EP25 政治的解決
王都の中心部では、まだ帝国工作員による破壊活動の余波が続いていた。琥珀色の魔法の残光が夜空を焦がし、崩れ落ちた建物の瓦礫が道路を塞いでいる。
**「まるで血管が破裂したような光景だ」**
レオンは遠くから状況を観察していた。彼のスライム・ポッド技術が普及した地域では、青い光が確かに灯り続けている。しかし王都の中心部では、依然として核魔石に依存したシステムが機能しており、その一部が破壊された影響は甚大だった。
「レオン様、王子が単身で王弟派の本拠地に向かわれました」
カイルが血相を変えて駆け寄ってくる。
「知っている」
レオンの声は冷静そのものだった。
「あれは王子の判断だ。介入すべきではない」
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王弟アルフォンスの元には、混乱の報告が次々と届いていた。
「殿下、中央広場の魔石プラントが破壊されました!」
「民衆が暴動を起こす気配です!」
その時、ドアが静かに開かれた。登場したのは、汚れ一つない儀礼服を着た王子だった。
「叔父上、お久しぶりです」
王弟は鋭い眼光を向ける。
「よくも単身で来たな。この混乱の責任はお前たちにある」
「違います、叔父上」
王子の声には一切の動揺がなかった。
「責任は、現実を見ようとしなかった我々全員にあります」
王子は窓の外を指さす。そこでは、民衆が自らスライム・ポッドを修理する姿が見えた。
「あの光景をご覧ください。レオン・フォン・カトレイユの技術は、もはや民の手に渡っています。今さら帝国のシステムを強制すれば、待っているのは内乱だけです」
王弟の顔に葛藤の色が浮かぶ。
「しかし帝国との契約は……」
「契約は守ります。ただし、方法を変えましょう」
王子が羊皮紙を広げる。そこには詳細なハイブリッド運用案が記されていた。
「核魔石とスライム・ポッド、どちらか一方を選ぶ必要はありません。両方を使うことで、国家の冗長性を高めるのです」
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その頃、レオンはフォルクナー伯爵と共に、保守派貴族たちとの会合を持っていた。
「諸君、理解してほしい」
レオンが淡々と説明する。
「これはゼロサムゲームではない。新たなパイを創り出す提案だ」
バルタザール伯爵が疑問を呈する。
「しかし我々の利権は?」
「そのまま保持できます。ただし、形を変えて」
レオンが資料を配布する。
「魔石流通の利権から、スライム技術のメンテナンスと管理の利権へ。目端の利く者には、新しい国で働いてもらいます」
フォルクナー伯爵が頷く。
「敵を排除するのではなく、システムの一部として再利用するというわけだ」
**「廃材すら資源に変えるのが、エンジニアの仕事だ」**
レオンの心の声が響く。前世の病院では、限られた資源で最大の効果を上げる方法を常に模索していた。その思考が今、政治の場でも活かされていた。
■
王宮の謁見の間では、重大な決断が下されようとしていた。
「兄上、わたしは過ちを認めます」
王弟アルフォンスが深く頭を下げる。
「王子の提案こそが、アステリアを救う道です」
老国王がゆっくりと立ち上がる。
「我が息子よ、よくやった。これでようやく、この国に未来が訪れる」
王子は静かに宣言する。
「私はアステリアを隣国に渡しはしない。ただし、古い方法に固執することもない。新しい道を歩むのです」
その瞬間、王宮の核魔石が青白く輝き始めた。そして全国に広がる無数のスライム・ポッドの青い光が、それと呼応するように明滅する。
「戴冠の儀を執り行う」
■
辺境伯領の屋上で、レオンは遠くの光景を見つめていた。
「見事な調和だ」
エレナが傍らに立つ。
「中央と地方、伝統と革新が共存する」
カイルが笑いながら加わる。
「てめえの技術が、国を救ったんだな!」
「違う」
レオンの声は穏やかだった。
「技術は単なる道具だ。重要なのは、それを使う人々の意志」
三人の背後で、夜明けの光が昇り始めていた。王都の核魔石と、全国に広がるスライム・ポッドの光が織りなす、多層的な輝きが朝焼けに映えている。
**「これでようやく、循環が始まる」**
レオンの目には、新たなプロジェクトの青図が浮かんでいた。より大きな、より強靭なシステム構築へ向けて、次のステップが待っている。




