第21話 マタタビボンボンはしびれるほどの甘い罠
「新作おやつ完成にゃー!」
レヴィーが高らかに叫ぶ。
ピコの工房。
今日も六人は集まっていた。
「今度は何を混ぜたんですの……?」
カトリーヌが若干引いている。
「チョコとマシュマロとクッキーと――」
「嫌な予感しかしない」
オーロラが即答した。
「大丈夫にゃ!」
「前もそう言って爆発しましたわよね!?」
「今回は爆発しない!」
「爆発“は”しないって顔してるよレヴィちゃん」
ミーミアが苦笑する。
わいわい。
いつもの空気。
その時だった。
ころり。
「……ん?」
レヴィーの足元へ、丸い飴玉のようなものが転がってきた。
「お菓子?」
キャロルが拾い上げる。
ふわり。
甘い香り。
次の瞬間。
ぷしゅうううう……。
「にゃっ♡」
レヴィーの耳がぴーんと立った。
「あ」
ピコが固まる。
「……またたび」
「え?」
その瞬間。
ぼんっ!!
ぼぼんっ!!
部屋のあちこちで、同じ玉が弾けた。
「にゃぁぁぁぁぁ……♡」
レヴィーが床へ倒れる。
「ち、力が……」
キャロルもしゅるしゅる崩れ落ちた。
「これ……
まずいですわぁ……♡」
カトリーヌまで机へ突っ伏す。
猫耳がぺたん。
完全に無力化されていた。
同時刻。
学園全域でも大混乱が起きていた。
「にゃぁぁぁ……」
「動けないにゃ……♡」
「またたびですってぇぇぇ!?」
廊下。
教室。
中庭。
ケットシー族たちが次々と倒れていく。
完全なる混乱だった。
学園長室。
「……ぐっ♡」
マーリン学園長が、机の上のボンボンを見つめる。
「なかなか面白い手じゃにゃ……」
だが。
ぷしゅううう……。
「ぬおっ♡」
数秒後。
「ぐっ……」
さすがのマーリンも、椅子にもたれかかった。
その隙。
がしゃんっ!!
窓が割れる。
「おじゃましまーす!」
黒ローブ。
蛇の紋章。
モルドレット一味だった。
「やはりここにあったか……!」
棚から、強烈な魔力を放つ結晶体を奪う。
秘宝。
「待て……!」
マーリンが杖を掴む。
震える指。
「……なぜそれを!?」
「へへっ、
当代随一の魔法使いが大事に秘匿してるお宝。
相当な値がつくにきまってらぁ。
いただいて売っぱらってがっぽがっぽよ!!」
魔力が迸る。
「逃がさんよ!!」
ぶわぁぁぁっ!!
光の結界が、学園全域を包み込んだ。
「なっ!?」
「って、なんともないぞ?」
一瞬の沈黙後。
「親分!
学園全体に結界が!!」
「結界だと!?」
モルドレットたちが顔色を変える。
「学園内に閉じ込められた!?」
「親分どうします!?」
「ちっ……!」
モルドレットが舌打ちする。
だが。
「……まだ手はある」
脳裏によぎる。
『例のガキども、
またあの部屋に集まってますぜ』
『虹色の光を確認しました』
『空間転移系か?』
扉の隙間。
一瞬だけ見えた虹色のワープゲート。
「ピコとかいうガキの部屋だ!」
「急げ!!」
モルドレットたちは学園内を駆け抜けた。
工房。
「うぅぅ……♡」
「立てないにゃ……」
六人はまだ床でぐったりしていた。
「おっ、いたいた」
窓からモルドレットたちが飛び込んでくる。
「にゃぁぁぁ!?」
「モ、モルドレット!?」
レヴィーたちが青ざめる。
だが身体に力が入らない。
「へへっ。
やっぱりここだったか」
モルドレットが、部屋の奥を見る。
虹色の光。
ワープゲート。
「本当にあったぞ!!」
「空間転移装置だ!」
「親分!
これで逃げられますぜ!」
「よーし野郎ども、
異世界観光だ!!」
「そんな軽いノリで行くにゃ!?」
その時。
ばんっ!!
扉が開いた。
「みんな無事ですか!?」
クロウリー先生。
その後ろには、マーリン学園長。
さらに。
「動くなモルドレット……!」
パーシヴァル。
他のケットシーたちより、明らかに回復が早い。
「パーシヴァル、
ひとりだけぴんぴんしてる……
ずるいにゃ……」
「魔力抵抗が高いだけだ」
そして。
マーリンの視線が、ワープゲートへ向く。
「こんな無防備にワープゲートがあるなんて……!」
「えっ」
「なんで学園長が知ってるにゃ!?」
「説明は後じゃ!!」
マーリンが叫ぶ。
「ぐずぐずしてらんねぇな。
さらばだ猫耳ども!!」
モルドレットたちは、ワープゲートへ飛び込んだ。
「待て!!」
パーシヴァルが駆ける。
だが。
虹色の光が弾ける。
しゅうううう……。
ゲートは閉じた。
静寂。
「……そんな」
キャロルが呟く。
マーリンは、消えた光を見つめていた。
その顔は。
今まで見たことがないほど、苦しそうだった。
「……彼女とのつながりが――」
震える声。
六人は、思わず息を呑んだ。




