第四食 調布ダンジョン④
左腕は負傷し、異能の使いすぎで感覚が鈍い。
後衛にゴブリンアーチャー。前衛にゴブリン三体。
そして、ゆっくりと動き出したゴブリンジェネラル。
(……最悪だな)
だが、不幸中の幸いもある。
無限に湧き出ているわけではない。
おそらく、今目の前にいるこの四体が召喚の限界。
考えろ。
どうすれば崩せる?
しかし、思考をまとめるより先に――
ヒュンッ!
休む間もなく、ゴブリンアーチャーの矢が飛来する。
回避。
だが、その隙を埋めるように前衛が迫る。
(クソ……)
アーチャーを先に潰したい。
だが、それはゴブリンジェネラルが許さない。
詰みなのか?
せめて遠距離攻撃の手段さえあれば――。
(いや、待て)
遠距離なら、、ある!
蹴り術でゴブリンを仕留める。
その瞬間、死体を掴み――投げる。
「――行け」
『追尾』
放たれたゴブリンの死体は、まるで意思を持ったかのように空を裂き、ゴブリンアーチャーへと飛ぶ。
続けて、もう一体。
同様に蹴りで仕留め、掴み――投擲。
「二発目……!」
『追尾』
今度の標的はゴブリンジェネラル。
ドゴォンッ!
ゴブリンジェネラルは大剣で強引に薙ぎ払う。
だが、その動きが“止まった”。
(よし……!)
死体が視界と行動を塞いでいる。
アーチャーは狙えない。
ジェネラルも弓の構えに移れない。
しかも、今の動作で“隙”が生まれた。
(……あいつ、意外と頭は回らないな)
今だ。
「穿突!」
踏み込み。
さらに
「瓦顎!!」
ゴブリンジェネラルのスネ肉を噛みちぎる。
《【超暴食】が発動》
《【小鬼召喚】を獲得》
《【ランダム召喚】に進化しました》
来たァァァァァッ!!
「もらったぜ、ゴブリンジェネラル。お前らはもう終わりだ」
頼むぞ。
『ランダム召喚』
左腕が悲鳴を上げる。
骨ごと軋むような激痛。それでも、無理やり持ち上げた。
頭上で両手を重ねる。
――パンッ。
乾いた拍手のような音が響く。
そのまま、空を断ち割るように振り下ろす。
(分かる……これだ)
なぜか理解している。
異能を使うときは、いつもそうだ。
理屈じゃない。
だが、この動作が“鍵”だと確信している。
――瞬間。
空間が、軋んだ。
耳ではなく、骨で聞くような嫌な音だ。
俺の前に、魔法陣が展開される。
幾重にも重なった光の輪が、静かに――だが確実に現実を侵食していく。
ピョコン、ピョコンと。
場違いなほど軽い調子で、美しい白翼が揺れた。
現れたのは――天使。
神々しさと、悪戯めいた笑み。
どちらが本性なのか、一目ではわからない。
「よお。お前、面白そうだから来てやったぞ〜」
……小さい。
やけに小さい。
一言で言うなら、ちんちくりんだ。
体は小さく、声は高く、顔つきは完全に悪ガキ。
天使というより――
「ガキの悪魔、って言った方がしっくりくるな」
神々しさが、台無しだった。
「なんだとー!俺は由緒正しい天使だ。あいつを倒して欲しいんだろ」
そんな態度してると倒してやんないぞ、と言わんばかりだ。
「……」
俺は何も答えない。
ゴブリンジェネラルとアーチャーもなぜか攻撃してくる素振りがない。こいつを警戒しているのだろうか。
「まあいいさ、今回は特別だ。やってやる」
誰も動かず、何も言わない状況に気まずさを覚えてたのか。どうやら折れたようだ。




