第4話 午後ティーは淑女の嗜み(後編)
夜の国。
幻想的な街並みの中で、レヴィーが勢いよく立ち上がった。
「よーし!」
びしっと指を突きつける。
「今からマギーア観光ツアー開催しまーす!!」
「おおー?」
ノクトがぱちぱちと瞬きをした。
キャロルは少し苦笑する。
「ほんと勢いだけはあるんだから……」
ピコはすでにゲートの安全確認をしていた。
「魔力流安定。たぶん平気」
「たぶん!?」
だがレヴィーはもうノクトの手を引っ張っている。
「いくよいくよー!」
「お、おおっ」
ノクトは少し慌てながらも、楽しそうに笑った。
4人はゲートをくぐる。
「わぁ……!」
マギーアへ到着した瞬間、ノクトが目を輝かせた。
夕焼け空。
赤く染まる雲。
ほうきで飛び交う学生たち。
夜の国とはまるで違う景色だった。
「空が赤い……!」
ノクトは感動したように空を見上げる。
「これ夕方だよ!」
レヴィーが得意げに言う。
「もう少ししたら夜になるの」
「空の色が変わるの、すごい……」
ノクトはぽかんとしていた。
ピコがフードマントを調整する。
「紫外線数値、問題なし」
「便利すぎないそれ?」
キャロルが呆れる。
その時だった。
「――あら?」
聞き覚えのある声。
振り向くと、カトリーヌたち3人組が立っていた。
「レヴィー! また騒ぎを起こしていますの!?」
「カトリーヌ!」
ミーミアがノクトを見て目を丸くする。
「知らない子です!」
「見ればわかるわよ」
オーロラがあきれた様子でツッコんだ。
カトリーヌはノクトをじろじろ見る。
「その服装……見かけませんわね」
「ノクトだよ!」
レヴィーがノクトの背中を押した。
「夜の国から来たんだ!」
「夜の国……?」
カトリーヌが首を傾げる。
「聞いたことありませんわね」
ノクトは少し緊張しながらも、ぺこりと頭を下げた。
「ノクトじゃ。よろしく頼む」
するとミーミアが勢いよく近づいた。
「すっごい綺麗な髪です!!」
「わっ」
「あと目が赤いです!!」
「ミーミア距離近い!」
オーロラが引き剥がす。
その様子に、ノクトはくすっと笑った。
「賑やかじゃの」
「でしょー!」
レヴィーがドヤ顔する。
「マギーアは毎日にゃんか騒がしいの!」
「おぬしが原因では?」
「にゃっ」
キャロルが即座に頷いた。
「間違ってない」
「ひどっ!?」
その後。
ノクトはすっかりマギーア観光を楽しんでいた。
「見て見て!」
レヴィーが屋台を指差す。
「ここのミルクアイス超うまいにゃ!」
「冷たい……!」
ノクトがびっくりする。
すぐ近くのテラスで、カトリーヌは優雅に紅茶を飲んでいた。
「ふふん。午後ティーは淑女の嗜みですわ」
「お嬢様かっこいー!」
ミーミアが拍手する。
「さすがですお嬢様」
オーロラも同調しながらスコーンをはむはむしている。
ノクトはそんなやり取りを見ながら、楽しそうに笑っていた。
「良い世界じゃの」
その言葉に、レヴィーたちは少し嬉しくなる。
カトリーヌたちとも別れ、空が完全に夜へ変わり始めた頃。
「そろそろ帰らねば」
ノクトが小さく呟いた。
「父上たちが心配する」
「そっか……」
レヴィーが少ししょんぼりする。
するとノクトが微笑んだ。
「なら、おぬしたちも来るか?」
「えっ」
「晩飯、一緒に食べようぞ」
3人の目が輝いた。
「行くーーーっ!!」
夜の国。
ノクトの家は、月明かりの綺麗な丘の上にあった。
「ただいま戻ったぞー」
ノクトが扉を開ける。
家の奥から、いい香りと包丁の音が聞こえてきた。
「あら、ノクト? 今日は早かったのね」
キッチンから顔を出したのは、優しそうな女性だった。
食卓にはまだ食器だけが並べられている。
どうやら今から夕食を作るところらしい。
「母上!」
ノクトが嬉しそうに駆け寄った。
「今日は友達が来ておるのじゃ!」
「まあ!」
母親がぱちぱちと瞬きをする。
その後ろから、父親も静かに姿を見せた。
穏やかな表情で、3人へ軽く会釈する。
「はじめまして!」
レヴィーたちも慌てて頭を下げた。
ノクトは少し誇らしげに胸を張る。
「レヴィーとキャロルとピコじゃ!」
母親はにっこり笑った。
「あらあら、せっかくだもの。今日はいっぱい作らなきゃ」
腕まくり。
鍋に火が入る。
「父上、皿追加じゃ!」
「はいはい」
父親もどこか嬉しそうに食器を運び始めた。
賑やかな声が、静かな家の中へ広がっていく。
「いただきまーす!」
レヴィーが勢いよく食べ始める。
「おいしいにゃー!!」
「ふふ、よかった」
ノクトの母が笑う。
賑やかな食卓。
家族の笑い声。
その光景を見ながら、キャロルは少しだけ目を細めた。
「……なんかいいね、こういうの」
「うむ?」
「いや、その……」
キャロルは少し照れくさそうに視線を逸らす。
レヴィーも料理を頬張りながら笑った。
「レヴィーんちも、こんな感じで毎日うるさいにゃ」
「兄弟多いって言ってたもんね」
「5人!」
「多っ」
ピコは静かにスープを飲んでいた。
その表情はいつも通りぼんやりしているけど、どこか少しだけ柔らかかった。
楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。
「また来るにゃー!」
帰り際、レヴィーが大きく手を振った。
ノクトも嬉しそうに笑う。
「うむ! またの!」
「次は昼をちゃんと見せるから!」
キャロルが言う。
ピコも小さく頷いた。
「改良版紫外線対策セット作っとく」
「頼もしいの」
ゲートが静かに揺れる。
別れ際。
ノクトは少し寂しそうに、でも嬉しそうに笑った。
「また会おうの」
「うん!」
3人はゲートをくぐった。
翌朝。
女子寮別館・地下。
「みんなーーーっ!!」
レヴィーの叫び声が響く。
キャロルとピコが飛び込む。
「どうしたの!?」
レヴィーは震える指でゲートを指差した。
「景色変わってるにゃーーーっ!!!」
そこに映っていたのは――。
夜の国ではない、まったく別の世界だった。




