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青灰の地より  作者: 不病真人
第二部 海が父 第一章 赦されぬこと

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第九十三話 水を飲もう

バサバサバシャッ!

黒い影が急接近する。セオリクが素早く銀色の剣を抜き、怪物の首筋を狙って振り下ろそうとしたその瞬間——

「打つな! まだ誘導が効くはずだ!」


 「一体、何が、どうやってやったんだ。」


 「聞いている場合か、後で言う。もう時間はない。」

思わずに声の主を見る。それ言ったおかしな姿はしていない、食屍鬼を連れている船長みたく蜂が体のそこを囲むようなことがなければ、ほかもない。

かなり普通の、人の姿であった。カロイアンと言う男は。

(誘導と言ったな、なんだ)


 「カロイアン、ことが急がねばならぬが如くにしては、我らは共に歩めんとし、個々ぞにならんでは」


 「ええい、黙れ。お前が言うと頭痛がするわかった。俺には神術がある、それで止めた。」


 「神術...?」


 「む、これ以上は何も言わんぞ、いくらお前らが人の話を聞かないやつとしても言った側から」


カロイアンが鋭く叫ぶ、絶叫だった。

そしてそれと共に騎士姿の存在、セオリクの肩を掴んで斬撃を止めた。

銀色の刃が空中でぴたりと静止する。

 「ふん、してことの」

カロイアンは舌打ちをしながら帽子を直し、苛立った声で説明した。

セオリクと言う存在は思っているよりもかなり、かなりの可能性でわがままかもしれないとラアンドリウスは思った。

「俺は、俺は、音の神術で今、奴らを止めている最中だ。簡単に言えば、特殊な音を響かせて動きを乱してる。規則的に旋回を崩せば、音も出て、羽音も出るんだ、だからしばらく近づいてこられねえ。……時間稼ぎだよ。無駄に斬って刺激するんじゃねえ。」

長話だった、それほどまでに怒りに思ったのだろう。

ラアンドリウスはそう思い、息を荒げながらその光景をぼんやりと見つめていた。

(音...確か鳥は、鳥は音で....混乱する器官が)

彼は考えていた、何処となく薄い記憶を辿っては、かつて医師として、無数の存在を切るして崩して、みてきたような感覚をそこはあった。

いまだに頭の中がまだぐちゃぐちゃで、甘く腐った蜜の味が舌の奥深くにねっとりと絡みついているのに、今は未だかつてないに気が明白して明細の状態のようで。

感覚が蘇る。

(誘導……カロイアンの音の神術……そうか……頭が回らない……だけどもなんとなく理解した。

 「お前」

ガク と眼前が少しまた落ちた。

体は虚弱なままだ。膝が笑い、胸元は重くべっとりと濡れたまま。

そうか、俺は吐き散らかしていた。ランドリウスはそう思った。

 「案ずるこれよ、自惚なきこと。」

セオリク何か奇妙な感想を口にしてはそれが、彼が銀色の剣をゆっくりと鞘に収め、静かに頷いた。

「其の機転、良しとせよ。されど貴公の術が長く保つとは限らぬ。カロイアンよ。してこれとラアンドリウスぞ、立てるとするか。」

「う……ああ……」

三人は素早く船の残骸を離れ、森の奥へと急いだ。


 「なんで森だよ、このまま船ごと流れた方が楽じゃ。」

「水が切れている、おそらくあの流れは、船を連れていた者らの仕業であろうよ。」

 「な、なぜ俺を助ける。」 「またかよお前。」

「貴公が奴らに襲われた、か。」

セオリクは説明するけど、納得のいくようなものではなかった。

その言葉によれば、船に乗る者らが、島に侵入しては、多くの人を殺めてはまたそれを使って船を連れて行けるように、そう水を作った。


 それにラアンドリウスは納得しない。

(だからっていかにも怪物な俺を助けるわけ。)


 「安心せい、我はみてきた。近き頃でいえば我が友ガルシドュースは人が二倍にも大きくなっている。」

それに気がついたようにセオリクも言う。

 「二倍ってお前の友人じゃねぇな。」

「あえばいずれであろうよ。カロイアン、帝国。」


 暫くの沈黙、ただ足音のみ

 「いいや、いい〜や。」

「そうか、ガルシドュース」 「そいつの名前はもういいよ、俺まで帝国の指名になりたくない。いまだけだ、狂人。」

 

 「喧嘩のところ悪いが、何か妙だ。」

背後では聞き覚えのある鳥怪物たちの羽音が不規則に乱れ、カロイアンの音の神術によって動きを阻害は終わったようだ。

 「な、どうにかしろセオリク!」


 「まだ手を出すな...では?」

カロイアンの大きな声に返事をするセオリク、その声色は少し笑いを含んだようであった。

 

 「...悪趣味な野郎だ。わかったよ、ガルシドュースがそんなに強いなら俺もいく、だが帝国と相手になるにはなって、ただじゃ終わらせねぇよ。」


 (交渉手段か、荒い手法だな。)

ラアンドリウスは思った。セオリクは随分と荒っぽい手法で相手に条件を求めるんだなと。

しかし同時に思ったこともあり、それはカロイアンの反応だった。

なぜならばカロイアンの示している反応はそこまでじゃなかった。少なくとも彼が言葉と比べてだ。

 (大体関係がわかった、帝国という存在にこいつらは反抗するか...みたいな関係か、帝国の裏切り者にも思えて..くる...か)

 「ん、うぇ」 えずき

甘く腐った蜜の臭いが羽音によって強まる。

羽音でもないか、風か、鳥たちが起こす風のせいで強く煽られている結果か、匂いが滲み出す感じは鼻の奥を突き刺す。

ラアンドリウスは歩きながら何度も口元を拭った。それでも味は執拗に執拗にと残り、吐き気を誘う。


(しかしこの辛さ。いつもと違う、蜂が抜けたせいか。そうか……)

思わずに彼は隣の存在らをみた。


 (同伴、盟友か。盟友...友...ジョンはなぜそうした。そしてリドゥと言う青年のフリをした彼は....)

 「リドゥ」


 「ん!?貴公よリドゥと言ったか!!?」

ラアンドリウスの朦朧とした口遊は、セオリクの気を大きく引いていた。それも当然だった、ガルシドュースを友と呼んでいる彼ではあるが、その存在と同じくらい長く一緒にいる存在はリドゥであった。

 

 「あ...」

(しまった、しかしどうするここは....嘘をつくべきか...)

 

 「おい見ろ、あれ」

カロイアンの声に釣られて二人はその指差す方を見た。

森の木々が密集する中、古代の石造りの残骸が点在していた。崩れた柱や苔むした壁が、言う。言うようにある。人工的なものだと。

だがそれよりも重要なのは、この岩造のものたちならばわずかな隠れ家になる。


 カロイアンが先頭で道を切り、時折低い音を口の中で響かせながら進む。その音は人間の耳にはほとんど聞こえないが、怪物たちには明確に影響を与えているらしい。

「この臭い、吐き気がするな……なんで」


 「静寂に静寂に、水を含み呼吸を。」

「う……少しマシになった。でも、この甘く腐った蜜の味が……喉の奥に張り付いてる……」

ラアンドリウスがそう答えると、カロイアンは振り返らずに肩をすくめた。

「我慢しろ。吐いてる暇があったら歩け。セオリクはあれでも騎士団だ。戦場救急だし今の。」


 「うむ、貴公」


「いやいい、いい。俺は法務部の人間だし、それくらい知っている、呼吸法とか言うやつだろ。四体液説の、お前の話し方頭痛すぎて嫌だわ。」

 それを聞いたセオリクだったが、苛立ちを見せずにただ銀色の剣の柄に手を置き、変わらずの落ち着いた声で言った。

「其れは巫毒の残り香なり。貴公のから流れし蜂の群れは、魂を蝕む呪いの残滓。されど今、胆液を作りし清きそれがあれば無事であろう。」とこ難しいことを述べているが、巫毒は温暖な地帯に多くあり、対処としては、冷気で冷やしたり、水で薄めるとよくなることが多い。

 

 「そう、かつての教訓時の話ぞ。」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 セオリクが騎士として見習いと言うべきことか。

それが、騎士侍従である時。


「聞きよ、若き力たちよ!」

彼に騎士、ルドヴァッグゥが、太い声で言い放つ。彼の鎧は年季が入り、髭は灰色に染まっていた。

「毒とは温暖なる南方の地に多く巣食うものである。湿りたる森、陽光に焼かれた蛮地にて生まれる呪いは、熱と湿りにてその毒性を増す、巫毒もまた然りそれ元に生まれては、根付いていく。さて、本題だ、魂を蝕むその力は、その呪術師らが編み出した闇の秘儀はな。」

教官は注意を引こうとしたのか剣の柄を叩き、彼に注意している若者たちを見回した。

「されば対処の要は、冷気にてその熱を冷まし、水にて毒を薄めるにあり! 雪山より吹く烈風を呼びたいが、それに近しいものであれば効能は出る。また清水の流れを浴びせるが如く。熱き毒を冷やし、濃き毒を希釈せよ。体内の毒素が脈打つ時、己が意志にて冷気を呼び寄せよ。民草であれば、水を渡すがいい。渡せ!


 「いえ、なぜです。我らは貴族、なぜ賎民なんぞを」


「貴様ぁ!我らは帝国の一員が先だ!忘るるな!」

教官の言葉が、広間に響き渡った。

汗と鉄の匂い、若き騎士たちの緊張した息遣い、どれもが言う。まずいことが起こるはずだと。

 「そして、誰が言葉を発しろといいった、貴様、リグ、セオリク!セオリク!」


 「おい〜セオリク!」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

小さな石室のような廃墟を見つけたところで、三人は立ち止まった。カロイアンがセオリクの名前を呼び声へが、足音を止める声になるまでには少し時間を要したけれども。

ラアンドリウスはそんな二人の様子を気にしていなさそうに壁に背を預け、ゆっくりと座り込んだ。

どうやら体はまだ重く虚弱だが、しかし、頭の霧が少し晴れてきたのか、目に焦点ができたように彼はあたりを見ていた。例えば会話しているセオリクとカロイアンの二人を。

 「懐かしいものだな、ガルシドュースが行いによりこうも多く奇妙な場所を経たが、ここは我が長きいた町の姿に似ている。魔女の」


 「なんだよ魔女って、ガキが聞くあれか、でかっぱなのブス。」


甘く腐った蜜の味が再び込み上げ、口から黒い塊が少量零れ落ちた。床に落ちたそれは、薄汚れた黄色と漆黒が混じり、ゆっくりと泡立った。蜂の羽の欠片が混ざり、微かに震える。

(気色悪い……でも、さっきより量が少ない。体が少し、持ち直してるのか……?でもなぜだ、俺は死ぬはずじゃ)

理解ができなかった。止めどない苦しみがくるだけで具体的な方向も掴めないままにただぼんやりとするしかない。そうするしかなかったラアンドリウス

そこへセオリクが水筒を差し出す。ラアンドリウスは震える手で受け取り、飲んだ。水が喉を通る瞬間、甘腐った後味が薄まるような気がした。

「セオリク……お前はなんで俺を助けた。本当に、ただ力が必要だからか?」

「其れもある。されど、貴公の眼に死にゆく者の諦めとは異う、死ぬ時を迎えるべきでない。」

カロイアンは入口近くで周囲を警戒しながら、苛立った様子で続けた。

「とりあえずもう最後にしてくれ、意思確認は、石のあれが見えたじゃ、暫くは安心できねぇ。」

ラアンドリウスは混乱したまま、しかし少しずつ考えを整理しようとした。

(石...ジョン.....ジョン・フォン、ガルシドュース...ガルシドュースはジョンになった、違うジョンはガルシドュースになった。)

「次はどうする……?」ラアンドリウスが尋ねた。

カロイアンが短く答える。

「森を抜けて、開けた場所にいくのがもっともだろうけど、この騎士は、遺跡を探索したい、お前が出てきた方向の方を含めてだが。」

セオリクが静かに頷いた。

「耐えよ。ただ前へ。黒き泥濘を越えゆけば、清き海沿いの聖地、かつての英雄ガヘベスの逸話にはそうあった。我が叔父上の話であろうよ。」


 「...悪いが、俺のいた場所はまずいと思う。」


 「何故?」



三人は再び動き出した。羽音が消え始めてはなくなったのだ

その間にラアンドリウスはセオリクやカロイアンからの言葉をいくらとも浴びたが、結局は危惧して何もガルシドュースの事を述べていなかった。


(俺たちはまだ、見られているのかもしれない。ガルシドュース....俺の生命の正体...そしてあの少年との約束、何処も見当たるべき目的地はない。だけども今日は、今日はまた終わった。)


 「ラアンドリウス、貴公よ、それは連盟の紋章、さては日々の、帝国の法劫帝へのものか。」


 「ああ、そうだ、そうだとも、なぁ、セオリク、お...れ...私の顔はどう見える?」


 「酷く酷く..酷い」


 「酷いなセオリク、まぁ本当だけどなラアンドリウス。」


 「そうか、やはり、蜂が消えてまともになれるわけでもないか。」


 「貴公よ、死に」


 「大丈夫だ。死は怖くない。行こう、私も、海の父へ。」


 「....左様ならば。」


長き一日を経てだろうか、思いはいろいろ変わりこそしたが、自分が求めるべきものは真実であることは変わりはしない。

カロイアンやセオリクが裏でこちらをどう思っているかもわからない。

しかし信仰や、奇妙な術がいろいろあることが徐々に納得できた。それがどれほど俺の役に立てるかはわからないけれども。


 「日記、は済んだ。」

(日記は済んだ。体調の悪さに取られてしばらくは素の自分でいたけれど、果たして今更、同盟のフリはしてよかったのだろうか。)


 各々の疑問を抱えながらも、出会してしまった。ガルシドュースを介したように、島に存在する人々らは徐々に


 「ところで、君たちはなぜ、私の方を見つけた。」


 「爆音、羽音、そうもしてれば誰でも気づくわ。」

カロイアンの声であった。彼の表情は少し微妙で、まるで、何を言ってるんだこいつとても言いたげな顔であった。


 「爆音...か。」

爆音、それはガルシドュースの起こしたことだろうと、ラアンドリウスは思った。そしてまた思った。この音に気がつく存在はどれだけいるのだろうか、そしてその背景をどれほどの存在を知っているだろうかと、そう思った。


 

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偉大なる神への頌辞

果てしなく偉大なることが実現

始まりの刻より なお遥か彼方の御方

混沌海の深淵より生まれし者

海が父なり

無限の暗黒の胎は 思考を育み

原初の沈黙の中で 目覚めさせた。

存在の黎明以前より在る

時間すらかの影に跪き

運命はその息吹に揺らぐ

閃電の矛を握りしめ

虚空の裂け目を貫く

それこそは光 星々の記憶を焼き

古の神々の名を忘却の底に沈める

矛の先端より滴るる光

生と滅の狭間を照らし出す 

混沌は海にして今も血潮として脈打ち

その波は彼の囁きとなり

その渦は彼の叡智を宿す

我ら 海が父があり

海の主があり

光は 名もなき闇を纏い

見えざる光を宿し

存在を与える

ならば山河はその足音に震え

ならば天界はその視線に溶け

宇宙の鼓動は 父の心音と重なる

おお 神秘なる神よ

永遠の深淵より生まれし偉大なる神よ

始まりなき混沌より生まれし第一なる秩序

貴方の言葉こそが真実にある

誰か知ろうか 我が真の姿を

誰か測ろうか 我が無限の深さを

閃電矛は静かに待ち 混沌海は永劫に我を讃える

我は神

偉大なる 神秘なる 唯一なる神 

永劫の闇と光の彼方にて

全ては我に帰す

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