第3話 みんなスコーンはもった?! いくよ~!!(前編)
女子寮別館・地下。
ピコの実験室には、大量の荷物が並んでいた。
「携帯食料よし!」
キャロルがメモを確認する。
「魔力バッテリーよし」
ピコが透明な筒を鞄へしまった。
3人は顔を見合わせる。
「「「しゅっぱーつ!!」」」
勢いよくゲートへ飛び込もうとして――。
「あっ」
レヴィーが止まる。
「スコーン忘れてたにゃ!!」
「今だった!?」
キャロルがツッコむ。
レヴィーは机の上の袋をひったくるように掴んだ。
「スコーンよし!!」
「遠足気分か」
ピコがぼそっと呟く。
そして改めて。
「「「いってきまーす!!」」」
3人はゲートへ飛び込んだ。
ふわり。
身体が浮く感覚。
次の瞬間――。
「にゃあああああっ!!」
レヴィーが床を転がった。
「いたたた……」
キャロルもよろめきながら立ち上がる。
ピコはなぜか無事だった。
「着地成功」
「にゃんでピコにゃんだけ上手いの!?」
3人は周囲を見回す。
そして――息を呑んだ。
「……きれいにゃ」
レヴィーが思わず呟く。
そこは、夜の世界だった。
頭上には満天の星空。
青白い月がいくつも浮かび、街中には宝石みたいな光が溢れている。
道端には淡く発光する花。
空にはクラゲのような生き物が漂い、遠くでは列車みたいな光が空を走っていた。
「すっごーーーい!!」
レヴィーが駆け出す。
「待って! いきなり走らない!」
「だって見てよキャロっち! 空飛ぶ魚いるにゃ!」
「ほんとだ……」
キャロルも少し目を輝かせた。
すると。
「おぬしたち、旅人かの?」
後ろから声がした。
振り向くと、一人の少女が立っていた。
透き通るような白い肌。
長い銀髪。
赤い瞳。
黒を基調とした服を纏った、どこか神秘的な雰囲気の少女だった。
「わっ、第一異世界人遭遇っ!!」
レヴィーが目を丸くする。
少女は不思議そうに3人を見る。
「珍しい耳じゃの」
「あ、レヴィーたちケットシーだから!」
「ケットシー……?」
少女は小さく首を傾げた。
「聞いたことのない種族じゃ」
「えっ」
今度は3人が驚く番だった。
「ここって……どこなの?」
キャロルが尋ねる。
少女はにこりと笑う。
「夜の国じゃよ」
「わらわはノクト」
少女は軽くスカートを摘まんだ。
「レヴィー!」
「あたしはキャロル」
「ピコ」
ノクトは嬉しそうに笑った。
「よろしくの、レヴィーさん、キャロルさん、ピコさん」
3人はノクトと一緒に夜の街を歩いていた。
石畳の道。
月明かり色のランプ。
賑やかな夜市。
どこを見ても幻想的だった。
「この世界って、ずっと暗いんだね」
レヴィーが空を見上げる。
「暗い?」
ノクトが首を傾げる。
「えっと……もっとこう、空が明るくなる時間ないの?」
「空が……明るく?」
ノクトは不思議そうに瞬きをした。
キャロルが説明を足す。
「マギーアだと、時間によって空の色が変わるの。すっごく明るくなる時間があって」
「明るい空……」
ノクトは少し驚いたように呟く。
「見たことがないの」
「えっ」
レヴィーたちが固まった。
「じゃあ“太陽”も知らない?」
「たいよう?」
本当に初めて聞く言葉みたいだった。
ノクトはきょとんとしている。
「夜の国は、ずっとこの空じゃからの」
「へぇ〜……」
レヴィーは感心したように空を見る。
するとノクトが少し照れくさそうに笑った。
「同じくらいの歳の子、あまりおらぬからの。旅人が来るのは嬉しい」
キャロルが少し表情を和らげる。
「ノクトはここで暮らしてるの?」
「うむ。父上と母上と3人でな」
「そっか!」
レヴィーがにっと笑った。
「じゃあ今度、マギーア来なよ!」
「まぎーあ?」
「レヴィーたちの世界!」
「そこには“たいよう”があるのか?」
「あるある! 朝とか昼とか超明るいにゃ!」
ノクトは目を丸くした。
「空が……明るく……」
その表情は、まるで知らない宝物の話を聞いているみたいだった。
すると。
ピコが鞄をごそごそ漁り始めた。
「……だいじょうぶ」
取り出したのは、黒いレンズ付きのフードマントだった。
「紫外線対策セット」
「いつ作ったの!?」
「さっき」
ノクトがぱちぱちと瞬きをする。
ピコはこくりと頷いた。
「これなら、たぶん平気」
レヴィーが笑う。
「朝とか昼とか、いっぱい見せてあげる!」
キャロルも微笑んだ。
「きっとびっくりするわよ?」
ノクトはしばらくぽかんとしていた。
そして。
ふわりと笑った。
「……楽しみじゃ」




