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EP18  王子の理解

王家の直轄地で、若き王子の手による初の実証実験が行われた。エレナから渡された設計図と「星屑の粉末」を使い、見事にスライム・ポッドが稼働し、街の広場に青白い光が灯った瞬間、王子の顔に安堵の笑みが浮かんだ。

「見事だ……エレナ、これが辺境伯家の技術か」

エレナは眼鏡の奥の瞳を冷静に保ちながら、微かに頷いた。「殿下のご理解があってこそです。これで多くの領地が救われるでしょう」

しかし王子の喜びは長くは続かなかった。実験が終わり、夜が更けるにつれ、彼は自室で魔力量の計算を始めた。机の上にはエレナから提供されたすべてのデータが広げられ、王子の指先が高速で計算板を滑る。

**「この出力……では足りない」**

彼のつぶやきに、側近の魔導師が首を傾げた。「殿下?何か問題が?」

王子は顔を上げ、窓の外に見える王宮の尖塔を指さした。「あの巨大な核魔石を維持するには、この百倍……いや、千倍の魔力が必要だ。この技術だけでは、王都を支えきれない」

その夜、王子は一人で王宮の核魔石がある地下聖堂へ向かった。巨大な水晶はかつての輝きを失い、表面には蜘蛛の巣のようなひび割れが広がっている。近づくと、かすかな振動が伝わってくる――まるで瀕死の巨獣の鼓動のようだった。

**「これが……末期症状か」**

王子の手が震えた。彼は幼い頃から、この核魔石が王国の心臓であると教えられてきた。その心臓がまもなく止まろうとしているという現実に、彼は初めて直面したのだ。

翌日、王子はエレナを急ぎ呼び出した。彼の顔には睡眠不足の影がくっきりと浮かんでいた。

「エレナ、真実を語ってほしい。この技術で、本当に王都を救えるのか?」

エレナの表情は少しも乱れない。「殿下、私は技術者ではありません。しかし、開発者のレオン・フォン・カトレイユなら、正確な回答ができるでしょう」

彼女の冷静さに、王子はかえって不安を覚えた。「すぐに連絡を取ってくれ。時間が……ない」

***

カトレイユ領の作業場では、レオンが最新の設計図を描いていた。机の上には宰相領でのデータが山積みになり、彼の頭の中では既に次の段階への青写真が完成しつつあった。

**「そろそろ、王子からの連絡が来る頃だ」**

彼の予想通り、まもなくエレナからの魔導通信が届いた。王子の焦りと、王都の核魔石の状態についての詳細な報告だ。

レオンは微かに笑った。「計算通りだ。あの数字を見れば、王子も気づくはずだった」

彼は作業台の引き出しから、分厚い設計図の束を取り出した。そこには複数のスライム水槽を並列接続した巨大なシステムの図面が描かれている――まさに「スライム・リザーバー」と名付けるに相応しい規模のものだ。

「エレナへ。回答を送る。王子の懸念は正当だが、解決策は既に用意されている」

レオンの指が設計図の一点を指す。「単一の巨大な核魔石に依存する時代は終わった。これからは、分散し、蓄え、管理する時代だ」

***

王都でエレナからレオンの回答を受け取った王子は、最初は理解できずに設計図を見つめていた。しかし、細かな数値と図面の意味が少しずつ理解できるにつれ、彼の表情が変わっていった。

「これは……まさに革命だ」

レオンの提案は単なる代替策ではなかった。王国のエネルギーインフラそのものを根本から再定義するものだった。複数のスライム・リザーバーを戦略的に配置し、相互にバックアップさせることで、単一故障点のリスクを完全に排除するというのだ。

「王都だけでなく、すべての上級貴族の領地も、この方式に切り替えるべきだ」

レオンの添え書きが王子の心に深く刺さった。これは単なる延命策ではなく、王国の未来そのものを変える提案だった。

王子は窓の外を見つめ、かすかに震える声で呟いた。「これで……救われる」

エレナはその様子を冷静に見守りながら、心の中でレオンに語りかけた。

**「見事な手さばきね、レオン。王子の恐怖を、希望に変えるとは」**

彼女の口元に、ほのかな微笑みが浮かんだ。すべてが計算通りに進んでいた。


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