EP22 二つの未来:自立の青光と、依存の琥珀
アステリア王国の黄昏は、街灯の灯りが一つ、また一つと消えていくようにして訪れていた。
王都の繁栄とは対照的に、地方都市ではエネルギー不足が深刻化していた。レオンが馬車の窓から見える街並みは、かつての輝きを失い、次第に闇に包まれつつあった。
**「まるで点滴の管が詰まり始めた時のようだな」**
レオンの心の声が響く。前世の病院で経験したあの不安感――生命維持装置の警告音が、今は街全体の悲鳴として聞こえてくる。
「レオン様、次の街も同じようです」
エレナが隣で静かに告げる。彼女の手には、各地から届くエネルギー枯渇の報告書が積まれている。
馬車が街の中心部に入ると、人々の疲れ切った表情が目に入った。街灯の魔力供給が不安定になり、商店の看板もかすかに光るだけだ。
「三日前から障壁が弱まり、魔物の襲撃が増えているという報告も」
カイルが拳を握りしめる。辺境伯の嫡男として、彼もこの状況に無力感を覚えている。
レオンの目は、路地裏で密かに取引される琥珀色の光を持つ小石に留まった。
**「ゼノス帝国の魔石か……静かな侵略だな」**
■
王宮の広間では、緊急の御前会議が開かれていた。
「陛下、このままでは王国がもたない!」
老貴族の声が震える。各地からの悲鳴が、重苦しい空気を作り出す。
レオンはエレナと目を合わせ、頷く。準備は整っていた。
「陛下、お許しを」
15歳の少年が進み出る。手にはアステリア全土の地図が広げられている。
「私は『全土再起動プロジェクト』を提案します」
場内が静かになる。レオンが地図を指し示す。
「必要なのは他国からの輸入ではありません。我々の足元にある『くず魔石』とスライムによる、完全なエネルギーの自立です」
地図の上に、青い光のネットワークが浮かび上がる。スライム・リザーバーを基幹とした新しいエネルギー網の構想だ。
「スライムだと? ただの粘液が国を救えると?」
保守派の貴族が嘲笑する。
しかしレオンの目は揺るがない。
**「彼らには見えないのか? この『循環』の美しさが」**
エレナが資料を配り始める。「カトレイユ領での実績データです。スライム・リザーバー一号機は、三ヶ月間安定稼働を続けています」
「だが、それだけでは全土を賄えないだろう」
宰相が現実的な疑問を投げかける。
「各都市に中継点を設置し、ネットワーク化します」
レオンが地図上に点を打つ。「くず魔石は各地に豊富にあります。スライムも同様です」
その時、広間の扉が大きく開かれた。
「遅れたな、兄上」
王弟がゼノス帝国の外交官を伴って現れる。彼の背後には、琥珀色に輝く魔石プラントの模型が運び込まれる。
「我がゼノス帝国の最新技術で、貴国の危機を救いましょう」
外交官が得意げに宣言する。
王弟がレオンを見下すように言う。
「スライム遊びは子供のうちだけにしておけ。国策は実績ある技術で進めるべきだ」
**「来たか……甘い罠とともに」**
レオンの瞳が細くなる。
帝国の提案は、確かに魅力的に見えた。高出力の魔石プラントは、即座にエネルギー問題を解決できると謳われている。
「ただし、燃料となる特級魔石は帝国からの供給が前提です」
外交官が付け加える。その言葉に、レオンは危険信号を感知する。
**「これが『隷属の契約』か。技術的依存による支配の構図だ」**
「帝国の実績ある技術こそが救国だ!」
守旧派の貴族たちが王弟に同調する。
会場は二分された。青い光を掲げるレオン陣営と、琥珀色の光を信奉する王弟陣営。
レオンが静かに、しかし力強く反論する。
「一時的な解決策は、長期的な隷属を生みます。真の自立こそが、アステリアの未来を守る」
王弟が冷笑する。
「レオン・フォン・カトレイユ、お前の言う『自立』は美しい理想だ。だが、民にそんな覚悟があると思うか? 人々が求めているのは、今すぐにでも灯る明るい光だ」
**「なるほど……『現実』という名の武器か」**
レオンは内心で咂する。王弟の指摘は的を射ている。疲弊した民衆は、即効性を求めている。
エレナがレオンの袖を引く。「データを見せましょう。長期的なコスト比較を」
しかし王弟はそれを一蹴する。
「数字遊びはもういい。我々にはもっと確かなものがある」
その時、国王が立ち上がった。
「静まれ」
広間が水を打ったように静かになる。
「どちらが真にアステリアを救うか……一ヶ月の猶予を与えよう。それぞれの技術で、一都市を再起動させて証明せよ」
コンペティションの宣言だ。
レオンと王弟の視線が激しくぶつかる。青と琥珀色の光が、王宮の影で火花を散らす。
「受諾いたします」
レオンが深々と頭を下げる。
王弟も同じく礼を返す。「ゼノス帝国の技術力を見せていただきます」
国王が小さくため息をつく。
「王国の命運が、二人の技術にかかっている。どうか、真実を示してくれ」
会議が終わり、レオンたちが広間を出る。廊下では、ゼノス帝国の外交官が王弟に囁いている。
「ご安心を。我々の技術は間違いなく……」
レオンは振り返らずに歩き続ける。
**「よし……これで動き出せる」**
エレナが心配そうに尋ねる。「大丈夫ですか? 帝国の技術は確かに強力です」
「問題ない」
レオンの口元に笑みが浮かぶ。
「彼らには見えていないものがある。『循環』の真の力と、アステリアの民の底力だ」
カイルが拳を叩き合わせる。「やってやるぜ! てめえのその技術で、帝国の野郎を黙らせてやる!」
三人の背中には、夕日が長い影を落としていた。アステリアの未来を賭けた戦いが、今、始まろうとしている。
レオンは窓の外を見つめる。街にはもうすぐ闇が訪れようとしている。
**「だが、闇の後には必ず夜明けが来る。俺が、その光を灯してみせる」**
彼の目には、青く輝く未来のビジョンが映し出されていた。




