第6話 彼女のぬくもりはホットケーキに似て(後編)
保安署。
木造の扉を開けると、中にはコーヒーみたいな香ばしい匂いが広がっていた。
「へぇ~……」
レヴィーがきょろきょろ辺りを見る。
壁には指名手配書。
棚には大量の書類。
机の上には使い込まれた拳銃。
「ほんとに保安官なんだねぇ」
キャロルが感心したように呟く。
「そりゃそうさ」
ワイトは帽子を脱ぎながら笑った。
「ここら一帯の治安はアタシが守ってるからね」
ピコは机の上の弾丸を見つめている。
「全部使うの?」
「使わないに越したことはないよ」
ワイトは肩をすくめた。
その後。
3人は自分たちのことを少しだけ話した。
別の場所から来たこと。
旅をしていること。
色んな世界を見ていること。
ワイトは驚きながらも、どこか楽しそうに聞いていた。
「へぇ……面白い話だねぇ」
「ワイトのお姐さんも来る?」
レヴィーが身を乗り出す。
ワイトは少しだけ考えた。
窓の外。
荒野の街を見つめる。
「行ってみたい気持ちはある」
少しだけ優しい顔になる。
「でもまぁ、無理だね」
「にゃんで?」
「この街、治安悪いからさ」
ワイトは苦笑した。
「アタシがいなくなったら、悪党どもが好き放題しちまう」
その声は軽い。
けれど、ちゃんと責任を背負ってる声だった。
キャロルが少しだけ目を細める。
「……かっこいい」
「ん?」
「なんでもない」
「よーし!」
ワイトが腕まくりする。
「腹減ってるだろ?」
「減ってるーーー!!」
レヴィーが即答した。
「いっぱい食べるにゃ!」
「元気だねぇ」
ワイトはキッチンへ向かった。
フライパンの音。
焼ける香り。
しばらくして。
「お待たせ」
テーブルに、大きなホットケーキが置かれた。
「うわぁぁぁ!!」
「でっか!!」
しかも分厚い。
さらに肉料理まで添えられている。
「肉も食え。強くなるよ」
「にゃんでみんな肉すすめるの!?」
「この世界だからじゃない?」
キャロルが笑う。
ワイトは椅子へ腰掛けた。
「ま、食べな」
「いただきまーす!」
レヴィーが勢いよくかぶりつく。
「おいしぃぃぃにゃーーーっ!!」
「声でか」
キャロルもひと口食べ、少し驚いた顔をした。
「……ほんとだ。おいしい」
ピコはもくもく食べている。
ワイトはそんな3人を見て、どこか嬉しそうに笑っていた。
その時だった。
ガシャァン!!
窓が割れる。
「!?」
白い煙が一気に室内へ広がった。
「けほっ!?」
「煙幕!?」
「伏せな!!」
ワイトが叫ぶ。
レヴィーが反射的に机を蹴り飛ばした。
ピコは鞄から小型爆弾を投げる。
――バンッ!!
「ぎゃっ!?」
煙の向こうで悲鳴。
だが。
「キャロル!?」
返事がない。
煙が晴れた頃には、キャロルの姿だけが消えていた。
「……っ!」
レヴィーが歯を食いしばる。
すると。
テーブルの上に、一枚の紙が置かれていた。
ワイトがそれを掴む。
「……なるほどね」
「なんて?」
ワイトはため息をついた。
「『返してほしけりゃ旧採掘場へ来い』だってさ」
レヴィーの耳がぴんと立つ。
「行く」
「待ちな」
ワイトの声が低くなる。
「相手はプロの悪党だ」
「でもキャロっちが!」
「わかってる」
ワイトは帽子を被り直した。
「だからアタシも行く」
一方その頃。
「いたた……」
キャロルは薄暗い部屋へ転がされていた。
「ちょっと! もっと丁寧に扱いなさいよ!」
「元気だなこのガキ」
「ガキじゃない!」
男たちが笑う。
キャロルは縄を確認しながら、周囲を観察していた。
(……3人は絶対来る)
だから。
(それまで時間稼ぎ)
キャロルはにやりと笑った。
「で、アンタたち弱そうだけど大丈夫?」
「は?」
「保安官から逃げ回ってる時点で三流よね」
「このっ……!」
「図星?」
旧採掘場。
乾いた風が吹き抜ける。
モルドレットの部下たちが、キャロルを連れて現れた。
「よぉ、お嬢ちゃんたち」
蛇みたいな目の男が笑う。
机の上へ、奇妙な銃が置かれる。
「早撃ち勝負をしてもらう」
ワイトが目を細めた。
「……スタンプ銃か」
「ルールは単純」
男が笑う。
「額に“肉”の判子がついたら負けだ」
レヴィーたちがぽかんとする。
「肉?」
「肉ですって」
「肉」
男はニヤリと笑った。
「こんな風になぁっ!」
ぐいっとキャロルの顔を上げさせる。
「~~~っ!!」
額には。
でかでかと、“肉”の文字。
無惨だった。
一瞬。
レヴィーとピコが顔を逸らす。
「……んぐっ!」
「ぷ、ぷくくくくくっ」
「笑うなぁーーーっ!!」
キャロルが涙目で睨みつける。
そんな3人をよそに、男の低い声が響いた。
「そっちが負けたら、3人まとめて売り飛ばす」
空気が変わる。
ワイトが一歩前へ出た。
「……ガキ相手に最低だねぇ」
「勝負は勝負だろ?」
そして。
決闘が始まった。
最初はワイト。
――バァン!!
一瞬だった。
相手の額へ、綺麗に「肉」。
「はっや!?」
レヴィーが叫ぶ。
ワイトは銃を回してしまう。
「保安官ナメんな」
次はピコ。
「よーい……」
――バン!!
「あ」
ピコの額へ、綺麗に「肉」。
「負けた」
「早っ!?」
ワイトが苦笑する。
「アンタ運動苦手だろ」
「む」
「落ち込むな」
ワイトは軽くピコの頭を撫でた。
「アンタは頭使うタイプだ」
ピコは少しだけ目を丸くする。
「……うむ」
ふと、視線を感じた。
顔を上げる。
遠くでキャロルが、ニヤニヤしながら口だけ動かしていた。
『なかーま』
「……んにゅにゅにゅにゅぅう」
ピコは思わず頬を膨らませた。
最後。
レヴィーが前へ出る。
相手はニヤニヤ笑っていた。
「ビビってんのか?」
「全然!」
レヴィーはちらりとキャロルを見る。
キャロルも小さく頷いた。
次の瞬間。
ふわり、と風が流れる。
相手の銃口がわずかにぶれた。
(今っ!)
レヴィーの指先で、小さな火花魔法が弾ける。
――バァン!!
一瞬の加速。
「なっ!?」
男の額へ、綺麗な「肉」。
「勝者ぁ!!」
レヴィーが飛び跳ねる。
「やったにゃーーーっ!!」
「ちっ……!」
しかし。
男たちは煙幕弾を叩きつけた。
白煙。
「待ちな!!」
ワイトが叫ぶ。
その時。
煙の向こう。
一瞬だけ、黒いシルエットが見えた。
鋭く光る銀の瞳。
次の瞬間。
「ぎゃああっ!?」
「誰だ!?」
男たちが吹き飛ばされる。
キャロルが解放された。
だが、黒い影はもう消えている。
「……あれ?」
レヴィーが目を瞬かせた。
煙だけが静かに漂っていた。
夕暮れ。
街の入口。
「ほんっと無茶するねぇアンタたち」
ワイトが呆れたように笑う。
「でも勝ったよ!」
「運が良かっただけさ」
キャロルが肩をすくめる。
「レヴィー突っ込みすぎ」
「キャロっち攫われすぎ」
「誰のせいよ!」
ピコがぼそっと呟く。
「いつもの」
「いつものだねぇ」
ワイトが吹き出した。
そして、少しだけ真面目な顔になる。
「次来る時は、まず保安署に顔出しな」
「なんで?」
「また攫われるからだよ」
3人は顔を見合わせる。
そして。
「また来るにゃー!」
「今度はもっと平和にね!」
「たぶん無理」
「否定しないんだ」
ワイトは大笑いしながら、3人を見送った。




