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夢遊病患者

 私に不思議なことが起こり始めたのは二週間ほど前のことだった。


 買った覚えのない本が増えているのだ。


 しかも絶版となった本ばかり。


 澁澤龍彦訳のヴェルレーヌの詩画集「女と男」、石川淳の「新訳雨月物語」、小村雪岱カバー絵の泉鏡花「歌行燈」などなど。


 確かに欲しかった本ではあるが、何処で手に入れたのだ? 全く覚えがない。


 私は夢遊病患者にでもなってしまったのだろうか。




               ◇




「先ほどのお客さん、全然、妖怪っぽくなかったですね」


「ああ、妖怪じゃないんだよ」


「えっ」


「生霊さね」


「生霊って、生きてる人間なのに魂だけ出ちゃってるやつのことですよね」


「そうさ」


「何で生霊になっちゃったんですかね?」


「本が好き過ぎるんだよ。寝てる時でも本のことを考えちまうのさ」


「そういえば、昼にも本を見に来ていたような……。何も買っていなかったですけど」


「ここは昼と夜で本が少し替わるんだよ」


「えっ、そうなんですか⁉」


「夜の方がよりレアな本が出るのさ。きっと本好きな、その人は、それを嗅ぎつけたんだろうねえ」


「すごい執念ですね」




               ◆




 また、やってしまった。


 起きると、手に持っていたのは内田百閒の「漱石先生雑記帖」。


 一体、私は、どうなってしまったのだろう……。

すごい本の虫ですね。

しずかとしょかんに招待したいくらいです。

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