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第二話 探偵はスタバにいる

(斎藤誠二)

 俺はその声にゆっくりと振り向いた。

 俺としたことが……馬鹿猫(リーナス)に気を取られていて全く気付かなかった。


 俺の三メートルほど先に元はワンピースだったのだろう、薄汚れて元の色の判別もつかなくなったボロキレをまとったやせこけた女が立っている。


 身長は百六十センチくらいか。年齢は分からん。腰までの長さの黒髪はぼさぼさで手入れされた形跡もない。これまたボロボロのサンダルを履いている。黒髪の間から覗く焦点の定まっていない目は、ギラギラと真夏の太陽のような飢えに輝いていた。


「私の……ぬいぐるみ……」

 彼女がそうかすれた声でつぶやく。


 そしてふらふらと一歩、二歩、と踏み出した。

 彼我の距離は二メートルってところか……これは危険だ。


「誠二、麻薬過剰摂取暴走者(ジャンクヘッド)です」

 雪風が警告してくる。


 ちらりとリーナスを見る。ふざけたことに、すっと物陰に退避している。そのうえ我関せずといった表情で手をぺろぺろして毛繕いをしていた。なんて猫だ……


「分かっている。俺に任せとけ」

 小声で雪風に答え、俺は彼女に話しかけた。


「まさかこいつのことかな?」

 ぬいぐるみを持ち上げる。


「その年で熊のぬいぐるみを抱っこしてないと寝られないのかな? これは俺の友達へのプレゼントでね。多分違うぬいぐるみを君は探しているんじゃないか? どうだろう、まず銭湯にでも行ってさっぱりして、病院に行って麻薬中毒治療をしてみるというのは? 何なら俺も付き添うし、そこなら無料で鎮静用ドラッグも……」


 と言いながらダイナマイトクラスのウインクを投げかける。

 大抵の女性にこれをするとその場で俺に抱き着いてキスをしようとするから封印している必殺技だ。

 だがこの緊急事態だ、使っても誰も文句は言うまい。


 三ヶ月くらいは風呂に入ってないであろう彼女に抱き着かれて……キスをせがまれるリスクは大変に危険だが、そこはそれ。


 探偵たるもの、時にはリスクを負わなくてはいけないときもある。俺は彼女の熱烈なハグに備えた。


 ***


麻薬過剰摂取暴走者(ジャンクヘッド)

「あああああああ……あああああああああああああ~あああああああああああ!」


 駄目、駄目、駄目、頭が割れそうで、爆発して、吹き飛んで、やかんを金属バットで殴り続けてるみたいで、だから目の前の赤いコートを着てわけのわからないことをいっている男を、殴って、殴って、殴って、蹂躙して、首を絞めて、頭を地面に叩きつけて、頭を割って、内臓を引きずり出して、ドラッグを、ぬいぐるみを、人生を取り戻さないと、何もかもがダメになってしまう、だから気持ち悪いウインクをしてきた男を殺そうと走り出して、思いっきり右手を振りかぶった。


 ***


(雪風)

 雪風は演算していたとおりの結末に、人工知能生命体(AI)が本来は感じないはずの虚無を感じた。


 麻薬過剰摂取暴走者(ジャンクヘッド)の行動予測は雪風にも困難。

 

 推論:誠二の発言は明確に彼女を刺激。

 全くの逆効果。


 最適解:恐らくはぬいぐるみを地面に放置してからの逃走。


 しかし雪風の高度な推論能力をもってしても確実とは言い切れない。


 測定:麻薬過剰摂取暴走者(ジャンクヘッド)の行動速度。


 0.08秒。


 考察:ドラッグによる神経伝達速度の向上。脳の情報処理速度の低下。

 思考:人間の反応速度の限界は一般的に約0.1秒。

 計算完了:通常の人間ならば反応不可能。死亡。


 ***


(斎藤誠二)

 彼女が吠え、拳を振るう。


 俺は高速圧縮思考アクセル・コンセントレーションを起動。コンマ秒の世界に潜る。


 正直な話……俺は軽いショックを受けていた。

 まさかダイナマイトクラスのウインクが不発だと?

 そこまで麻薬にやられていたとは――ここは核弾頭クラス、せめてTNT爆弾十トンクラスのウインクを……反省は後にする。今は生存を優先するべきだ。


 ドラッグで脳のリミッターの飛んだ――麻薬過剰摂取暴走者ジャンクヘッドの一撃。いかに俺が筋肉と骨密度を強化していてもまともに食らえば月まで吹き飛ばされる。そして彼女の腕も無事では済むまい。


 理想的な結末はお互いに無傷。彼女はこのまま放っておくと自壊する運命だが、俺まで巻き込まれたくはない。


 今現在の彼女の速さは『大破壊前』のトップアスリートクラス。しかし脳の論理思考速度を上げ、反射神経を入れ替え、筋肉を強化している俺は彼女の動きを余裕で超える。


 戦術を反射的に構築、実行。

 俺の脳が発した電流はエレヴォルヴ社製の強化反射神経――キャッチコピーは『光速の動きをあなたに』――を伝って準光速で伝わる。

 

 左足をやや前。

 重心は前に四、後ろに六。左足で身体を後ろに押して一歩バックステップ。

 大ぶりのパンチから彼女は格闘技に関しては素人。受け身は取れないと判断。


 刹那、彼女の腕が空間を削り取るかのような物凄い音とともに左から右へと俺の視界を横切った。


 次は囮だ。手に持ったぬいぐるみを中空に投げ上げる。彼女の視線がぬいぐるみを追い、こちらから一瞬視線を逸らした。


 俺はぬいぐるみを投げ上げるのとほぼ同時に左斜め前へと左足を進ませる。同時に左手は右袖口のタグチップを抜く。


 俺と彼女は交差しすれ違う。


 空いた右手を彼女の首にひっかけ、左手は彼女の右肩を掴むついでにタグチップを貼り付け押さえつける。

 そのまま彼女の重心を右足側にかけさせ――右足で彼女の足を背後から払う。


 大外刈りだ。


 殺すなら頭部を地面に叩きつけるところだが、行動阻害が目的なので背中を地面に叩きつける。彼女の肺から空気が絞りだされた。


 いかにジャンクヘッドが痛みに鈍感になっていようと、呼吸が出来なくては身体は動かない。


 髪で隠れていた耳が見える。とがっている。エルフだ。

 だから俺のウインクが通じなかったのか?

 これだからエルフは……いや、今はどうでも良いことだ。


「リーナス!!」

 落ちてきたぬいぐるみを掴む。俺は全力で走り出した。


 ***


麻薬過剰摂取暴走者ジャンクヘッド

 私のぬいぐるみが空に投げられたと思ったらなぜか突然視界が反転して、背中が地面に叩きつけられて、空気が肺から水でべちゃべちゃの雑巾が絞られて絞られて絞られて一滴も水がなくなるみたいに強制的に搾り取られて、何も感じないけど勝手に咳が出てそれが鬱陶しくて、全部あの男のせいで、私のぬいぐるみを取り返さないとそうしないとすぐに立ち上がってあいつを殺さないと殺さないと殺さないと、地面に手を突いて起き上がろうとしたら突然また滑ってこけて、歯と歯がぶつかって、また立ち上がろうとしたらまた滑って、いらいらしてどうして何もかもが私の思い通りにならないのああああああああああああっ!


 ***


(斎藤誠二)

 背後で彼女の絶叫が木霊する。


「おいおい、怖すぎるだろ。泣いちゃうよ俺」

「誠二、泣くのは構いませんが、漏らすのは勘弁してくださいよ」


 疾走する俺に雪風がふざけたことを言い出した。何だ漏らすって。失礼すぎる。


「大丈夫だ、紳士のエチケットとしておむつはちゃんと着用済みだ」

「それなら私が汚染される可能性は限りなく低いですね。好きにして下さい」


 着用してるわけないだろうが!

 と、俺は言い返そうと口を開いた。


 すると、隣に猫ならではの敏捷さでリーナスが追いついてきた。


「貴様……いちいち我を煩わせるな」

 苛立たしげに文句を言ってくるリーナス。

「いやいや、信じてたよリーナス!」

 知らんふりしてたよな? と言ってやりたいがここは我慢だ。


「良いか? あんなあやふやな指示、いや、指示ですらない。もし我でなければ貴様の愚鈍な意図を読み取ることなど……」


 長い文句を止めるために俺は切り札(スペードのエース)を切ることにした。

「……。プレミアム猫缶」

「許そう。二缶で勘弁してやる。ただしドラゴンクロウ社製品の『ドラゴンも食べる猫缶』を所望する」


 ちっ、一番高いブランドじゃねーか!

 しかも二缶だと? 正直俺の一食より高い。

 ふざけんな。だが今は値切っている場合ではない。念のために確認しておくべきことがある。


「あの氷の床、何秒もつ?」

「秒だと? 我を侮るなよ、定命の者(モータル)よ。あの絶対零度の呪縛は、永遠にも似た十分間、あの愚者を地獄の最終層であるコキュートスに繋ぎ止めるであろう……」


 リーナスがそういった直後だった。


「いえ、今現在の気温とあの氷の厚さですと八分三十秒から前後三十秒くらいが目安でしょう。ただし彼女の体温と体勢しだいで更に前後する可能性があります」


 雪風が冷静な分析を語る。


「……。逃走するには十分な時間だろう?」

 いささか声のトーンが落ちるリーナス。心なしか尻尾も元気なくしおれている。


 仕方がない、リーナスを元気づける為に線香花火クラスに抑えたウインクをしてやろう。


「貴様、気持ちの悪い顔を我に向けるでない」

 猫にはどうやら解らんらしい。



 ***



 午後十一時四十分

 新西京三区ダウンタウン仁王通りスターバックス(雪風)


 日付も変わりそうなこの時間帯。


 避難してきたスターバックスの店内に雪風達以外に客の姿は無かった。


「つまり差出人不明のメッセージの発信元に行ったらゴミ捨て場で、その穴だらけのぬいぐるみがメッセージを送ってきた可能性が高い、と?」


 誠二の足元に置かれた平皿。

 そこからジンジャーエールを尻尾を振りながらリーナスは飲む。


 同時に、リーナスの首輪から声が発せられる。


「そうです。この穴だらけの――銃撃による弾痕の確率九十六%――ぬいぐるみには、監視カメラ、緊急時メール通信機能が搭載されており、ある程度の自律性を有しています。送られてきたアドレスと、このぬいぐるみのメールアカウントも一致しました」

 雪風はリーナスに返事をした。


「あのゴミ捨て場付近にあったマジカル・ルルの偶像の可能性はないのか?」

「マジカル・ルルのフィギュアには緊急時メール通信機能、自律性はありません。」


 あまりにも非論理的なことをリーナスは言い出した。雪風はなぜありえないのか論拠を明確にして的確な説明を行う。


「今からでも取りに戻らぬか?」

 リーナスはただフィギュアが欲しいだけである。雪風はそう結論する。


「誠二、リーナスの提案をどう思いますか?」

 取りに戻るか戻らないかは誠二次第だろう。


 雪風はスターバックスの通りに面したガラスでウインクの練習をしながら通話をしている誠二に意志を確認。


「そうです、典型的な麻薬過剰摂取暴走者ジャンクヘッドですが恐らくもう暴走(オーバーロード)は収まっていると思います。タグコードはAL012290。これで追跡してください。お願いします」


 誠二が通話を終え、返事をした。


ドク・ソルダート(武装緊急医療)・サービスめ……また値上げしやがって……フィギュアだと? これ以上ガラクタを増やしてどうするつもりだ」


「なっ……貴様、マジカル・ルルの偶像をガラクタだと? あの冒涜的な絶対領域が理解できぬのか? 彼女達が世界を守ってくれたおかげで貴様は今ここでのうのうとストロベリーサンデーを食べていられるのだぞ!」


 雪風はリーナスは現実と空想の区別ができていないと判断。

 彼らの不毛な議論を聞いているのは時間の無駄だ。


 雪風は誠二に要請を行った。

「誠二、ぬいぐるみのメモリーチップを私に接続してください」

 リーナスと言い合いをしながらも誠二がチップを雪風に接続する。


 接続ジャック・イン


 防護プログラムIC(アイス)ー未検知。

 パスワードー四桁の数字もしくはローマ字の組み合わせ。

 雪風の演算速度の場合総当たり方式で十分の一秒。

 オーナー権限の偽装と比較し、総当たりの方が効率的と判断。

 突破。

 二秒で全データ閲覧終了。

 

 オーナー:宮下ケイ

 ぬいぐるみ名:チャーリー

 誠二とリーナスに結果の転送を開始。



(斎藤誠二)

 俺に転送されてきたのは宮下ケイというエルフの少女と、そのぬいぐるみチャーリーの思い出だった。


 俺はメッセージの謎を解くため、記録された映像を再生することにした。


【再生開始】

 小さなエルフの少女──宮下ケイ、綺麗な黒髪と吸い込まれそうな黒い瞳をした五歳くらいの姿。手にはくまのぬいぐるみ、チャーリー。幼稚園に一緒に行くと聞かないで両親を困らせる。

七歳、八歳、九歳……十歳


 廃工場跡の奥、錆びたコンテナの山の間に作った「秘密基地」。

「チャーリー、今日からここは私たちの王国だよ!」


 少女の声が響く。

 カメラはチャーリーの目線。

 ケイが笑うたびに、映像がぴょんぴょん跳ねる。


「ねえチャーリー、大きくなったら一緒にここから出ようね。パパがママはもう帰ってこないって言ってたけど……私たちはずっと一緒だよ」少女はチャーリーをぎゅっと抱きしめる。


 秘密基地は少しずつ広くなっていく。

 ケイは毎日のようにここに来て、チャーリーに話しかける。


 学校でいじめられたこと。パパが遅くまで帰ってこないこと。


 そして最新の記録。

 日付は今日。

 午前十時。

 廃工場跡。


 二人の男が現れる。


 一人目は黒髪、クルーカット、人間。黒いジャケットを着ており「アルゴス・セキュリティ」のワッペン。

 新西京の警備を担う企業の一員だ。


 もう一人は派手な緑色のジャケットに金歯。がっしりした体躯、明るい緑色の肌に少しとがった耳、鋭い犬歯、やや豚っ鼻、黒い長髪、オークの男だ。典型的なストリートギャングだ。恐らくボスなのだろう。


 黒いジャケットの男が大きなスポーツバッグを地面に置く。中身は白いパケット、数百個。

「今回はこれだけだ。いつもの通りだ」

 黒いジャケットの男が笑う。


 システムメッセージ<民間警察企業アルゴス・セキュリティに緊急通報を行いました>


 ギャングのボスらしきオークが頷く。

「いつもありがとうございます」


 オークは、ギャングのボスらしからぬ丁寧な口調でお礼を言う。


「で、先月のぶんは?」

 黒いジャケットの男が代金を請求する。

「それがまだ回収が終わっていないんです」


「おいふざけんなよ! 送金履歴を遺さないためにわざわざ月一で直接金の受け渡しをしているんだろうが!! 今渡さなくていつ渡すんだ?」


 西暦二千百年、今時現金の方が珍しい。だが、足が付きにくいという点で後ろめたい犯罪者にはまだまだ人気だ。


「すみません……今夜には必ず。アリアドネの糸をまきとるように集めてきますよ」

「ちっ、まぁ良い。お前等の根城にとりにいってやる。そうだな、午前二時過ぎとかどうだ?」

「解りました。ご迷惑をおかけします」

「頼むぜ? 俺だって食っていかなきゃあいけないんだからよ」


 二人が立ち去ろうとした瞬間。

 物陰から、小さな気配。

 ケイが、チャーリーを抱いたまま、息を殺して見ていた。


「……ママが使ってたの、これと同じ……」

 ケイの小さな呟き。

 チャーリーのマイクが拾う。

 

 黒いジャケットの男が急に振り向く。


「……誰だ?」


 ケイが走り出す。チャーリーを胸に抱きしめて。錆びた鉄骨の間を、必死に。


 遠くから響くパトカーのサイレンの音。

 ギャングの男の声が、走って逃げるケイに投げられる。


「悪く思わないでくれ。これはシステムの問題なんだ。資本主義という巨大な化け物が僕に君を『撃て』と命じている。僕はただの末端の引き金に過ぎないんだ。魔弾バレットアーツ――ザミエルの魔弾よ!」


 ケイが廊下の曲がり角に飛び込み、射線を切った直後。


 銃声。


 着弾。


 少女の悲鳴。


 チャーリーの映像が激しく揺れる。


 ケイが倒れる。


 血が広がる。


 最後に、チャーリーのレンズに映るのは、泣きながら這うケイの手。


「チャーリー……逃げて……」


 チャーリーは狭い通気口に潜り込んでいく。

 パトカーのサイレンの音が廃工場の入口で途切れる。パトカーの扉の開く音。


「とどめをさせ」

 黒ジャケットの男が言う。


「放っておいても死ぬでしょう。あのとめどなく流れ出る血を見て下さい。この腐った社会で失われ続ける倫理の涙のようだ。むしろ銃声をこれ以上響かせると僕たちの位置がかけつけてきたアルゴス・セキュリティの警官に把握されます。ナイフでリンゴの皮をむくように彼女の喉を切り裂いても良いですが……返り血の問題もありますし、今なら何事もなかったかのように、我々は人ごみに紛れて立ち去れますよ」


「ぬいぐるみは? 画像が録画されている可能性がある。どこに行った?」


「運命の女神は僕たちに味方しています。何発か命中しているはずです。すぐに停止しますよ、あんなぼろいぬいぐるみ」


【再生終了】


 ***


(斎藤誠二)

 俺たちは、スターバックスのテーブルで、ただ黙って画面を見つめていた。


 リーナスの尻尾が、ぴくりとも動かない。


「許せぬ……奴等のようなクズこそが深淵に微睡む邪神の贄にふさわしい。今すぐに我が――」


 リーナスが怒りの声を上げる。


 気持ちは……俺も一緒だ。


 俺はそれに答えず、ゴミ捨て場から拾ってきたぬいぐるみに目をやった。


 そうか……死にかけている自分のご主人様を助けたくて、壊れかけているのにメッセージを送ってきたのか。安心しろ。お前の依頼――受けてやるよ。


「誠二! 聞いておるのか?」

 珍しいことに、リーナスが本気でいらついた口調を投げつけてきた。


「落ち着けリーナス。奴らには……自分のしでかした糞みたいな行いの報いを、存分に味合わせてやるつもりだ」


「二人には論理的思考が必要です。相手は恐らく銃聖ガンマスターと推測されます。敵勢力の規模を比較的大規模なストリートギャングと想定し、正面から戦闘を行った場合、現時点で我々の勝率は六十%を切ります。命をかけるに値する確率ではありません」


 雪風はAIらしい正論を俺達に投げつけてくる。

 なら俺は更なる正論を返すだけだ。


「だからなんだ? 俺は私立探偵ハードボイルド・ディティクティブだぞ」


 俺は立ち上がった。

 奴らを皆殺しにして――未回収の売上金を横からかっさらう。


 宮下ケイのあどけない笑顔を思い出す。

 毎度毎度頼んでもないのに垂れ流され続ける誰かの不幸(ニュース)

 手の届かないところで破滅していく子供達。

 そろそろ良いニュースを――奇跡が起きたっていいはずだ。


 今回ばかりは救えるかもしれない。いや……必ず救って見せる。


 だからそれまで――生きていてくれ。


 しかし、現状ではマーカス達には勝てない。

 明らかにそこらの弱小ストリートギャングとは格が違う。情報がもっと必要だ。


 次の目的地に向かう途中、俺は最後のシーンを再生しなおした。


 何度も、何度も、何度も――あの映像――何かが引っかかる。

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