第15話 パルミエさんこんにちは
クロウリー先生は、拾ったチューインガムをくわえながら廊下を歩いていた。
「ほんとにおいしいわね、これ」
静かな夜。
少しだけ頬が緩む。
そして、ぽつりと独り言が漏れた。
「トリック・オア・トリート……
デートしてくれないとすねますよ、なんて」
「……俺でよければ」
「へぇ、そうですか――」
数歩進んで、クロウリー先生が止まる。
「…………へ?」
ぎぎぎ、と振り返る。
そこには。
いつの間にいたのか、パーシヴァルが立っていた。
「なっ、
なななななっ!?」
「聞こえていた」
「聞こえてたなら
普通は聞かなかったことにするのよーー!!」
クロウリー先生が真っ赤になる。
その時。
「にゃはははは!!」
植え込みから、レヴィーが飛び出した。
「パーシヴァルがこそこそしてたと思ったら、
クロウリー先生のお尻追っかけてたにゃ!」
「恋愛イベント発生」
ピコ。
「これは見逃せないわね」
キャロル。
ぎょっとするパーシヴァル。
「な、な、なにを言っているのかな
キミたちは?」
「だってよくクロウリー先生と話してると
現れるにゃ!」
「な、なんのことかわからないな」
珍しく露骨にとぼけるパーシヴァル。
「あなたたちいつからそこに……」
クロウリー先生は顔を真っ赤にしていた。
「クロウリー先生に見つからないように
隠れてたら先生のほうから来たにゃ」
「うぅぅっ……」
「デートにゃデートにゃ!
いつかレヴィもしてみたいにゃー!」
「もう、
からかわないでください!」
クロウリー先生がわたわたする。
すると。
「俺とのデートは気が乗らないか?」
「はひゃ!?」
クロウリー先生の耳まで真っ赤になる。
「い、いえ!
そんなことは……!」
パーシヴァルは静かにクロウリー先生へ向き直った。
「ならお受けいただけるかな。
クロウリー嬢」
「…………は、はい」
照れすぎて、声が小さくなっていた。
「にゃーーーーー!!」
「きゃーーーーー!!」
「成立」
三人は大盛り上がりだった。
翌日。
「デートですってぇぇぇぇ!?」
カトリーヌの声が響く。
「声大きい」
オーロラが耳を押さえた。
「だって大事件ですわよ!?」
「恋は戦ですー!」
ミーミアがなぜか拳を握る。
ピコの錬金部屋。
机には謎の作戦メモが大量に並んでいた。
『自然な会話』
『手をつなぐタイミング』
『吊り橋効果』
『おしゃれなカフェ』
「なんでみんな妙に詳しいの……」
キャロルが引いている。
「少女漫画知識ですわ!」
カトリーヌが胸を張った。
「情報源偏り大」
ピコが冷静に言った。
デート当日。
休日のマギーア。
クロウリー先生は、少し緊張した様子で立っていた。
「……遅い」
「すまない」
現れたパーシヴァルは、いつも通りだった。
だが。
「……その服」
「変か?」
「い、いえ……
普通に格好いいのが困るんですけど」
「?」
パーシヴァルはよく分かっていなかった。
その頃。
「対象確認!」
レヴィーが物陰から顔を出す。
「近いですわ近いですわ!」
カトリーヌが慌てた。
「尻尾見えてる」
オーロラが引っ張る。
「葉っぱが不自然に揺れてるにゃ」
キャロルが呆れた。
全員、尾行が下手だった。
カフェ。
「ここ、
甘いものが美味しいらしい」
パーシヴァルが少しだけ誇らしげに言う。
「調べてきてくれたんですか?」
「……多少は」
パーシヴァルの脳裏に、昨晩届けられた“デートプラン”と書かれた大量のメモがよぎる。
『女子は甘いものに弱いですわ!』
『静かな席がいいと思う』
『にゃー! 景色も大事にゃ!』
「……?」
クロウリー先生が首を傾げた。
「いや、なんでもない」
運ばれてきたのは、サクサクのパルミエ。
「おいしい……」
「気に入ったなら良かった」
少し沈黙。
でも、不思議と居心地は悪くなかった。
店を出た直後。
突然、強風が吹いた。
「きゃっ!?」
クロウリー先生の帽子が飛ぶ。
だが。
パシッ。
パーシヴァルが空中で受け止めていた。
「……(小声で)かっこいい……//」
「危ないから気をつけろ」
「……ありがとうございます//」
頬にうっすらと紅がのったクロウリー先生が笑う。
遠くから。
「にゃーーーー!!」
レヴィーたちの謎歓声。
「なんか聞こえませんでした!?」
「風では」
パーシヴァルは真顔だった。
夕方。
空が茜色に染まる。
二人は並んで歩いていた。
「……不思議ですね」
クロウリー先生が呟く。
「何がだ」
「最初は怖い人だと思ってたんです」
「否定はしない」
「でも、
ずっと見てくれてたんですね」
パーシヴァルは少し黙る。
最初は、レヴィー、キャロル、ピコたちの監視だけのはずだった。
けれど。
今は少し違う。
3人に限らず、教え子にやさしく寄り添う女性。
気づかぬうちに、目で追う対象が増えていた。
「……ああ」
クロウリー先生が、ふっと笑った。
帰り道。
夜風が吹く。
パーシヴァルが立ち止まる。
「クロウリー」
「はい?」
少しだけ間。
「俺と付き合ってほしい」
クロウリー先生の目が丸くなる。
「…………へ?」
「迷惑だったか」
「ち、違います!!
違いますけど、
急すぎて心の準備が……!!」
顔を真っ赤にしながら、クロウリー先生はぶんぶん首を振った。
「……ダメかな?」
「ちがっ!……
よ、よろしくお願いしますぅ……」
少しだけ。
パーシヴァルが笑う。
その瞬間。
「「「「「うおおおおおーーー!!」」」」」
物陰から六人が飛び出した。
「全部聞いてましたわーー!!」
「成功にゃーー!!」
「尊いですー!」
「あなたたちぃぃぃぃぃ!!?」
クロウリー先生の絶叫が、夜のマギーアへ響き渡った。




