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EP15 計略

漆黒の夜が王都を包み込む。辺境伯ヴィクトール・フォン・ローレンツは、宰相の私邸の奥の間で、老獪な男と向き合っていた。

「閣下、我々はもはや核魔石という一点豪華主義から脱却すべき時です」

ヴィクトールの声は低く、しかし鋭く響く。机の上には、辺境の報告書が広げられている。

宰相は葡萄酒の杯を揺らしながら、薄笑いを浮かべた。「辺境伯よ、お前の言う『エネルギー供給網の改革』とは、まさに王国の根幹を揺るがすものだ」

「揺るがすのではなく、救うのです」ヴィクトールが指を差す。「貴公の領地に積み上がる『くず魔石』の山。あれはゴミではなく、まさに金山です」

老宰相の目が微かに光った。領地愛と政治的野心――二つを同時に刺激するヴィクトールの言葉は、巧妙に計算されていた。

***

一方、宰相領では、レオン・フォン・カトレイユが祭壇のような石造りの施設に立っていた。傍らには、若き領主代理が緊張した面持ちで立っている。

「これが……辺境伯が推す技術か」

レオンは頷き、鞄からスライム・ポッドを取り出した。青く輝く樹脂製の袋は、従来の魔石とはまったく異質なものだった。

「カチリ」

ユニバーサル・ソケットに接続する音が清々しく響く。領主代理の息が詰まる。

「では、燃料を投入します」

レオンが領内の倉庫から持ってきた「くず魔石」を手に取る。それは真っ白に風化し、一見するとただの石ころに過ぎない。

**前世の病院で、廃棄されるはずの薬品が、実は貴重な治療薬だったことがある。同じだ。**

「ええい、まさかあのゴミを……」

レオンは無造作に、くず魔石をポッドの中へ放り込んだ。まるで暖炉に薪をくべるように、自然な動作だ。

一瞬の静寂。

そして――爆発的な青い光が迸った。

「な、なにっ!?」

領主代理が目を覆う。ポッド内部で、くず魔石がエキサイティング・フルードに触れ、信じられないほどの魔力を放出し始めた。頭上では、かすかだった障壁がみるみると強固な青きクリスタルへと変貌する。

「ただの石が……魔力を湧き出させている……」

レオンは淡々と説明する。「核魔石一点に依存するのは、血管が一本しかないようなもの。この方法なら、分散型のエネルギー供給が可能です」

領主代理の顔に、戦慄と希望が入り混じった表情が浮かぶ。長年、領地を苦しめてきた燃料問題が、少年の手で論理的に解消される瞬間だった。

***

王都のとある屋敷では、エレナ・フォン・ローレンツが若き王子に対面していた。彼女の手元には、小さなスライム・ポッドが置かれている。

「殿下、これは単なる魔導具ではありません」

エレナの声は理知的で、しかし熱を帯びている。「この燃料は、王国中のくず魔石で賄えます。安価で、そして誰もが手に入れられるもの」

王子の目が輝いた。「民衆を救う力が、これほどまでに身近にあるとは」

「そうです。一部の強者が独占する力ではなく、捨てられたものから生まれる光なのです」

エレナがポッドを灯す。青白い光が、部屋を優しく照らし出す。それは、王都の煌びやかな魔法灯とは異質な、清らかな輝きだった。

***

ヴィクトールの元に、魔導通信が届く。息子からの報告だ。

「信じがたいが、真実だ」

宰相は深く息を吐いた。「我が領地でも……成功したか」

しかし、その成功は波紋を呼ぶ。魔石輸入利権を握る保守派貴族たちは、この「安価なエネルギー」を脅威と見なし始めていた。

「辺境伯の野望を、潰さねばならん」

陰で囁かれる声。変革の機動は動き出したが、巨大な壁が立ちはだかっていた。

レオンは遠い宰相領で、青く光るホースを農地に敷設していた。

**これで、多くの命が救える。でも、戦いは始まったばかりだ。**

夜空の下、三人はそれぞれの場所で、静かな決意を新たにしていた。新しい夜明けは、青き光から始まる――しかし、その道程は険しいものとなるだろう。

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