第5話 それはミルフィーユのようにもろく(前編)
女子寮別館・地下。
実験室の空気は重かった。
「……会いたいにゃ」
レヴィーが机に突っ伏す。
昨日まで夜の国へ繋がっていたゲートは、今ではまったく違う景色を映していた。
乾いた大地。
赤茶けた岩山。
見たこともない荒野。
「もうノクトの世界には行けないのかな……」
キャロルが小さく呟く。
ピコは黙ったまま、ゲート周辺へ工具を並べていた。
「ピコにゃん?」
すると。
ピコがくるりと振り返る。
「作る」
「へ?」
「同じ場所に行けるワープゲート」
レヴィーたちが固まる。
ピコは真剣な顔でゲートを見つめた。
「また会いたい」
静かな声だった。
レヴィーがぱっと顔を上げる。
キャロルも少し目を丸くした。
そして。
「……うん!」
レヴィーがにっと笑う。
「絶対また会おう!」
「そのためにも研究ね」
キャロルも頷いた。
ピコは満足そうにこくりとする。
「でも今は」
「うん?」
「夏休み満喫する」
「切り替え早っ」
3人は顔を見合わせ、思わず笑った。
「うおおおおーっ!!」
レヴィーの声が荒野へ響く。
3人は新しい世界へ降り立っていた。
乾いた風。
広い空。
地平線まで続く荒野。
まるで西部劇みたいな世界だった。
「前の世界と全然違うにゃ!」
レヴィーが目を輝かせる。
街には馬車が走り、木造の建物が並んでいる。
酒場らしき店からは陽気な音楽。
帽子をかぶった人々が行き交っていた。
「獣人はいるけど、マギーアより人間っぽいね」
キャロルが周囲を見回す。
耳や尻尾を持つ人もいる。
けれど、ケットシーほどケモノ寄りではない。
「世界ごとの差かな」
ピコがぽつりと言った。
その時。
レヴィーが屋台を発見する。
「見て! でっかい肉!!」
「また食べ物!?」
「旅は食文化にゃ!」
レヴィーが屋台へ突撃する。
キャロルはため息をつきながら追いかけた。
一方その頃。
路地裏。
数人の男たちが、3人をじっと見つめていた。
「へへ……見ろよ」
「珍しい耳だな」
「高く売れそうだ」
蛇の意匠が入った帽子。
下卑た笑い。
そして。
中心にいた細身の男が、ゆっくり舌なめずりする。
鋭い瞳。
蛇みたいな目。
「モルドレット様、どうします?」
部下の男が小声で尋ねる。
蛇みたいな目の男――モルドレットは、細く笑った。
「……捕まえろ」
低い声が響いた。
「このジュースうまっ!」
レヴィーがごくごく飲む。
「飲みすぎるとお腹壊すわよ」
「キャロっち保護者みたい」
「誰のせいよ」
すると。
ピコがふと後ろを振り向いた。
「……つけられてる」
「えっ」
キャロルの顔つきが変わる。
いつの間にか、数人の男たちが距離を詰めていた。
「へへへ」
「お嬢ちゃんたち、迷子かぁ?」
レヴィーが警戒して耳を立てる。
「……誰?」
「怖がんなって」
じりじり近づいてくる男たち。
逃げ道を塞ぐように広がっていく。
キャロルが小声で言った。
「レヴィー、走れる?」
「いつでも」
ピコは鞄へ手を入れる。
その瞬間。
――ヒュンッ!!
乾いた音。
男たちの足元へ弾丸が撃ち込まれた。
「!?」
土煙が舞う。
男たちが一斉に飛び退いた。
一瞬だけ、遠くの屋根の上に黒い影。
銀色の瞳が光る。
「……今の?」
レヴィーが目を細める。
しかし。
「こらぁぁぁ!!」
さらに大きな声が響いた。
レヴィーたちが反射的に振り向く。
馬に乗った女性が、猛スピードで突っ込んできていた。
――バァン!!
銃声。
男たちの帽子が吹き飛ぶ。
「うわぁぁっ!?」
「保安官だ!!」
男たちは慌てて逃げ出した。
その最中。
レヴィーがもう一度、さっきの屋根を見る。
「……あれ?」
もう、そこに黒い影はいなかった。
女性は軽やかに馬から降りた。
すらりとした長身。
しなやかな身体。
チーターっぽい耳と斑点模様。
腰には二丁拳銃。
そして抜群のスタイル。
「アンタたち、大丈夫かい?」
レヴィーたちはぽかんとしていた。
「……おっきい」
レヴィーが思わず呟く。
「どこ見てるのよ!」
キャロルが頭を叩く。
女性は豪快に笑った。
「ははっ! 元気な嬢ちゃんたちだねぇ!」
帽子をくいっと上げる。
「アタシはワイト。この街の保安官さ」
レヴィーたち3人は顔を見合わせる。
なんだかまた、面白いことが始まりそうだった。




