第22話 持っていくもの琥珀糖と間違えてませんか?!
ワープゲートが閉じたあと。
誰もしばらく動けなかった。
静かだった。
さっきまで、あれだけ騒がしかったのに。
「……行っちゃったにゃ」
レヴィーがぽつりと呟く。
マーリン学園長は、消えた虹色の光を見つめていた。
苦しそうに。
寂しそうに。
その顔を見て、六人は何も言えなくなる。
しばらく後。
六人とクロウリー先生、パーシヴァル。
そしてマーリン学園長は、学園長室へ集まっていた。
「……すまなかったのう」
マーリンが静かに言う。
「本当は、
もっと早く話しておくべきじゃった」
「……長い間、
誰にも話せなかった」
机の上。
そこには、秘宝が置かれていたはずの空間だけが残っている。
「秘宝って、
そんなに大事なものだったにゃ?」
レヴィーの問い。
マーリンは少しだけ目を閉じた。
「……友との繋がりだった」
静かな声。
「若い頃、
わしは異世界へ渡る魔法を完成させた」
六人が息を呑む。
「いまのお主たちのように、
わしも無鉄砲に異世界へ飛び込んだものじゃ」
マーリンが少しだけ笑う。
「無二の親友が、
いつもそばにいてくれたから無茶もできた」
懐かしそうに。
けれど少し苦しそうに。
「色々な世界を巡った。
色々な問題を解決した」
「でも最後に、
その世界は大きな危機に襲われた」
マーリンの拳が、わずかに震える。
「わしは助けられなかった」
静寂。
「ワープゲートも危機の影響を受けておってな。
あと一回、
誰かを飛ばせば使えなくなるほど消耗しておった」
「友は最後に秘宝を託し、
わしを無理やりゲートへ押し込んだ」
マーリンは静かに俯く。
「またいつか、
繋がれる日が来るかもしれないとな」
「あの秘宝は、
あの世界の純粋な魔力を込めて作られたもの。
いずれゲートキーとして使えるかもしれんと考えておったが……」
「……そんなの」
キャロルが俯く。
「大事な思い出じゃないですか……」
「友達だったんですのね」
カトリーヌも小さく呟いた。
そして。
レヴィーが勢いよく立ち上がる。
「取り返すにゃ!!」
ばんっ!!
「レヴィたち、
絶対取り返すにゃ!!」
「レヴィちゃん……」
「だって!」
レヴィーは拳を握る。
「大事な友達の思い出なんでしょ!?」
「盗まれっぱなしなんて、
イヤに決まってるにゃ!!」
その言葉に。
マーリンが、少しだけ目を見開いた。
「……じゃが、
問題がある」
マーリンが杖を掲げる。
虹色の魔法陣。
「ワープゲート自体は作れる」
「えっ」
「作れるんですの!?」
「うむ」
「じゃあすぐ追いかければ!」
ミーミアが身を乗り出す。
だが。
「“どこへ繋げるか”が問題じゃ」
全員が止まる。
「モルドレットたちが行った世界。
それを特定できねば、
無数の異世界へ散ってしまう」
重い空気。
その時だった。
「……でも」
ピコが小さく呟く。
「私たち、
今まで行きたい場所へ行ってた」
「へ?」
「楽しいことがありそうな場所」
「困ってる人がいる場所」
「ワープゲート、
願いに反応してた」
全員が顔を上げる。
「つまり今回は!」
レヴィーがびしっと指を突きつける。
「秘宝を取り返せる場所に行けばいいにゃ!!」
「なるほどですわ!!」
「感情共鳴型転移術式……」
マーリンが驚いたように呟く。
「理論としてはありえる……」
「やるにゃ!!」
レヴィーが叫ぶ。
「友達を取り戻しにいくにゃーっ!!」
工房いっぱいに、巨大な魔法陣が広がる。
マーリン。
ピコ。
二人の魔力が重なっていく。
「座標固定」
「魔力同期」
「術式接続」
虹色の光が、部屋中へ広がった。
「おおぉぉ……!」
六人が目を輝かせる。
その時。
「失礼します」
工房へ数人の人物が入ってきた。
黒い制服。
魔導警察。
「異世界逃亡犯対策班、
到着しました」
「ごついにゃ!」
「急行した瞬間にそれ?!」
ゴツい警察官が返す。
「帰ったらまた報告書が地獄に~……」
メガネの警察官が遠い目をしていた。
「また猫耳案件ですか……」
女性警察官まで疲れている。
「お前たち、
他にも何かやらかしてるのか?」
パーシヴァルが呆れたように言う。
「そんなわけないにゃ!」
「ぬれぎぬです!」
「ねこちがいにちがいないですわ!」
ぶーぶー文句を言う子供たち。
「危険です!」
クロウリー先生が言う。
「子供たちだけなんて認めません!」
「先生も行きます!」
「クロウリー先生かっこいいにゃ!」
「茶化さない!」
顔を赤くしながら怒鳴る。
すると。
「もちろん俺も同行する」
パーシヴァル。
「魔導警察として、
異世界逃亡犯を追跡する」
「総員、
突入準備」
「了解!」
警察官たちが整列する。
さらに。
「学園長は残ってください!」
クロウリー先生が叫ぶ。
だが。
「じゃから行く」
マーリンは静かに言った。
「今度こそ、
友を置いていかぬためにな」
その言葉に、誰も反対できなかった。
一方その頃。
異世界。
「うおおおお!?」
「なんだここ!?」
モルドレット一味が転がっていた。
そして。
「……おや?」
別方向から、同じ声。
黒ローブ。
蛇の紋章。
「……モルドレット?」
「お前もか!?」
「そっちもモルドレット!?」
困惑。
さらに。
「親分!
こっちにも蛇ローブです!」
「こっちにもだ!!」
ぞろぞろ。
和風モルドレット。
海賊モルドレット。
西部劇モルドレット。
なぜか全員悪そうだった。
「異世界……?」
「別の俺たち……?」
一瞬の沈黙。
そして。
「……これ、
めちゃくちゃ儲かるんじゃね?」
「「「それだ!!」」」
全員意気投合した。
「異世界侵略だぁぁぁ!!」
「歓迎してやるぜ、
猫耳ども……!!」
大量の蛇の紋章が、闇の中で笑っていた。




