリートと配管に変わっている。
すぐ左手にエレベーターの扉が見える。
まぁ地上でも非常階段と隣り合っていたから当然か。
正面は壁。
右手はまっすぐ幅広い通路だ。
五メートルほど幅をもつ中央通路の両脇には左手に扉が一つ、右手に扉が三つ、突き当りにも扉があった。
通路の長さは二十メートルほど。中央通路には一機の自走式警備ドローンが鎮座している。
そいつがこちらに移動してきた。
全高一メートル。四輪駆動、円筒形の胴体、頭部らしき場所にはサブマシンガン搭載――アーセナル社製武装巡回型ドローン『リサーチャー』だ。
俺はこいつのカタログスペックを思い出す。
このドローンは競合製品と比べてセンサーモジュールが優秀だったはず……確かキャッチコピーは『偽装IDごときに騙されるドローンにはこりごり? ならソーシャルハッキングもされない、高水準の顔識別も可能。リサーチャーにお任せあれ!!』だったな。
ん?
不味い!
俺が反射的に|アンダーテイカー・カスタム《雪風》を抜いたのとほぼ同時。
警告を目の前のリサーチャーが発する。
「斎藤浩一を確認。今すぐ排除します」
サブマシンガンがこちらに旋回しきる前に――俺は右手で抜いた雪風で十ミリ徹甲弾を四連射。リサーチャーが動きを止める。
左手は単分子ナイフを逆手に掴み居合斬り――サブマシンガンを切断。
完全に無力化。
「くそっ、双子で多少似ているとしても、だ。俺の方が圧倒的にイケメン! どこをどう見たらあいつと間違える? リサーチャーのセンサーは明らかに不良品だろう! クレームを入れてやる!!」
「慎重すぎましたね。浩一は既に『最優先排除対象』としてこの施設に登録されているようです」
雪風の冷静な分析。
理由がわかったところでもう完全に手遅れだ。
「早くもばれてしまったではないか。……というか誠二、貴様の兄は何をしでかしたのだ。存在が迷惑千万であるな」
リーナスが呆れたように尻尾を動かすと、壁面に赤いレーザーが不規則に踊る。
俺は即座に頭上の監視カメラを撃ち抜き、非常階段の方に引っ込んで遮蔽を確保した。
落ち着いて思考を巡らせる。そういえば通話の切り際に浩一が何か言いかけていたな……まさかこのことを?
ふっ、まさかな。まさかだよそのまさか。
忘れよう――あいつが何も言わずに通話を切った。良いね?
俺は記憶の改竄を完了する。人間たるもの、自分のミスを認めることも大切だが、ミスをなかったことにするのも場合によっては大切だ。
同時に奥の扉が激しく開き、増援のリサーチャーが四台出てきた。
更に、防弾ベストで身を固めアサルトライフルを構えた戦闘員たちが、青いバイザーを光らせて姿を現した。




