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EP19 御前会議

王宮の地下聖堂では、不気味な亀裂音が絶え間なく響いていた。核魔石の表面を走る蜘蛛の巣状のひび割れから、微かな青い光が漏れ出している。魔素の漏洩――リークだ。

「これは一時的な現象に過ぎません」老貴族が声を震わせて言う。「核魔石の自浄作用が働いているだけです」

しかし誰の目にも明らかだった。聖堂内の空気が淀み、魔法灯の光が不安定に揺らめく。結界の維持に必要な魔力が確実に減少している証拠である。

***

御前会議の場は、張り詰めた空気に包まれていた。辺境伯ヴィクトール・フォン・ローレンツが玉座の前に立ち、保守派貴族たちの睨み合う視線を一身に受けている。

「スライムなどという卑賤な生物を、国家の心臓に用いるとは!」赤ら顔の公爵が怒声を上げる。「あのカトレイユの小童は、王国を毒に染めようとしている!」

別の貴族が続く。「核魔石こそが我が国の伝統だ。異端の技術に頼るなど、亡国の道です!」

ヴィクトール辺境伯の表情は冷徹だった。「では、諸侯は崩壊寸前の核魔石をどうするおつもりか? 王宮の結界が完全に消え去るのを、手をこまねいて見ているだけか?」

その時、王子が席から立ち上がった。「父上、お許しを」彼の手には分厚い書類の束がある。「これはレオン・フォン・カトレイユが設計した『スライム・リザーバー』の詳細な仕様書です」

王子が書類を広げる。そこには複数の水槽を並列接続したシステムの図面が描かれ、各所に詳細な数値が記入されている。

「単一の核魔石に依存する従来方式とは異なり、このシステムは二重の冗長性を備えています」王子の指が図面の一点を指す。「一つのリザーバーが故障しても、他のユニットが自動的にバックアップします。拡張性も極めて高く、必要に応じて容量を増設可能です」

保守派の公爵が嘲る。「絵空事だ! スライム如きで王国を支えられると思うか?」

王子の目が鋭く光った。「では、これを見よ」彼が一枚のグラフを掲げる。「これは実際に我が領地で測定したデータだ。スライム・リザーバー一基あたりの出力は、中型核魔石の七割に達する。そしてコストは十分の一以下だ」

会議場にどよめきが走る。伯爵の一人が立ち上がる。「だが安全性は? スライムが暴走したらどうする!」

「各リザーバーは独立した結界で隔離される」王子が冷静に答える。「万が一の際も、影響は局所的に留まる。核魔石のように全国規模の災害を引き起こすリスクはない」

***

カトレイユ領の作業場で、レオンは遠く離れた王宮の駆け引きを想像していた。エレナからの魔導通信が届き、会議の様子が逐一報告されている。

**彼らはまだ理解していない。これは単なる代替品ではない、パラダイムシフトなのだ。**

レオンの頭の中では、既に次の段階の設計図が完成しつつあった。分散型エネルギー網の全体像――各領地を結ぶ魔力のネットワーク構想だ。

「しかし……まずは現実を認めさせることからか」レオンは机の上のクズ魔石を手に取る。かつてはゴミ同然だったこれらの石が、今や王国の未来を支える資源となる。

***

王宮では、議論が最終局面を迎えていた。保守派の主張は次第に説得力を失い、代わりに現実的な危機感が会場を支配し始めている。

「最も現実的な問題は時間だ」財務卿が重い口を開く。「核魔石の寿命は最早数ヶ月しかない。新技術の導入にそれだけの時間がかけられるのか?」

その時、これまで沈黙を守っていた国王がゆっくりと口を開いた。「……カトレイユ領の者を呼べ」

場内が水を打ったように静まる。

「レオン・フォン・カトレイユを王宮に召還する」国王の声には深い疲労と決意がにじんでいる。「彼に全権を委ねよ。古き石に殉ずるか、新しき光に賭けるか……余は、未来を獲る」

王子の顔に安堵の色が走る。一方、保守派貴族たちは蒼白になり、互いに意味ありげな視線を交わす。

**これで終わりではない**と、ある公爵の目が語っている。**敗北を認めるわけにはいかない**

***

夜のとばりが降りた王宮で、王子はヴィクトール辺境伯と密かに語り合っていた。

「ついに……承認された」王子の声には興奮が滲む。「レオンの技術が、王国を救う」

しかし辺境伯の表情は厳しい。「殿下、油断は禁物です。保守派はまだ諦めていません。むしろ、追い詰められた獣は最も危険です」

遠くで雷鳴が轟く。まるで近づく嵐の予兆のように。

「彼らはきっと、何か仕掛けてくる」辺境伯の目が細くなる。「技術的な反論が通じなければ、次の手段は……もっと直接的なものになるでしょう」

王子は窓の外の暗闇を見つめる。「レオンが王宮に来るまで……なんとしても守り抜かねば」

その言葉に、辺境伯は微かに頷いた。革命の承認は、新たな戦いの始まりでもあったのだ。

***

カトレイユ領では、レオンが最後の準備を整えている。王宮行きの馬車が翌朝に出発する予定だ。

「いよいよか」カイルが作業場の入り口に立つ。「王宮の連中、てめえを食い物にしようって魂胆だぞ」

レオンは淡々と道具箱を閉める。「構わない。重要なのは技術が認められたことだ。後は……適切に実装するだけだ」

**彼らがどんな妨害をしようとも、流体は必ず流れ出す。淀みを嫌う特性は、社会の変革にも通じる。**

レオンは夜空を見上げる。星々がきらめくその向こうに、新しい王国の未来図が見えるような気がした。

「さあ、行こうか」レオンがカイルに声をかける。「古い秩序が終わり、新しい循環が始まる」

馬車の準備をする音が、静かな夜に響き渡る。革命の次の章が、今、始まろうとしていた。


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