第2話 イチゴがないならショートケーキに何のせる?
午前授業中。
教室にはクロウリー先生の声が響いていた。
……が。
「……」
そわそわ。
「……」
きょろきょろ。
「……」
にやにや。
「レヴィーさん」
クロウリー先生の低い声が飛ぶ。
「にゃっ!?」
「さっきから落ち着きなさすぎです」
「そんなことないし!」
「黒板一回も見てませんけど?」
「……」
図星だった。
レヴィーの頭の中は、完全に“異世界”でいっぱいだった。
(早く行きたーーーい!!)
「レヴィーさん」
「は、はいっ!」
「今から魔法理論の問題を解いてもらいます」
「う゛にゃっ?!」
ざわつく教室。
キャロルは巻き込まれないよう、そっと視線を逸らした。
「炎属性魔法と風属性魔法を同時接触させた場合に発生する――」
「爆発!!」
「雑ぅっ!!」
クロウリー先生が頭を抱える。
教室のあちこちから笑い声が漏れた。
その時だった。
「ふふん」
高笑いが響く。
「授業中に浮かれるとは、ずいぶん余裕がありませんのね?」
カトリーヌだった。
金色の毛並みをふわりとなびかせ、優雅に振り返る。
左右にはオーロラとミーミア。
「その程度の精神力では、魔導ほうきレースでも二流止まりですわよ?」
「にゃんだとー!?」
レヴィーが勢いよく立ち上がる。
「この前の校内レースも、運だけで勝ったようなものですわ!」
「運じゃないし! 実力だし!」
ミーミアも勢いよく立ち上がった。
「さすがお嬢様! おっしゃるとおりです!」
オーロラも慌てて席を立つ。
「ミーミア座って! カトリーヌ様も煽らないでください!」
「オーロラ! わたくしは事実を言っているだけですわ!」
カトリーヌの言葉に、ふんふんとうなずくミーミア。
「増えてるーーー!!」
クロウリー先生のこめかみに青筋が浮かんだ。
「4人とも座りにゃさぁぁぁぁい!!!」
教室中に怒声が響き渡った。
放課後。
3人は街へ出ていた。
「というわけで!」
キャロルがメモ帳を広げる。
「異世界探検の準備をします」
「おおー!」
レヴィーが拳を上げる。
「たしかに準備は必要」
ピコもちょこんと腕を上げつつ頷いた。
キャロルは真面目な顔になる。
「向こうの世界に魔力がある保証はないの」
「えっ」
「もし魔法が使えなかったら?」
「……あっ」
レヴィーが固まり、ピコもハッとした顔になる。
「つまり、魔法抜きでも使える道具が必要」
「「にゃるほど!」」
3人は決意を新たに、意気揚々とアウトドアショップへ入っていった。
「これ便利そー!」
レヴィーが手に取ったのは、自動点火式ランタン。
ピコが説明書を見る。
「魔石駆動」
「ダメじゃん!」
キャロルが即ツッコミした。
「じゃあこのロープ!」
「魔力伸縮式」
「ダメ!」
「この水筒!」
「自動浄化に魔石使ってる」
「文明が全部魔力頼りーーー!!」
レヴィーが叫ぶ。
店員のカエル族のおじさんが苦笑した。
「お嬢ちゃんたち、登山でも行くのかい?」
「まあそんな感じ!」
「夏山なら北ルートはやめときな。最近盗賊団が出るって噂だ」
「盗賊団?」
キャロルが反応する。
その時だった。
店の外を、黒いローブ姿が横切った。
ローブには蛇の紋章。
ちらりと覗いた鋭い目。
不気味な空気。
先頭を歩く細身の人物が、一瞬だけこちらを見る。
黄色い瞳に、細く裂けた黒の瞳孔。
「……?」
レヴィーが首を傾げた。
だがその人物は、何事もなかったように視線を戻し、そのまま路地裏へ消えていく。
「レヴィ?」
「んー……なんでもない!」
キャロルは少しだけ気にしながらも、再び買い物へ戻った。
夕方。
女子寮別館・地下。
ピコの実験室。
机の上には、大量の道具が並んでいた。
「結果」
ピコが言う。
「ほぼ全部魔力必要」
「意味ないじゃーん!」
レヴィーが机に突っ伏した。
キャロルは腕を組む。
「やっぱり未知の世界へ行くなら、ちゃんと調査しながら進まないと……」
すると。
ピコが机の下をごそごそ漁り始めた。
「……できた」
取り出したのは、手のひらサイズの透明な筒だった。
中では青白い光がゆらゆら揺れている。
「なにそれ?」
「携帯型魔力バッテリー」
「おおーっ!?」
レヴィーの耳がぴんっと立つ。
ピコはちょっとだけドヤ顔した。
「魔力を保存して持ち運べる」
「天才じゃんピコにゃん!」
「えへん」
キャロルも感心したように筒を見る。
「これなら、向こうで魔力が薄くても多少は魔法使えるかも」
レヴィーは再びゲートへ目を向けた。
ゆらゆら揺れる異世界への穴。
その向こうには、まだ見たこともない世界が広がっている。
何があるのか。
どんな景色が待っているのか。
想像するだけで胸が高鳴った。
「絶対、面白い旅になるよ」
キャロルは小さくため息をつく。
「……もう止めても行くんでしょ?」
「もちろん!」
「はぁ……」
でもその顔は、少しだけ楽しそうだった。
ピコも静かに頷く。
「準備、まだ必要」
「よーし! 明日こそ探検だー!」
レヴィーの声が地下室に響く。
怪しく揺れるゲートは、まるで3人を待っているように静かに輝いていた。




