第五食 調布ダンジョン⑤
「しょうがないなあ 」
そう言って、宙に飛ぶ。
『魔力拡散弾』
大きく振りかぶり、両手の前に魔力を集めて、
拡散して飛ばす。
それは隕石が拡散するように、ジェネラルに襲いかかった。
「じゃあ、そっちのはたのむよー」
そう言ってジェネラルの方に、向かっていった。
「俺がご主人様だっての」
やりますか。あと少しだ。
視界の端で、ゴブリンアーチャーが弓を引く。
狙いは天使。
「せん、と……ガハッ!」
『穿突』を放とうとする。
だが、力が入らない。
立てない。
膝から、崩れ落ちた。
――間に合わない。
ヒュン、と風を裂く音。
天使は弓矢を避けるが、弓矢で戦いづらそう。
このまま戦いが長引けば、火力の低い天使が押される。
だから、俺が動かないといけないのに。
「くそ……」
動け。
ここまで来て、何やってんだ。
動けよ……!
勝て――
……勝って、どうする?
ふと、思考が途切れる。
熱が引いていく。
――いっそ、このまま。
八雲は、今日一日であまりにも多くを経験しすぎた。
その全てが、今になって押し寄せてくる。
俺は、ダンジョンに一攫千金を求めて来た。
最強の能力を手に入れたと思った。
でも。
この程度だ。
最底辺のダンジョン。
その中ボス相手にすら、余裕で勝てない。
一攫千金なんて、笑わせる。
どうせすぐに限界が来る。
そして、淘汰される。
「……俺はもう俺のために頑張れないよ、」
声は驚くほど軽かった。
全てが遠い。
音も、光も、痛みすらも。
世界が、ゆっくりと沈んでいく。
ドゴォン!!
天使のいるところで音がした。
避け回り、必死に少しずつ攻撃する天使の姿があった。
「しょがねえとか、言ってた割には必死に戦ってくれてるじゃねえか」
小さいはずの天使の背中がやけに大きく見えた。
――ああ、そうか。
これは、“俺の戦い”だ。
あいつに押し付けて、終わりでいいわけがない。
「……まだだ」
震える指先に、力を込める。
立て。
動け。
ここで終わる理由なんて、どこにもない。
「まだ終わってねぇだろ……!」
異能は使えない。
だが――手足は、まだ動く。
ふらつきながら、それでも一歩ずつ。
確かに、アーチャーとの距離を詰めていく。
アーチャーが、こちらに気づいた。
――来る。
眉間を狙い、矢が三本。
一直線に、放たれる。
「……だよなぁ」
避けない。
――ガキンッ!
迫る矢を、歯で受け止めた。
鉄の味。血の味。
だが、関係ない。
そのまま、噛み砕く。
「俺は……なんでも食うぜェ」
アーチャーの目が、見開かれた。
本能的な恐怖。
一歩、後ずさる。
――遅い。
完全な隙が、生まれた。
『瓦顎』
踏み込みと同時に、噛みつく。
左肩から――
右腰まで。
肉も骨も関係なく、抉り取るように喰いちぎった。
ブチ、と鈍い断裂音。
そのまま、核――魔石ごと、飲み込む。
ガリ。
ボリ。
ボリ。
――瞬間。
意識が、弾けた。
《【超暴食】を発動》
《【遠視】を獲得》
《【鑑定】に進化しました》
熱が走る。
さっきまで枯れていたはずの力が、、
天使はゴブリンジェネラルに押され気味だ。
天使は範囲の広い魔法で相手を一網打尽にするタイプ。多対一に強く、一対一に弱い。
なら、決定打は俺が叩き込むしかない。
【鑑定】を発動。
ゴブリンジェネラル
【小鬼召喚】【剛腕】
天使――下位天使
【無属性魔法】【微光】
(まだまだ成長途中のようだ)
「やるじゃねぇか。そのボロボロの体でよ」
「当然だろ」
軽口とは裏腹に、状況は最悪だ。
押し切られるのは時間の問題――。
(なら、賭けるしかねぇ)
「おい天使!お前の魔法、俺に撃て!」
「はあ!?何言って――自殺志願か!?」
「違う。俺を信じろ」
「信じろで撃てるか!僕が倒せば済む話だろ!」
舌打ちが出る。
「無理だろうがよ!このままじゃ、お前も死ぬ!俺も死にたくないッ!」
八雲の心からの叫びだった。
一瞬の沈黙。
「……っ、あーもう!後悔するなよ!」
天使の掌に、光が集束する。
『無属性魔法×微光――魔力拡散弾』
暖色の魔力塊が、一直線に――俺へ。
(来い)
【超暴食】、発動。
ぞぶり、と。
体内から滲み出るように、影の顎門が口を開いた。
迫る光を、丸ごと呑み込む。
弾けるはずの魔力が、俺の内側へと流れ込んだ。
《【超暴食】による吸収が成功》
《【無属性魔法】【微光】を獲得》
《異能の進化・統合に成功》
《【ブラスター】を獲得しました》
(来たっ!)
「天使下がれ!!」
青白い光が、脈打つ。
空気が震え、地面がひび割れる。
ゴブリンジェネラルが、わずかにたじろいだ。
(逃がすかよ)
「これで――終わりだ」
掌を向ける。
光が、限界まで圧縮される。
そして――
『プリズムブラスター』
解き放った。
解き放たれた光は、一直線だった。
青く、白く、そしてわずかに黒を帯びた魔力の奔流。
極限まで圧縮された魔力が、砲撃のように撃ち出される。
ゴブリンジェネラルが腕を振り上げる。
迎撃。
だが、間に合わない。
触れた瞬間、弾け飛んだ。
剛腕が、耐えきれずに吹き飛ぶ。
「ガァァッ!?」
そのまま、胸部へ直撃。
減衰しない。
止まらない。
一直線に、ただ貫く。
肉を裂き、骨を砕き、魔力ごと押し流す。
暴れるでも、侵食するでもない。
純粋な出力が、すべてを上書きする。
そして――
背後へと抜けた。
一拍遅れて、衝撃が爆ぜる。
ゴブリンジェネラルの巨体は、中心から崩壊し、
耐えきれず、四散した。
地面には、一直線に穿たれた破壊の痕跡と魔石だけが残った。




